第19話 彼女ができた、見ろ
セルケとは、繋がった。
札は死ななかった。やり取りが続き、飯に行き、また行き、次の約束が自然に生まれた。順路の定石通りの、ゆっくりした橋の架かり方。
ただ一つ定石と違ったのは、俺が彼女との時間を、攻略として記録しなくなっていったことだ。ノートのその欄だけ、いつの間にか白くなってた。
《補足。彼女と会っている間、あなたは本システムを一度も開きません》
(……言われてみれば)
《数えるものが、ないのでしょう。……良いことです。多分》
多分、て。システムのくせに、歯切れの悪いことを言う。
数ヶ月後、俺たちは付き合った。
さて、ここからが本題である。浮かれた男の話をする。
彼女ができた俺は、昔からの友人・KPに報告した。反応は「は? どこで知り合うのそれ」だった。当然の疑問である。俺の人生のメニュー三行(学校、職場、紹介)のどれでもないんだから。
「駅で声かけた」
「は?」
「だから、駅で。声を」
「は?????」
説明した。半年の助走を、渡り屋を(開眼のくだりは省いた。見えない人に視界の話をしてもしょうがない)。KPは終始「は?」の顔をしてたが、最後にぼそっと言った。
「……見てみたい、それ」
見せた。
後日、KPを駅の隅に立たせて、俺は声をかけた。二件やって、一件が札になった。
戻ると、KPの顔が「は?」の最終形態になってた。
「お前……何者?」
──何者、と聞かれて、俺の中で何かがぷくっと膨らんだのを覚えてる。
半年前、駅を三周して水を二本買って帰った男が、今、友人に「何者」と聞かれてる。
正直に白状する。気持ちよかった。ものすごく。
人に見せるための声かけは、目的から言えば完全に横道だ。分かってた。分かってたが、あの夜の俺は、変わった自分を見てほしかった。誰かの目に映る、以前と違う俺を。
イキっていた、と要約していい。
ただ、一つだけ言い訳をさせてもらえるなら──帰り道でKPが言った「なんか、お前が楽しそうで良かったわ」は、イキりの報酬としては、少し優しすぎた。
あいつとは、この後も長い付き合いになる。それはまた、別の夜の話。
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