#007 【Side コルネリス・フォン・ブルターニュ】 親友の妹
「コルネリス!」
俺を呼ぶ誰かの声で目が覚めた。
なんだここは?誰だあんたたちは?
「あぁ、コルネリス、良かったぁ~やっと解毒薬が効いたのね。」
見知らぬ西洋人のおばさんが俺の頭に手を置いた。
瞬間、体の中を彼女の気が駆け抜けて自分が何者になったのかを理解してしまった。
「由吉のやろう!あいつが実験に失敗したせいだ!あいつの隣にいた俺はもろに巻き込まれちまった。」
あいつが広い研究室を借りてみんなで研究ごっこを始めたから俺も参加した。
なぜなら綾波理々沙がその研究室にいたからだ。
大学一年の時からずっとかわいいと思って、サークルも講義もさり気なく同じにして常に一緒にいた。やっとの思いで3年の冬休み前に告白して彼氏になれたのにタイミングが悪すぎた。
綾波の父親が事故で亡くなり1月の試験まで大学に来なかったんだ。そのあとは期末試験と4年生でとるゼミと卒論の事でお互い時間がなく、やっとデートできるかって時に綾波の高校の友人とやらに
「私は最上君の事が好き。付き合ってくれないなら死ぬ!」とか騒がれて結局綾波とはメッセージのやり取りだけでデートもできずに別れることになった。
そのヤンデレ女とは仕方なく付き合ったけど、俺が優しくないとか言ってさっさと去っていった。それでも綾波の事が忘れられずに大学院まで行くことにした。友人として仲良くしていればまたいつかチャンスが来ると信じていたから。なのに加賀のヤツに先を越されてしまった。くそっ!早く別れろ!
見知らぬ西洋人のおばさんはこの世界の、というかこの身体の母親だった。
この家は侯爵家とは名ばかりで、父である侯爵の領地経営が下手過ぎて他の侯爵家に比べるとそれほど裕福ではなかった。でも夫婦仲は良くいつも二人で過ごしているようだ。羨ましい。
俺が憑依したコルネリスというヤツはアカデミーに通ってる。アカデミーの講義は俺にはそうとう面白かった。
計算式で魔法陣をつくってそこに魔力を流して物を生成する。
魔法陣って計算式だったんだ!
面白い!掛け算の場合はここがこうなって割り算と分数はここがこうなるのか!
つまり数式をつくると魔法陣ができる。これって俺向けなシステムじゃないか!
俺は錬金術師になりたかったんだ。
薬草学も面白かった。
薬も解毒剤も作れるけど数式をいじると毒も作れてしまう。じゃあ貴族家の子供たちは解毒薬を習うという事になっているけど応用がきくヤツならかんたんに毒薬も作れるってわけだ。まぁ毒薬用の材料はアカデミーには置いてないけど・・・
「おはようコルネリス」
黒髪の真面目そうな男が話しかけてきた。こいつはたしかオーヴェル公爵家の跡取り息子だな。皇家と同じくらい金持ちなはずだ。元々この身体の主と仲が良かったんだったな。
「おはようジェフリー」
「しばらく休んでたみたいだけどもう大丈夫なのか?」
「あぁ、心配ありがとう。もう大丈夫だ。」
「そうか、良かった。」
しまった、仲が良かったのは俺じゃなくてこの身体だったヤツだから話が続かない。
「コルネリスはアーティファクト作るのが得意だったな?」
ん?そうなのか?そういえば俺の部屋には数式と魔法陣が描かれた紙がいっぱいあったな。魔法陣の原理は理解したし頼まれて作るなら我が侯爵家の家計の足しになるしいいんじゃないかな。何より楽しいし。
「何か欲しいものでもあるのか?」
「瞬間移動用の転移スクロールが残り少ないんで依頼できないかと思ったんだけど、どうかな?」
瞬間移動用の転移スクロール⁈この世界にはなんて素晴らしいものがあるんだ!まるで『どこでもドア』じゃないか!
「わかった。材料があるか確認してからの返事でいいか?」
「よろしく頼む。」
ジェフリーは重そうな本を片手で持ち上げて去っていった。そういえばあいつ剣術の講義もとっていたな。俺も一応武術をとってはいるけど、物理化学専攻の大学院生だった俺にはこの計算式と魔法陣が楽しすぎる。
転移スクロールとやらは簡単にできた。
授業でも習ったけどややこしい計算式で、なんていうか・・・そう、通分! 通分されていないから錬成するときの魔法陣、つまり錬成陣がごちゃごちゃになっていたんだ。だから通分ですっきりさせてみた。
結果、元の錬成陣よりシンプルで発動させるためのマナもほとんど要らない。というものに改良された。
実家はあまり経営がうまくいってないとはいえ大きな屋敷だ。それなりに使用人もいてそこそこ資産はあるわけで、研究室がほしいと父親である侯爵に言ってみたらすぐに用意してくれた。
俺もう由吉が呼びに来てもこのままここで暮らしていきたいかもしれない。
自室にあった膨大な資料は片っ端から整理して実験してみた。寝るのも食べるのも惜しいほど楽しい!
ジェフリーと、厳密にいうならオーヴェル公爵家と定期的にアーティファクトの取引をする契約をした。侯爵と侯爵夫人、つまりこっちの世界の俺の父母はなかなかの親ばかで泣いて喜んでくれた。ジェフリーの妹を嫁にもらったらどうかなんて言い出したがそれは勘弁だ。ジェフリーの妹は頭が悪くて性格が悪いと評判の女で綺麗なだけのバカと言われている。俺はやはり対等な会話ができる女じゃないと無理だ。もう二度と会えないかもしれないが好きな女もいるし。
ある日オーヴェル公爵家から使いの者が来た。ジェフリーが俺を呼んでいるらしい。お得意さまだしすぐに行こう。あ、そういえばアミュレットと呼ばれているお守りのようなアーティファクトも改良したんだった。あれも取引してもらおう。母親が作ってくれたアミュレットを身に着けていなければ俺は数種類混ざった猛毒の解毒が間に合わなくて死んでいただろうと言われた。
お守りって物理的に効くんだな。カルチャーショック!
実際に会ってみたジェフリーの妹はバカではなかった。
事故で意識不明の後に賢くなった?なんだその暗算の速さは!日常的に暗算をしてる者の速さじゃないか。
あれ?もしかして由吉の実験に巻き込まれたのって俺だけじゃない?
あの時俺の見える範囲にいたのは俺と由吉と由吉の向こう側に加賀もいたな。綾波さんはいたかな?
「え、えぇ~合ってるなんて奇跡ですわぁ~」
「メリッサ、触らなくても読めたのか?」
「お兄さまっ!その話は!」
「あぁすまない。」
ジェフリーと妹のメリッサが俺にナイショらしき会話をしている。
触らなくても読める?何をだ?まさか心をとか?そんなわけないか・・・
あれ?俺なんか重要な事考えていたはずだよな?
兄妹の謎めいた会話のせいでその前に考えていたことは霧散してしまった。




