第92話 系譜
まっさらの目で街を歩くようになって、気づいたことがある。
俺は、あの人たちのことを、何も分かってなかった。
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無手の人。
手をブラーん。始まる前に終わってる男。俺は三年半、あの人を「技の極点」だと思ってた。計測不能の、最強の使い手だと。
今なら、分かる。
あの人は、技を使ってなかったのだ。構えないことは、技の完成形じゃない。攻略という概念を、手から降ろした人の、ただの立ち姿だ。だから俺の視界は計測できなかった。測る対象が、最初から、なかったんだから。
笑顔の天才。
顔面が焚火の男。あれも技じゃなかった。あの人はたぶん、ほんとうに、街と人が好きなだけだった。好きな場所に立ってる人間の顔は、勝手に、ああなる。
大将。
聞かずに食わせる男。表示のない男。データにいない男。……あの人こそ、この街の零ノ手の、たぶん本丸だ。三年半、一度も俺を攻略せず、一度も俺に何も要求せず、ただ焼いて、水を先に置いて、串を一本、余らせた。
KP。
一度も声をかけない男。缶と、乾杯だけの男。
……なあ、覚えてるか。この街の、古い都市伝説。
──声をかけたことが一度もないのに、一度も独りだったことがない男が、昔いたらしい。
零ノ手の開祖。真偽不明の、伝説。
「…………」
俺は、河川敷の夕日と、缶のリレーの話を、思い出してた。
いや。まさかな。まさか、だけど。
──心当たりが、あるんだよな。一人www
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零ノ手ってのは、奥義じゃなかった。
流派ですら、なかった。
攻略から降りた人間の、それぞれの、ただの日常だった。ブラーんの人はブラーんと立ち、笑顔の人は笑顔で立ち、大将は焼き、KPは飲み、そして俺は、アイスを半分こした。
全員、別の形。全員、同じ場所。
言葉にすると、逃げていく種類の話なので、これ以上は書かない。
一行だけ、ノートに書いた。
「最強の技は、技を置いた手だった」
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