第12話 俺たちの装備画面
週半ば、俺とダイは服の店にいた。誰でも知ってる、安くて良い、あの手の店。
正直に白状すると、この時点の俺の服も大概だった。夜勤と床の生活は、服への興味を最初に奪う。つまりこれは、ファッション偏差値38の男が、偏差値35の男を指導する地獄の構図だった。
《訂正します。あなたの服装偏差値は36です》
(一足すな。誤差だろ)
《誤差も数値です》
でも俺には武器があった。研究である。
半年の助走で、声をかける男たちを百人分観察した。ついでに、どんな男なら女の人が足を止めるのかも観察した。正解のデータだけは頭にある。着たことがないだけで。
「いいかダイ。服は、点数じゃなくて減点で見られる。目立つ必要はない。減点をゼロにするだけで、人は『ちゃんとした人』になる」
「……はあ」
「サイズ。色は三色まで。清潔感。攻略要素はこの三つだ」
「……攻略、なんですね」
「攻略だよ。全部な」
棚の間を回った。ダイは最初、値札も見ずに「着れたらいいでしょ」の顔をしてた。服を気にしたことが、人生で一度もなかったらしい。
その男が、試着室から出てきた時のことを、俺はよく覚えてる。
サイズの合ったシャツ。普通の色のパンツ。それだけだ。魔法は何もない。
なのに、鏡の前のダイは、さっきまでのダイと別人だった。輪郭が、一段はっきりした。
ダイは鏡を、長いこと見てた。
「……え、俺じゃん」
「お前だよ」
「服って……こんな、少し変えるだけで、変わるんですね」
その声には、驚きより先に、何か静かなものが混ざってた。
後から本人に聞いた話だが、彼はそれまで、格好よくなる方法といえば整形くらいしか思いつかなかったという。生まれの持ち札で全部決まってて、配り直しはない。そう信じてきた男が、試着室の鏡の中に、配り直された自分を見た。
会計はダイが自分でした。俺は何も買わなかった。
なぜ自分の服より先に、会ったばかりの男の服だったのか。当時の俺は考えてなかった。ただ、あの死んだ目に光が入るところを、見たかったのだ。
この「先に人のをやる」って癖が何だったのか。答え合わせは、ずっと後でやることになる。
オレンジの靴下は、その日は買い替えなかった。「靴下はまだ在庫があるので」とダイは言った。
在庫の問題ではないのだが。まあ、あの靴下は、なんとなく、あっていい気がした。
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