第98話 出口
最後から二番目の夜の話を、二つ。
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一つ目。
ダイの家の、タコパだった。結婚後、初の開催。妻さん(からしの量、ほんとに容赦なかった)と、一門と、KPと、イチと彼女さんまで来て、あの狭い部屋は、過去最高密度だった。
ロシアンたこ焼きでイチの彼女さんが被弾し、イチが人生最速で水を差し出し、「守りの一撃だ」と全員に言われてた。
帰り際、玄関で靴を履いてたら、ダイが見送りに出てきた。
「ミナモさん。……あ、湊さん、か」
「どっちでもいいよ」
「じゃあミナモさんで。──あのですね。俺、最近、後輩に聞かれたんですよ。『ダイさんの人生って、なんで急にうまくいき始めたんすか』って」
「ほう。なんて答えたの」
ダイは、少し考えて、あの、電池の入った目で、言った。
「──人生は、予想以上に、おもろいことばっかりです。けど、賭け金を渋って、ゲームに参加しなければ、クッソつまんない。」
「……」
「とりあえず、色んなゲームに、参加してみろ、って。……偉そうすかね?」
「──いや」
俺は、首を振った。
「お前が言うなら、世界で一番、偉そうじ ゃない」
死んだ目で、藁を掴みに来た男が、震える手で参加したゲームの、これが配当だ。オレンジの靴下から、ここまで。全額、あいつが自分の勇気で賭けて、自分で回収した配当。
この言葉は、俺が書くこの物語の、出口に置こうと、その場で決めた。
今、置いた。
──なあ、これを読んでる、床の上の誰か。聞いたか、今の。俺の言葉じゃないぞ。参加した奴の、実測値だ。
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二つ目。
その帰り道、夜の梟ノ森で、ルドを見た。
三年ぶりだった。あいつは、あの頃と同じ路地の入り口に、立ってた。相変わらず、いい服を着て、相変わらず、笑いながら、誰かと話してた。腕は、上がってるんだろう。所作の完成度が、遠目でも分かった。この街の、最高レベル帯の完成形。
あいつは、まだ、ここにいる。
目が、合った。
一瞬だった。ルドは、俺を認めて、ほんの少しだけ、眉を上げた。よう、とも、まだいたのか、とも取れる顔。俺は、軽く、会釈した。ルドも、顎で、返した。
それだけだった。
声は、かけなかった。かける言葉が、ないからじゃない。──かけていい言葉が、ないからだ。
降りた男が、乗り続けてる男に言えることは、何もない。「まだやってるのか」は裁きだし、「楽しいか」は嫌味だし、「気をつけろよ」は呪いだ。あいつの道は、あいつの道だ。俺が写鏡を一回で畳んで、あいつが使い続けた、あの静かな分岐の日から、ずっと。
ただ、すれ違いざま、一個だけ、思った。
あいつの視界には、今、この街が、どう見えてるんだろう。
──答え合わせは、しない。
俺はあいつの物語の登場人物じゃないし、あいつも、もう、俺の物語の登場人物じゃない。
夜の街に、ルドを残して、俺は駅へ歩いた。
振り返らなかった。
振り返らないことだけが、あの夜の俺にできる、唯一の、礼儀だった。
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