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#009 のびしろしかないわ


 翌日朝食を摂ると「コルネリスが到着した」と兄が部屋に迎えに来た。

 昨夜は少しだけ身の回りの物やペンや羊皮紙とインクにような筆記用具などを纏めて小さなトランクに詰め込んだりしていたので少し寝不足だ。もし試験に合格したら服や生活用品は届けてもらえばいいので最低限をどこまでにするか少し悩んだ。


「メリッサ、支度はできているか?」

「はい、お兄さまいつでも大丈夫ですわ。」

 兄に促されて父親である公爵にも挨拶をした。合格したらそのまま入寮する、だからしばらく帰ってきませんと宣言もしてみた。

 驚いたことに公爵は笑顔をみせた。

「何回でも受けられるのだから気負わずに頑張りなさい。駄目でも次があるから気にしないように。」だって!!!

 私が受かる可能性は全くないと思われているね、まぁいいけど。


「おはようメリッサ嬢、ジェフリーも用意はいいかな?じゃ早速だけど転移しようか。」

 コルネリスが魔法陣の描かれている羊皮紙を1枚づつ渡してきた。

「メリッサ嬢は使うのはじめてだろう?これは行先の座標をはっきり口にしながら魔法陣の描かれた真ん中あたりを破くんだ。そうすると勝手に魔力が発動して瞬間移動させてくれる。俺が手本を見せるから先に行こう。で、メリッサ嬢もやってみて。できたら最後にジェフリーがくるって事でいいかな?」

 コルネリスはそう言うと

「003.323」といいながら羊皮紙を破き溶けて消えるようにいなくなった。

 おぉ~!マナだの読心だのと言っていたけど、初めてファンタジーに転生したことを実感した!感動!

「メリッサ、次に行きなさい。003,323だ。覚えたか?」

「はいお兄さま!ではお先に。 003.323!」

 途中で咳きこんで変な所に行かないように慎重に発音して羊皮紙を破った。


 途端・・・ナニコレナニコレ~~~~~!!!!!

 万華鏡のようなオーロラのようなグニグニ蠢く液体の中に飛び込んだようで息ができない。

「苦しい!溺れるっ!」

 そのまま意識がとんでしまった。



「メリッサ!メリッサ!大丈夫か?」

「メリッサ嬢っ?」

「ここは?」

 私は兄に抱えられて、綺麗に整えられた庭園の大きな東屋の下にいた。すぐ横には半径5mくらいの魔法陣が描かれていて中心に003.323と書かれている。

「メリッサ嬢ここに転移してきた時には気を失っていたんだ。大丈夫か?」

「メリッサ大丈夫か?どうなんだ?私は残念ながら治癒魔法は使えないんだ。今日の試験は無理そうか?」

「ご心配おかけして申し訳ありません。大丈夫ですわ。是が非でも合格しないとまたこれをしないといけないのでしょう?本当にダメなら馬車で帰ろうかしら。」

「メリッサ嬢、ここから首都まで馬車で行ったら1週間以上かかるよ?移動スクロールの転移で魔力酔いをおこすんなら転移ゲートも通れないだろうし・・・」

「え、わたくし魔力酔いをおこしたんですの?なんかオーロラのようなカレイドスコープのようなグニョグニョの中で溺れて気持ち悪くて。」

「へぇ~それ魔力の可視化したものかな。あ~俺も見てみたい!あっごめんごめん。自分のマナに溺れるほど魔力が多いなんて羨ましいな。まだ16歳だからもっと増えるかもしれないね。俺の作ったスクロールは省エネ型でマナを殆ど使わないから、こんどメリッサ嬢用に魔力をいっぱい使うやつ作っておくよ。どう?立てそう?」

「メリッサ少し休んでから試験を受けるか?」

「大丈夫ですわお兄さま。でもすこし眩暈が残っているので立たせていただけますか?」

 ジェフリーが立ち上がろうとした私を制し、抱きかかえたまま立ち上がり歩き出した。?!いままで無関心だった妹にシスコンのようなことしちゃって!

 

 ちょうど予約の時間だったらしく面接の会議室のような部屋に着くと助教授っぽい講師のような人が5人いて、真ん中に置いてある椅子に兄が座らせてくれた。

「先生方、申し訳ありません。妹が転移で魔力酔いをしてしまったようで。すぐに退室いたしますので。」

 兄が私が子供の様に抱えられて登場した言い訳をしてくれた。

 コルネリスは自分が受けたかった講義を聴講しに行ってしまってすでにいない。


「ほぅ。それは自分の魔力に酔ってしまったという事かな?その歳でそんなにマナがあるなんてすごい伸びしろじゃないか。」

「そうですねぇ、自分の魔力に酔うなんて。噂では聞きますけど本当に実在するんですね。」

 ・・・なんか信用されてないね。


「では辛そうなのでとっとと始めてしまいましょう。得意な分野は?」

「はい。私は物理化学が・・・あっ、いえ。数学です。計算は得意ですわ。」

「計算が得意か。では、5384+2783は?」

「8167です」

「・・・・・」

 ん?何この沈黙は。間違えていないはずだけど?

「正解だ。では、今度は少し難しいぞ? 38×74×56は?計算の為に紙が必要なら・・・」

「157,472です。」

「・・・・・」

 あれまた沈黙?って計算してるの?今?出題するなら答えを用意しておこうよ。

「正解です。では最後に、4360÷872+25は?ははは。少し意地悪しすぎたかな。これは間違えてももう一度チャンスを・・・」

「30です。」

 一番左側の先生が今一生懸命筆算してるね。用意しておけばいいのに。

「正解!合格です。では所定の入学手続きは今日されますか?」

「ありがとうございます。このあと兄に手続きしてもらう予定です。」

 

 四人の先生方はそそくさと退室していったけど一番左の筆算をしていた先生が笑顔でこちらに歩いてきた。

「入学おめでとう。君を歓迎するよ。魔力酔いがまだ残っているなら医務室に行ってマナ石をもらってきなさい。少し楽になるだろう。」


 その先生も退出すると同時に兄が入室してきた。

「お兄さま、わたくし頑張りましたわ。」

「あぁ、実は心配だったので張力増幅のアーティファクト使ってすべて聞いていた。メリッサおまえは凄いな。すぐに入学手続きと入寮手続きをしてくるから。アンソニー先生が言う通りマナ石を握って医務室で休ませてもらいなさい。」

 兄はまた私を抱えて医務室まで連れて行った。

 

 医務室は保健室みたいなところかと思っていたけどベッドは置いていなかった。かわりにすごく座りごこちの良さそうなソファーがいくつか置いてある。

 兄は壁一面がたくさんの引き出しになっている薬棚のような場所からマナ石らしい大きな石を3つ取り出して私に握らせた。

「なるべく早く手続きをしてくるからこれを握って少し休みなさい。私が戻るまでここから離れないように。いいね?」


 握らされたマナ石はただの石ころに見えたけど、ひんやりしていて気持ちよかった。

 それはまるで発熱の時におでこに貼るやつみたいな感じで、まふまふのソファーに座るとすぐに眠ってしまった。


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