#036 派閥?
「メリッサ久しぶりに家族で食事でもどうだ?」
未だ顔色が優れないお父さまが初めて見る優しい笑顔で私に問いかける。
「お父さま、フレデリック殿下がわたくし達が戻るのを、わたくしの部屋で待って下さってますの。次の週末にお兄さまに迎えに来てもらって帰って来ますので来週でも構いませんか?今日はコルネリスもいますし。」
私が初めて公爵と食事した時は緊張で味もわからずとても疲れた。コルネリスが同じ事になったらかわいそうだ。
では、とコルネリスにエスコートされて手繋ぎで移動しようとしたら、
「待て」
と公爵に止められた。
「殿下が待ってらっしゃるならば殿下に連絡をとってメリッサ1人で戻りなさい。婚約者はたてないといけない。」
そういうものか・・・と通信具でフレデリックの魔法陣に魔力を注いで呼び出した。
「メリッサ!大丈夫か?怪我はないか?」
フレデリックが繋がるなり急き込んで問いかける。
「大丈夫ですフレデリックさま。無事すべて終了致しました。」
やはり私の部屋で待っていたらしくひどく心配そうな顔をしている。
次期皇帝陛下がこんなに感情を顔にだすのはどうかと思う。
「お久しぶりです殿下。」
公爵がフレデリックに話しかけるとフレデリックが『しまった』という顔で
「久しいな公爵、色々あったようだが息災で何よりだ。」
と、とり繕った声で答えた。
「殿下、娘と仲良くしてくださりありがとうございます。どうぞよろしくお頼み申します。」
お父さまが普通の親の様な事言ってるよ。なんて思っていたら
「公爵!メリッサ嬢は本当にすばらしい人だ。賢くて美しくて優しい、皇后になるのにこれほどの人材は他にいないだろう。婚姻の承諾に礼を述べたい。」
今度は破顔して私を絶賛する。公爵は見たことない嬉しそうな顔で頷き、父と一緒にいる時はいつも無表情の兄も嬉しそうな顔をしている。
というか・・・
『皇后?!』
私、このままこの世界にいたら皇后になるの?!
そうだよね、皇太子と婚約しているのだから・・・
あ、でも婚約破棄される予定だった!忘れていた。
「来週末にメリッサと食事をすることになったので殿下もご一緒にいかがでしょうか?それまでに公爵夫人のメイドはすべて解雇して夫人の部屋も調査しておきます。娘の為にも是非。」
「メリッサのためにと言われるならば断わる理由はない。喜んで招待をお受けしよう。それと小公爵、先程メリッサの部屋にイゾルデ・フォン・ノルディーン令嬢からメッセージが届いたので小公爵に伝えると伝言を返しておいたが大丈夫だっただろうか?」
「ありがとうございます殿下。後でそちらに向かわせていただきます。」
あれ?イゾルデという令嬢はコルネリスとお兄さまとお友達で、お兄さまの事がお好きだったように見えたけれどお兄さまは無表情のままみたい?
まぁ、いいや。フレデリックがずっと私に部屋にいるのも気になるからさっさと戻ろう。
「では、わたくしお先に失礼いたしますわ。」
皆に心配をかけないようににっこりと笑い余裕しゃくしゃくの振りをするけれど心臓はバクバクだ。
何を隠そうこの通信の魔術具で一人で転移するのは初めての経験だから。
ドキドキしながらスマートウォッチ型のアーティファクトの転移の魔法陣に魔力を流した。
酷い立ち眩みの様に目の前が真っ暗になって、落ちる系のアトラクションの胃が上に置いて行かれるような感覚に陥った。
「あっ・・・」
転移するなりふら付いてよろけたらしく、たたらを踏む私をフレデリックが抱き留めてくれた。
「メリッサ!」
思い切り抱きしめられてむせてしまう。恥ずかしい・・・
「フレデリックさま、痛いです。わたくしそれ程よろけたのでしょうか?もう大丈夫ですので放してくださいませ。」
「違う。これはキュートアグレッションというやつだ。すまない。抱きしめて投げ飛ばしたい衝動を抑えている。」
「投げ飛ばさないでくださいませ。」
「わかっている。でも可愛くて仕方ないのだ。とても心配だったぞ?無事でよかった。」
「フレデリックさま・・・」
「ん?どうしたメリッサ?」
「私の封じられている能力ですが、『能力増強』でしたわ。」
「バフか!」
え?この世界でも『バフ』ってフツーに言うの?・・・まぁ日本のアニメなんだからおかしくはないのか・・・
「えぇ、バフです。だから残念ながらわたくし自身の攻撃力はたかくありませんでしたわ。」
目からビームも出ないっぽいしね・・・
「何を言うんだ?!バファーがいればそれぞれの能力が上がるんだぞ?たとえば、小公爵は『一手先がわかる』と言っていたが、上がる能力値によっては未来予知につながるのだぞ?」
「わたくしの力がそんなに強いとは思いませんわ。」
「力の強さはマナの量、つまり潜在的な魔力量によって決まる。メリッサの魔力量ならば充分期待ができる。小侯爵は『数式が浮かぶ』だったか?それだって強化されたらどのような力になると思う?『こんなものが欲しい』が考察無し、研究無しで次々と生み出されてしまうのだぞ? あぁ、でもメリッサの呪いを解くためには使えないのか・・・残念過ぎるな。」
呪いを解かないと私の能力は使えないからフレデリックがずっとしていた研究のお手伝いにはなれないんだね。
それは残念。
「メリッサ!」
コルネリスが戻ってきた。
「コルネリス、遅かったですわね。」
「あぁ、一応公爵夫人の部屋を漁って部屋にあった魔術具をすべて持ち帰ってきた。俺は公爵夫人がもっと頭いい人かと思っていたんだ、頭がいいというか狡知が働くというか・・・けど思ったよりも残念な感じだっただろ?なら黒魔術の達人というよりは道具に頼っている可能性も高いかもしれないって言って公爵とジェフリーにすぐに夫人の部屋から集めてきてもらった。これから何の魔術具なのか調べるつもりだ。」
コルネリスが持ち帰った魔術具のいっぱい入っている箱を嬉しそうに見ている。
「コルネリス、君はノルディーン令嬢とは仲が良いのか?」
「はい、殿下。イゾルデは在学中からジェフリーの事が好きだったようです。卒業前はいつも三人で一緒にいてジェフリーもまんざらじゃないと思っていたんですが今日のジェフリーの反応はあまりよくありませんでしたね。会うのを面倒がっているような雰囲気でした。」
「・・・公爵の前だったからではないか?」
「どういうことでしょうか?」
「ノルディーン領は北にある。一方オーヴェル領は南だ。北方の貴族と南方の貴族が仲良くなれるはずないと思うのだが・・・」
「殿下、そんな考えは古臭いですよ。敵対していたのは祖父母の時代だって聞いています。俺らの世代でわだかまりなんて時代遅れです。」
「そうか、杞憂ならばよいのだが・・・」
フレデリックとコルネリスが何の話をしているのかわからなかった。
北と南?南北戦争でもあったのかな?
今度調べてみよう。
そいうえば・・・
「フレデリックさまの特殊能力はなんですの?」
フレデリックがあからさまに聞こえないふりをした。
え?聞いたら失礼だったのかな?
キュートアグレッション(Cute Aggression)
赤ちゃんや動物など可愛すぎるものを見た際に、無意識に「潰したい」「噛みたい」「きつく抱きしめたい」といった攻撃的な衝動を感じる心理現象です。実際には危害を加える意図はなく、可愛さのあまり感情がオーバーロード(圧倒)した結果生じる、ごく自然な心理的二面性とされています。




