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第13話 詠唱と、鎧


そろそろ技の話を、ちゃんとしよう。


──と思ってたんだが、先にあの夜の話をさせてくれ。技どころじゃない事件があった。


夜の駅を歩いてたら、視界の先に、鎧の女がいた。


鎧。よろい。白と黒の、重そうな甲冑。籠手。肩当て。雑踏の中を、鎧の女がカツ、カツ、と歩いてる。


「……は!?」


声、出た。周りを見る。誰も見てない。誰も、鎧の女を見てない。


え、見えてないの!? 鎧だぞ!? 金属だぞ!?


(システム!! あれ何!!)


《……解析中。……解析中。……該当データ、なし》


(お前でも分からんのかよ!!)


《装いの描画は、本システムの表示機能の一部です。しかし、意味の解釈は、機能に含まれていません》


(自分で表示して自分で分からんの、どうなってんだよ!!)


もう一回、女を見た。──瞬きした次の瞬間、鎧は消えてた。そこにいたのは、黒っぽい重ね着の、前髪の長い、うつむき気味に歩く女の子だった。


家に帰って、渡り屋でもらった教本をひっくり返した。あった。後ろの方の、まだ読んでなかったページに。


『視界は、レベルが上がると、相手の生きる世界を「装い」として描画することがある。驚かないように。それは幻ではなく、翻訳である』


翻訳。つまり俺の視界は、あの子の何かを、鎧として翻訳した。


何を? なんで鎧?


教本は、そこで素っ気なくこう結んでた。


『装いの意味は、教えない。街で確かめよ』


教えろよ!! 教本だろ!?


──この「鎧」の意味を俺がほんとうに知るのは、ずっとずっと先だ。先に言っておくが、俺はこの夜、盛大に読み間違えている。



さて、技の話。


渡り屋で最初に授かるのは、型の言葉だ。俺は後にこれを【詠唱】と呼ぶ。決められた出だしから、決められた流れで進む、声かけの完全な設計図。


馬鹿にする人もいると思う。台本読むだけかよ、と。


じゃあ、その台本の中身を見てくれ。


一言目。「自分が何者で、なぜ声をかけたか」が織り込まれてる。人が知らない相手を警戒する最大の理由は、正体と目的が不明だから。だから最初の三秒で両方を開示する。怪しさの根を、先に抜く。


二言目。相手を褒める。ただし事実だけ。盛った褒め言葉は、盛った分だけ嘘の匂いがする。だから「見たままの事実を、具体的に」。


三言目。答えるのに一秒で済む、軽い質問。重い質問は労働だ。労働をさせた瞬間、人は立ち去る。


……天才かよ。


俺は型を素振りした。風呂で。夜道で。仕事の休憩室で(小声で)。


すると面白いことが起きる。街で、型が勝手に口から出るようになる。考えなくても出る。考えなくていいから、余った意識で相手の顔が見られる。顔が見られるから、分岐を選べる。


そして型が決まると──チリ、、ン。


鳴る。あの音が。


一週間で三回鳴った。三回とも、視界の縁が金色に光って、脳がじゅわ、とした。


《レベル上昇のペース、良好です。……ちなみに、いま少し笑いましたね》


(笑ってない)


《口角の上昇を検知しています》


(検知すな)


型は俺を縛らなかった。逆だ。型が俺の代わりに喋ってくれるから、俺は自由になった。自由になった分だけ、音が鳴った。


──ところで。


型の通りに言った言葉は、嘘なんだろうか。


当時の俺は、考えもしなかった。考える暇があったら、次の音を聞きに行った。


この問いが牙を剥くのは、ずっと先の話だ。


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