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#039 Charisma & Princess


 私は通常通り錬金術と医術の講義をとりまくって過ごしていたけれど、フレデリックとコルネリスが籠って研究をしているので毎日一人で過ごしている。


 食事も一人、寝るのも一人(いや、いつも一人だからw)、咳をしても一人・・・


 1週間が過ぎようとする頃にさすがの私も淋しくなってきた。

 人間淋しいとマイナス思考になりやすくジェフリーお兄さまの事を考えると涙が出そうになる。

 

 私が絶対にマイナス思考になりたくない理由は予知夢体質だから。

 マイナス思考になってしまうと悪夢を見てしまう事が多くて、悪夢を見てしまうとただの悪夢でも正夢になりそうで怖いのだ。

 「これはただの悪夢、予知夢じゃない!」って思いこもうとすればするほど「予知夢かもしれない。」が潜在意識に入ってしまいそうで怖い。

 そしてどうやらこの「予知夢体質」は長く一緒にいる人に伝染するらしい。

 過去に何人かに「伝染した。」と言われたことがある。


 予備校時代にずっと一緒にいた由吉に「僕も伝染したかも~。」と喜ばれたことがあるけど、その後しばらくしてから

 「なんか予知夢って何の役にも立たないね。」とがっかりされたことがある。

 役に立たないどころか悪夢見た時に必要以上に怯えてるんだから寧ろ厄介ともいえる。


 部屋に一人でいるとよくないと思い、コルネリスに言われた『実験用の通信の魔術具作り』をしようと思い、上級バッチのついたジャケットを羽織って錬金術の研究室に向かった。

 

 指で軽く襟元をさぐりバッチを指先で確認して研究室へと続く階段を上がる。気分も上がる。

 研究室に入るとまず中央の薬草の植え込みのベンチに座る。

 薬草と言っても様々な色の花が咲き乱れていてその合間にある木製とアイアンのベンチに座るのが私のマイブーム。


 「はぁ~・・・ここやっぱりいいな。自分の部屋にいたくない時は何もすることなくてもここにいるのもいいかもしれない。」

 薬の原料になる花だからか香りを嗅ぐだけで元気になる気がする。

 たぶん気のせいだけど。


 「オーヴェル令嬢、めずらしく今日はおひとりなんですね。」

 「アンソニー先生!ごきげんよう。わたくしは今日はひとりですが先生はお連れさまがいらっしゃるのですね。」


 ここに座っているとアンソニー先生に会う確率が高い。というか100%だ。

 たぶんここを通って自分の部屋に戻るからだろう。

 アンソニー先生は髪も瞳もこげ茶色で着ているものも茶系が多く差し色は深緑がお好きなようだ。

 穏やかな雰囲気の中肉中背の40代位の研究者という言葉が似合いそうな先生だけれど、今日は20代後半か30代前半くらいの連れがいる。

 明るい茶髪に瞳は青で、スカイブルーのジャケットに水色のクラバットをしている。さわやかな雰囲気の男性でなかなかのイケメンだ。

 

 あれ?どこかで見たことがあるかも・・・


 「これはこれは。噂の姫君にお会いできて光栄です。」


 ひめぎみ?はぁ?

 今 姫って言った?誰の事?まさか私?

 「姫君とは誰のことですの?」

 そんなニックネームでは呼ばれたことはないはず。


 「この帝国には今、皇后も皇女もいないのでオーヴェル姫君が身分が一番高い女性ではないですか。」

 穏やかそうな笑顔で不穏な事を言う人だよ。

 「何をおっしゃいますの?皇后陛下も現皇后がお産みになった皇女さまもいらっしゃるではないですか!」

 「いいえ、姫君。今の皇后は便宜上皇后と呼ばれていますが即位はされていません。皇后に即位できるのは王位継承権をもつ皇子を産んだ女性だけなのです。なのでその娘も皇女と呼ぶのが正しいかどうかはわかりません。あちらも姫君であることに変わりはないですが。」

  

 そうなの?でもそんなこと重要?みんな皇后って呼んでいるんだからそれで良くない?

 っていうか自分が『姫君』と呼ばれたことが気持ち悪くて身体中かきむしりたい衝動を必死でおさえる。

 ふとアンソニー先生の方を見ると、アンソニー先生も困った顔で笑っていた。


 「オーヴェル令嬢、この方は北塔の一番上に研究室を持つ方でハインリヒ・ダンケルマンです・・・」

 「あっ、魔塔主!」

 

 アニメの攻略対象ででてきたキャラだ!どうりでイケメンなはずだよね。

 なんとなく『魔塔主』と呼ばれるキャラは黒髪に黒マントを翻していそうなイメージだけど、どちらかというとさわやかな貴族の青年っぽい。

 たしかカリスマ的な魔法の使い手で女子生徒にキャーキャー言われていたキャラだったはず。

 まじまじと見ていたらアンソニー先生に笑われてしまった。

 「あ、アンソニー先生。お話を遮ってしまって申し訳ありません。かの有名な魔塔主さまにお会いできて光栄ですわ。」

 「私よりオーヴェル姫君の方が有名ではないですか。」

 「わたくしなんて人より少しだけマナが多いだけですわ。」

 

 あれ?もしかして『悪役令嬢として』有名だってことかな?忘れてたよ自分の設定を。

 「少しじゃないでしょう?魔力酔いを起こすほどですよ?それにとても頭の回転が速い。」

 アンソニー先生が目を細めながら私を褒めてくれる。めっちゃむず痒いからやめてぇ・・・

 

 「マナが多いのは見るからにですね。一般的に皇室を除いて髪の色が濃い方がマナが多いとされていますから姫君は断トツでしょうね。黒曜石のような髪色ですから。」

 えっ?そうなの?お兄さまも黒髪だけどそんなに多くないって言っていたような・・・私に比べてって事だったのかな?

 「濃い方がマナが多いなんてわたくし知りませんでしたわ。皇室が違うというのはどういうことですの?」

 気になることは聞いてしまうのが私。恥ずかしいと言われようがどうでもいいの。

 

 「皇帝の直系は金髪で、金髪は皇族にしかいないのです。金髪はうすい方がマナが多いと言われていますよ。」

 アンソニー先生が笑顔で教えてくれる。よかった、バカにされてはいないみたい。

 そうなんだ・・・じゃあプラチナブロンドのフレデリックは相当マナが多いのでは?

 

 「それはそうと姫君は今日は何かを錬成に来られたのですか?」

 ハインリヒが私の右手に抱えているノート(というか紙束)をじっと見ながら問いかけてくる。

 「えぇ。ブルターニュ小侯爵のお使いですわ。わたくしのノートではないのでお見せできませんが。」

 

 「ちっ・・・」

 えっ?舌打ちした?


 「ハインリヒ先生、何か気分を害されるようなことをしてしまったかしら?」

 そうだと言われてもこの通信の魔術具のレシピは絶対に見せられないけどね。


 「あぁ、失礼。少し『咳』が出てしまいました。それよりもちょ~っとだけ。ちらっとだけでも見せていただけないですか?」

 「申し訳ありません。無理ですわ!」

 食い下がるなぁ・・・こんなことならノート置いてくればよかった。

 覚えているけど確認のために持ってきただけなのに。

 

 「あぁ、そういえば姫君は学んでいないのにスキャンができると聞きましたが。最近体調が悪いのでちょっとだけ診ていただけませんか?」

 嫌だ!・・・と全力で言いたかったけれど、ノートも完全拒否したのでやらないとダメかな。

 こういう時に誰かがいてくれたらいいのに。


 「さぁ。さぁ。」

 破壊力の高いイケメンの笑顔で向こうから手をにぎってくる。

 手を握っただけじゃ読めないんだけどフリでもしたほうが良いかな・・・


 私は握られたハインリヒの手に魔力を流してみた。


 (かわいいなぁ。アマーリエにそっくりだ。あぁ、アマーリエにも会いたいなぁ。)


 勝手に握られてちょっと魔力を流しただけなのに向こうから思考が飛び込んできた。


 え?叔母さまの知り合い?


 ちょっと意外そうな顔をしてしまったかと思いあわてて笑顔にもどす。

 「お身体で悪いところはなさそうですわ。でも素人の診察よりもお医者様に診てもらってくださいませ。」

 ハインリヒは返事もせずに笑顔のまま私の眼を覗き込む。

 無理だ。なんか太刀打ちできない高圧的なオーラがある。逃げよう!


 「では先生方、錬金があるのでお先に失礼させていただきますわ。」

 私は逃げるようにその場を去った。


 私が去った後に魔塔主がアンソニー先生に

 「あの姫君、今間違いなく俺の思考を読んだな。やっぱりか・・・」

 と言ってた事なんて知る由もなかった。

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