#038 リトルタイムストップ
「コルネリス!大変です!お兄さまが戻ってきません!」
私はパニクってコルネリスに向かって叫んだ。
イゾルデ・フォン・ノルディーンから呼ばれた兄が彼女の部屋に向かってから3日と半分が経過している。これは監禁か誘拐を疑うべきだろう。
「そんな・・・だってイゾルデがコルネリスを害するようなことはないはずだよ。だって彼女はコルネリスに想いを抱いているんだから・・・」
コルネリスの目が困惑の色に染まる。「イチャイチャしているだけというオチではないのか?」聞こえるか聞こえないかの声で話す。それはたぶん自分に問いかけているのだろう。
「お父さまからも問い合わせがあったのです。あの兄に限って家に連絡もせず仕事を放り投げて女性とイチャイチャなど考えられませんわ!」
「メリッサ、落ち着いて。落ち着けない気持ちはとてもわかるが頑張って落ち着いてくれ。冷静にならないと見えてこない事も多い。見落としていることに気付けないかもしれないだろう?」
フレデリックが私の肩を抱いて「ほら、深呼吸して。」と優しく背中を撫でてくれる。・・・いや、いらないからそんな優しさは。あいかわらず距離感のバグった皇子さまだ。
「メリッサ、落ち着いたか?小公爵はメリッサの部屋に転移してからイゾルデ嬢のところに向かったのだろう?その時に何か言っていなかったか?」
「あっ、そういえば・・・」
「ジェフリーは何か言っていたのか?!」
「まぁ、コルネリスも落ち着け。落ち着いて対策を練らねばならない時なんだ。理解るだろう?」
「お兄さまは部屋を出て行く時に、何か思いつかれたように『食事までには必ず戻るから絶対に通信の魔術具は使わないでくれ。いいな?』と仰いましたわ。この通信の魔術具をただのブレスレットの様に見せたかった・・・という事ですわね。」
「どういうことだ?ジェフリーは俺には何も言わなかった。イゾルデに久しぶりに会えることを喜んでいるのだとばっかり思っていた。だって俺たち3人は信頼できる仲間だったんだ!」
コルネリスがイラっとして大声をだす。
うん、スリーマンセルっていうのはバランスが難しいものだよね。
「コルネリス、落ち着けと言っているだろう。メリッサが怖がるから大きい声をだすな。在学中に仲が良かった友人を疑われるのは辛いだろう。ただ冷静に考えてくれ。小公爵がメリッサに言った言葉を考えると小公爵の方はイゾルデ嬢を信用していなかったようだ。そうではないか?通信の魔術具がバレたくないという事はそれをとり上げられる可能性があると思ったのだろう。もし監禁されたり誘拐されたりしたと仮定してみてくれ。この魔術具が通信や転移ができるものだとバレるととり上げられてしまうだろう?だがとり上げられないで済んだ場合は隙を見て私たちの誰かに通信と転移を使って逃げてこられる、そう思ったのではないか?小公爵は頭のキレる人物だ。きっと考えがあって対策しているはずだ。」
少し考えればすぐわかる事をフレデリックが静かに諭すように話してくれた。
その通りだ。私は思考力を低下させるほどパニクっていた。
「ねぇコルネリス、この通信の魔術具ってどういう原理で転移できるようになっているんですの?その機能をつかって逆探知することはできませんの?後付けで。」
「逆探知・・・これを使って?そうかその手があったな。あ、でも試行錯誤の途中で何かしらの信号がいってしまうとバレるかもしれない。どうしようかな・・・これは通信して相手が返信した時点で座標を特定する。そこに俺が通分で軽くした、つまり魔力量をエコにした移動スクロールが発動するように魔法陣がくみこまれているんだけど・・・」
私の質問には答えずにコルネリスは自問自答よりも少し大きい声で頭の中を整理している。
これは大学の時に亮ちゃんが流行らせた思考方法で、自分の考えている工程を口に出すことによって他の人にもアドバイスしてもらいやすい状況をつくるやり方だ。
電車やバスでやっていると他の人たちに気味悪がられるけれどフレデリックは気にならないようで普通に口をはさむ。
「これと同じ別のものを作ってそっちで実験してみるのはどうだ?小公爵の魔術具が鳴ったり光ったり振動したりしなかったら良いのだろう?」
「そうだな。今後の事を考えて追跡機能をつけるのもいいな。う~ん・・・相手が反応しないと場所を特定できない今の状況をどう計算式にぶっこめばいいんだ?あ~う~・・・」
「いや、まて、もしかしたらメリッサの呪いを解いた方が遠回りの様で近道かもしれないぞ?」
コルネリスもフレデリックも互いの方は見ずに自分の考えに没頭しているのに会話をしている。
あれ?フレデリックも考えていることを口に出す派?これって理数系の特徴なの?違うよね?亮ちゃんの伝染った?
それって皇族としてはやらないほうがいいのでは?
「それだ!」
コルネリスが突然叫んで私とフレデリックをビクッとさせた。
「どれだ?」
フレデリックがまるで以前からの知り合いのような自然さでコルネリスの思考を問いただす。
「殿下が今仰った『メリッサの呪いを解いた方が遠回りのようで近道』ってやつですよ。今の俺じゃ落ち着いてマルチタスクできないからやることを一つに絞りたいです。メリッサの能力でブーストかけてもらわないとジェフリーを助けるための魔術具も考案できそうにありません。なら殿下の研究のお手伝いをした方が建設的な気がします。やりましょう!俺、徹夜でもかまいませんよ。メリッサとジェフリーを助けられて、その上自分の能力を底上げしてもらえるなんて最高じゃないですか!でも一応で悪いけどメリッサはこの通信の魔術具をいくつか作っておいてくれるか?実験用の。一人で作れるよな?」
「えっ、えぇ。もう一人で作れますからいくつか作っておきますわ。」
徹夜で・・・ってやる気満々みたいだけどフレデリックはそれでもいいの?
これは私が止めないといけないヤツ?
「ありがとうコルネリス! よしっ。コルネリスの能力でヒントがもらえるなら百人力だ!呪いの波動の逆算ができるまで籠るから手伝ってくれ!では必要なものを纏めてきてくれないか?私の研究室で寝泊まりしてもらおう。」
あ、止めちゃいけないヤツだった。
仕事が忙しくて間が空いてしまってすみません
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