第97話 街への感謝
そろそろ、この物語も、店じまいが近い。
最後に、決算をさせてくれ。俺が、あの街から、ほんとうは何を貰ってたのか。潜らなければ、一生見えなかったものの、リストだ。
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一。鎧は、招待状だった。
威嚇だと三年読み違えてた装いは、同じ戦場の誰かに見つけてもらうための、旗だった。人の硬さは、拒絶じゃない。硬くならざるを得なかった夜の、履歴だ。
二。みんな、普通の人間だった。
攻略対象という謎の生き物は、この世にいなかった。プリンで理不尽を相殺する人と、タイマーをかける人と、見取り図を何十枚も描く人と、コーラを普通に受け取る人が、いた。女、でもなく、男女、でもなく──人が、いた。神秘が解けた場所からしか、対等は始まらなかった。
三。警戒値は、彼女たちの生存判定だった。
俺の視界が「攻略の障害」として表示してた数字は、夜道を歩く側の、毎晩の安全計算だった。あの数字を下げてもらえるってことの重さを、俺は、貰う側のくせに、長いこと知らなかった。
四。俺も、誰かの門だった。
会社と家の往復の夜に、変なテンションの男が現れて、不審者を自称して、笑って、プリンの話をして、消える。あの十分は、彼女たちの日常に開いた、小さい門だったのだ。俺は門を潜る側だとばかり思ってた。潜らせてもらう側だと。
違った。互いが、互いの門だった。声をかけるってのは、自分の日常の扉を、先に開けて見せることだった。
五。──そして、これを最後に置く。
あの三年半は、必要な工程だった。
遠回りに見えるだろ。実際、遠回りだった。でも、俺のコンプレックスは、部屋で考えても一個も溶けなかった。街に出て、断られて、笑われて、笑わせて、拾われて、手放されて──現場でしか、叩き潰せない種類の思い込みが、俺には、山ほどあった。あの街は、俺の、認知の実験場だった。
それに、な。
途中から俺は、「普通かどうか」とか「界隈でどうか」とか、そういうののために活動してなかった。やりたかったから、やってた。大切だったから、通ってた。誰かの作ったゲームの点数のためじゃなく。──それに気づけたことごと、全部が、工程だった。
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このリストを、俺は、誰に提出すればいいんだろうな。
セルケに? ミオに? ノエラに? プリンの子に、コーラの子に、鎧の子に、水を置いてくれた誰か(いるんだろ? 俺は買ってない気がずっとしてるんだ、あの水)に?
──誰にも、出せない。
出したら、重い。今さら届く感謝ってのは、受け取る側に、荷物を持たせる。
だから、匿名の真実として、ここに置く。宛名のない、領収書として。
あの街で俺とすれ違った、全員へ。
止まってくれて、ありがとう。笑ってくれて、ありがとう。断ってくれて、ありがとう(あれで俺は、線を学んだ)。拾ってくれて、書き込んでくれて、手放してくれて、ありがとう。
俺は、いい街に、潜った。
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