第23話 男五人、眉を描く
その溜まり場で、ある夜、事件が起きた。
発端は俺だ。「ダイ、眉やろう」と言ったのだ。服が変わり、声が出るようになったダイの、最後の減点が眉だった。
「眉……って、何するんですか」
「描く」
「描く!?」
道具は俺が持参した。俺自身、施術とセルフケアで眉の勉強だけは済ませてある。鏡の前にダイを座らせ、余分な毛を剃り、足りないところを描く。
十分後。鏡を見たダイが、固まった。
「「「…………」」」
見てた同期二人も、固まった。
「……え、待って」
「ダイ、顔が……ちゃんとしてる」
「ちゃんとしてるって何ですか」
「褒めてる。最上級で褒めてる」
同期の一人が、無言でスマホを取り出した。何をするのかと思ったら、仲間の集まりに一報を打ってた。文面が見えた。
『眉毛やばいらしいぞ!!!!!』
やばいらしいぞ、て。伝聞なんだよ。目の前で見ただろ。
ところがこの雑な一報が、効いた。三十分後、ピンポンが鳴った。同期その三。「眉って聞いて」。その二十分後、ピンポン。同期その四。「やばいって聞いて」。
集まってくるな!! 夜だぞ!!
かくして、男五人が順番に鏡の前に座り、眉を整えられるという謎の夜会が始まった。
真剣だった。全員、無言で真剣だった。傍から見たら意味の分からない光景だと思う。いい歳の男たちが、たこ焼き器の隣で、一列に並んで眉を描かれてる。
「……おお」
「変わるな……」
「顔って、額縁で決まるんだな……」
一人ずつ、鏡の前で静かに感動していく。眉である。たかが眉。たかが眉で、人の顔の「ちゃんとしてる度」は二割上がる。
そして事件は、その流れの果てに起きた。
イチが、ぼそっと言ったのだ。
「……ついでに、下も整えたい」
「下?」
「毛、全体的に。ボーボーで」
一瞬の沈黙のあと、部屋が沸いた。誰かが「よし、剃るか!!」と言い、誰かがバリカンを探し、俺は「待て待て待て」と言いながら笑いすぎて壁にもたれた。
詳細は、省く。省くが、その夜、男の友情は一段階、不可逆に進んだとだけ記しておく。整えられたイチは風呂場から出てきて、真顔で一言、
「……軽い」
軽いって。
全員で、腹がちぎれるほど笑った。誰かが例の一報の続きを打ってた。『毛もやばいらしいぞ!!!!!』。届け先の同期その五から即レスが来てた。『何の毛だよ』。
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くだらない夜だった。人生で一番くだらない夜の、上位に入る。
でも帰り道、俺は妙に満ちていた。ステータスは見なかった。見る気にならなかった。今日という日を、数字で確認する必要を、感じなかったのだ。
──今思えば、あの夜も、動いてたんだと思う。あの名無しの数字は。
見なかったから、知らないけど。
見なかったから、動いたのかもしれないけど。
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