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#037 南北戦争


 特殊能力は本来は秘匿するものだと叔母のアマーリエが言っていたから

 フレデリックの能力については追及しない方が良さそう。

 もしも共闘するようなことがあれば教えてくれるだろうから。


 それからしばらくは穏やかな日が続いた。

 私は錬金術の上級クラス(アドバンス)と医術の初中級クラスビギナーインターミディエートに隙間なく出席していたし、コルネリスはフレデリックの部屋に詰めてフレデリックの仮定の数式を二人で完成させようと頑張っている。

 研究以外ではコルネリスはオーヴェル邸から持ち帰った夫人の魔術具を調べていたし、フレデリックは武術と剣術のクラスに出席しまくっているようだ。

 

 以前と変わったことは、私とフレデリックとコルネリスが一緒に食事をするようになったことだ。

 二人はお互いに苦手意識はあるものの、魔法陣の構築のための数式を作る事については認め合っていて一日も早く私の封じられた力を開放してくれようとしてくれている。

 つまり、食事中もほとんど研究についてのディスカッションで大学院の学食を思い出してほっこりできる。当然わたしも研究についての見解には参加させてもらっている。

 

 楽しい!

 


 「メリッサちゃんお久しぶり~何しているのぉ~?」

 錬金術のクラスの後ノートの整理をしていたら久しぶりにマリーブラウンと会ってしまった。

 「マリーさん、お久しぶりですわ。」

 「もぉ~メリッサちゃん上級クラスに上がっちゃったから寂しかったんだからぁ。あ、でも私ももう少しで上級クラス(アドバンス)に上がれそうだよっ。メリッサちゃんこのあと少し時間ある?カフェテリアお茶でもしよぉ?」


 この『イケ略』のストーリーが私や亮ちゃんという『異物混入』によって少し変わってきている気がする。私がアカデミーに来るより前に皇太子とヒロインは出会っていたし、二人は仲がいいけれど恋人関係になることはあり得ないと言っているし、亮ちゃん(コリネリス)に至っては攻略対象のくせにヒロインを苦手なタイプとか言っちゃっている。

 そういえば物語の成り立ちとか細かい設定はあいかわらずわかっていない。

 

 「マリーさん、お茶じゃなくて図書室に連れて行っていただけないかしら?わたくし少し調べたいことがあるんですの。」

 「えっ、そぉ~なのぉ?マリーもね、ちょうど調べたいことがあったから一緒に行こ?」


 このアカデミーの図書室には初めて来たけれど南棟の1階と2階が吹き抜けになっていて蔵書集も凄そうだ。

 1Fだけで高校の時の体育館の倍はある。

 私は司書のお姉さんにこの国の歴史の本を三冊選んでもらって読書スペースに運んでもらった。

 読書スペースも身分によって分かれているようだ。連れてきてもらって知らんぷりもどうかと思うのでマリーを皇族、公爵家用のクローズドキャレルに呼んであげて二人で読書を始めた。

 ヒロインのマリーとは『そこそこ仲良し』くらいの関係を維持したいので、二人で静かに読書なんて良すぎる。

 マリーは化学の本に没入しているので私も歴史の本を読み始めた。


 前にフレデリックが言っていた話が気になっていたので調べたかった。

 3代前の皇帝、つまりフレデリックの曾祖父の時代に南北戦争のようなことが本当に起こったようだ。

 その時代は皇帝の力が弱く各諸侯が群雄割拠していて、その中でも南のオーヴェル家と北の辺境伯が2強だったようだ。

 オーヴェル家は元々は皇族の血統なので皇室が管理していた南の肥沃な土地を領地として下賜された。

 それに対し北の辺境伯家は他国や魔物から国を守っているにも拘わらず気候にも恵まれない作物も育ちにくい土地しか与えられず不満が募ったようだ。つまり、わかりやすく言うと皇族派と貴族派の対立の始まりだったというわけだ。

 現皇帝は政策が上手く帝国民からの支持も高い。 現にこのアカデミーだって学びを受けたい者は身分にかかわらず無料で受けられる。しかも授業料だけじゃなく衣食住すべて帝国の予算で賄われている。それだけでも凄い事だよね。

 話は戻るけど、南北戦争っていうのも北の方の管理しにくい領地をもつ領主達が辺境伯に加担して喧嘩売ってきたけれど、南はオーヴェル家というよりは帝国の軍隊にねじ伏せられた。というのが真実らしい。

 我がオーヴェル家とは北の方の諸侯に憎まれていた。って感じなのね。

 領地を持つ貴族家はvon(フォン)~と名前についているけれど、von(フォン)ABCだとすると、ABCという領地を持つ・・・

 という意味になるらしい。


 じゃあコルネリスが仲が良かったと言っていたイゾルデ・フォン・ノルディーン令嬢は、ノルディーン領を収めるノルディーン家のイゾルデって事で『北の貴族』ってことだよね。

 3代も前のいざこざってどんな感じなんだろう?

 オーヴェル家は喧嘩売られたから買った。でも皇帝が先頭にたった。みたいな感じだし。

 今度の食事会の時にお父さまに聞いてみよう。

 

 自分の家系に関係のある歴史に頭を傾げていると、ふとマリーと目が合った。

 「南北戦争を調べているの?」

 いつものメタメタあざとい喋り方じゃなく普通の話し方だ。


 フツーにしゃべれるんじゃん・・・


 「えぇ。我が家に関係しているようなのですが残念ながらわたくし何も知らないのですわ。」

 「あぁ、もしかしてオーヴェル家小侯爵とイゾルデ令嬢の話ぃ?お二人はアカデミー時代とーっても仲がよかったのでしょう?あぁ、ロミオとジュリエットみたいで素敵ぃ♥」


 あ、喋り方戻った。


 いやいや・・・

 イゾルデさんはお兄さまに好意をよせていそうだけど、お兄さまは無表情だしどう思っているのか。



 寮に戻ると兄から連絡が入った。

 今日は兄とフレデリックとコルネリスで情報の共有を兼ねた食事会の予定だけど、1時間ほど早く来たいという。

 「わたくしもお兄さまとお会いしたいので早く来てくださるのは大歓迎ですわ!」

 「メリッサすまない。実はイゾルデから何回も手紙を貰っていて、そこのルクス寮にいるから会いに来てくれというのだ。このあとメリッサの部屋に転移したいのだが構わないか?」

 「えぇ。もちろんですわお兄さま。」


 兄は私の部屋に転移すると嬉しそうな顔でハグをしてくれたけれど、すぐに無表情にもどった。

 部屋を出て行こうとしたジェフリー(おにいさま)はふと考え込む仕草をして

 「食事までには必ず戻るから絶対に通信の魔術具は使わないでくれ。いいな?」

 「えぇ、大丈夫ですわ、お兄さま。決してお邪魔は致しませんので楽しんでいらしてくださいませ。」


 災難は忘れたころにやってくる・・・

 ふふふっと笑って見送った兄はその後、何日たっても戻ってこなかった。


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