第22話 タコパ
ダイの家が、いつの間にか溜まり場になっていた。
きっかけは覚えてない。誰かが「ダイん家、駅近くね?」と言い、誰かが「たこ焼き器ある」と言い、気づいたら週末、男女八人がダイの部屋に詰まってた。
渡り屋の同期たち。その友達。友達の友達。街で知り合って、いつの間にか「仲間」の側に来てた子たち。
タコパである。
「粉、誰が溶かすの」
「俺やる」
「ミナモさん、それダマになってる」
「ダマも味だろ」
「味じゃないです」
「ダマ裁判を開廷します」と女子の一人が言った。「被告、ミナモ。罪状、粉への冒涜」
「異議あり。ダマは食感」
「有罪」
「早っ!? 裁判どこいった!?」
部屋が沸く。粉を溶かし直し、タコを切り、鉄板が熱くなる。じゅわ、という音と、ソースの匂い。狭い部屋に、人の声が満ちる。
女子チームの一人が、たこ焼きをひっくり返す職人だった。竹串一本で、くるん、くるん、と完璧な球を作っていく。
「なにその技術」
「大阪の血」
「そんな血ある?」
「あるの」
くるん。
「今の見た? 回転に、迷いがなかった」
「大阪の血だから」
「血で説明すな」
くるん。
途中、誰かが「一個だけ、からし入れよう」と言い出した。ロシアンたこ焼きである。八個焼いて、一個が地雷。
一巡目、無事。二巡目、無事。三巡目──ダイが、無言で固まった。
「…………」
「ダイ?」
「……っっっ辛」
「当たったwwwww」
「顔!! 顔死んでるwwww」
「昔の目に戻ってるぞ!!」
死んだ目(辛味由来)のダイが水を一気飲みして、部屋は今夜一番の爆笑になった。ちなみにこのロシアンたこ焼き、この夜以降、溜まり場の伝統行事になる。からしの量は回を追うごとに増えた。人類は学ばない。
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途中、ふと部屋を見渡した瞬間があった。
ダイが、彼女持ちの同期の惚気を聞いて、素直に「いいなあ」と笑ってる。女子チームが、恋バナで盛り上がってる。誰も、誰かを狙ってない。誰も、値踏みしてない。ただの、男女の友達の、ただの夜。
俺の視界には、この部屋の全員のタグが見えてた。系統。属性。装い。
でもこの部屋の中でだけ、そのタグが、なんの意味も持ってなかった。
たこ焼きの前では、全員ただの、腹減った人間だった。
「ミナモさん、ラス一いきます?」
「いく」
「あ、それ多分からし」
「先に言え!!!!」
からしだった。俺は水を一気飲みし、みんなが笑い、大阪の血が「罰は等しく訪れる」と焼き場から裁定を下した。
熱くて、辛くて、うまかった。
──帰り道。
夜道を歩きながら、なんとなくステータスを開いた。癖だ。今日の数字を見る癖。
今日の声かけ、ゼロ。札、ゼロ。経験値、ゼロ。
当たり前だ。タコ焼いてただけだから。
そのまま閉じようとして──指が、止まった。
【 ??? 】1
……ん?
動いてる。
ゼロだったやつが、1に、なってる。
(おい。システム)
《────》
(システム!! 見ろ、これ!! 動いてるぞ!!)
《…………確認しました。管轄外項目、数値変動:0→1》
(なんで!? 今日、何もしてないぞ!? 声かけてない!! 札もない!! 攻略要素、ゼロの日だぞ!?)
《本システムの全記録を照合しました。本日のあなたの活動:たこ焼き摂取、からし被弾、水の一気飲み、笑い声多数。……以上です。数値が動く要因は、記録上、存在しません》
(じゃあなんで動いた)
《……分かりません。本システムの数えていない何かが、今日、発生したとしか》
数えていない、何か。
俺は表示を睨んで、二秒考えて、結論を出した。
「……バグの数値が動いた。つまりやっぱりバグ」
《その推論、いつか後悔する気がします》
(うるさい。帰るぞ)
天才的な推論である。口の中に、まだソースとからしの味が残ってた。
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