第17話 試練
その頃、渡り屋に新しい制度ができた。
「試練」という。期限を切り、その間、毎夜出撃する。週の何度かは団体で回り、上位者が付いて、その場で直しが入る。走り切ることを「結願」と呼ぶらしい。
説明を聞いた瞬間、これは効くやつだと分かった。期限。目標。強制力。伴走者。人が変わるための装置が、全部載ってる。
イチは、入った。
ダイは、迷って、入らなかった。仕事との兼ね合いだと言ってた。
俺は──入らなかった。
理由は、うまく言えない。銭の問題も少しあった。性分の問題も、多分あった。誰かの組んだ日程で走るより、自分の設計で歩きたい、という。どっちも半分ずつ本当で、どっちも半分ずつ、後付けな気がする。
ただ、入らないと決めた時、悔しさはなかった。それだけは覚えてる。
代わりに俺は、入れる回だけ、団体の攻略に混ざった。銀貨で参加できる夜の回。そこには全力で食らいついた。上位者の直しは、一言で成長の角度が変わる。俺はその一言を全部ノートに書いた。帰り道に音読した。次の週に試した。
試すと、鳴る。チリ、、ン。直しの効いた夜は、音が増える。音が増えると、次の直しが欲しくなる。俺は完全に、あの音の犬になりつつあった。
《依存傾向:軽度。……現時点では、健全な向上心の範囲です》
(現時点では、って言い方、覚えとくからな)
《どうぞ。記録はあなたより、本システムの方が正確ですが》
試練組の変化は、凄まじかった。
特にイチだ。もともと研がれてた一撃が、期限の炎で焼き入れされて、別の光り方を始めた。あいつの隣を歩いた夜、世界の駆動音が違うのを感じた。速度が出てる人間の隣は、風が鳴る。
じゃあ独学の俺はどうだったかというと──不思議と、腐らなかった。
道が違うだけだと、素直に思えたのだ。試練は速度が出る。独学は自分の型が出る。同じ山の、違う斜面。頂上で会えばいい。
……と、当時の俺は綺麗にまとめてたが、一個だけ、ノートの隅に本音が漏れてる。原文のまま載せる。
「イチ、伸びるの速すぎ。なんやねん」
なんやねん、じゃないんだよ。何万回、素振りしてる男だぞ。
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