#035 決戦の日曜日
日曜日!
予定通りみんな私の部屋に集まった。
アマーリエ叔母さまは現地集合らしく兄だけ来ている。
「お兄さま、コルネリスは同行するのですか?家族の集まりなのに大丈夫なのですか?」
「えっ?メリッサ、まさか俺を置いていくつもりなのか?」
「違いますわ、コルネリス。コルネリスがいないと不安なので確認しているのですわ。」
兄が私とコルネリスの会話を聞いていてふっと笑った。
「コルネリスは一緒に行ってもらう。コルネリスは我が家に魔道具を作ってくれる契約をしているから『移動スクロールの納品に来た』という事にしてもらおう。ただ、フレデリック皇子はここに残ってもらった方が良いと思われます。」
「私は留守番なのか?」
フレデリックが『The落胆』という顔で表情を曇らせる。
「申し訳ありません殿下。殿下が同行しない方が良いとアマーリエが考えた理由は2つ。1つは殿下が皇后以外のドラクレシュティの者には表立って敵対しない方が良いだろうという事。2つ目は殿下がここに残っていただければメリッサに危険が及んだ時に殿下と通信の魔術具を使ってすぐに殿下の元に転移できるという事です。コルネリスの所にはこれの大元の魔術具が置いてあるのでコルネリスがいれば戻って来れますが、メリッサだけになった時に戻ってこれなくなってしまうのです。」
「なるほど。では私はメリッサのベッドで寝て待てば良いのか?」
「ご自分の部屋で待っていただければ大丈夫です、殿下。」
「・・・わかっている。冗談だ、気にするな。」
フレデリックが冗談を言ってみんなを和ませようとしてくれたんだね。
でもなんで顔が赤いの?
「メリッサ?」
「なんですか?お兄さま。」
「なぜ自宅に戻るのに制服を着ているのだ?ふだんアカデミーでは着ていないだろう?」
「あぁ、これはドレスに比べて裾が短いので動きやすいですし、この制服は鞄を持たなくても良いようにポケットがいっぱいついているのですわ。」
「暗器をたくさん忍ばせているのか?頼もしいな。ではまず私が移動スクロールで戻るからコルネリスがメリッサを連れて転移してくれ。メリッサが転移酔いをしないようによろしく頼む。」
久しぶりに会ったお父さまはとても顔色が悪く執務室で椅子に座ってはいるが背もたれに寄りかかっていて少し辛そうだ。
私とコルネリスがお父さまの執務室に転移してきた時にはもうアマーリエ叔母さまは執務室に置いてある応接のソファーに座ってお茶を飲んでいた。
「お父さま、お久しぶりです。とても顔色が悪くてらっしゃいますがお加減はいかがですの?」
「お前が直してくれたそうだなメリッサ。おかげで一命をとりとめた。ずっと寝ていたから体力が落ちているだけだ。心配ない。」
私がメリッサになってからそれ程多く接したわけではない。けれど、お父さまは元々は武人で姿勢よく浅く座っていたので、椅子の背に寄りかかっている姿は初めて見た。
「大丈夫よ。メリッサこちらに来てあなたもお茶をいただきなさい。」
アマーリエがお茶を勧めてくれたので反対側のソファーに座って一息つくことにした。
緊張したらダメ!Take it easyだよ!
コルネリスがすぐ横に座って「もう少しでエンカウントするから力抜いとけ。」と誰にも聞こえない声で囁いてくれた。
そうだった!ゲーム感覚!
全員揃ったので執事のゴードンが公爵夫人を呼びに行った。
公爵の呼び出しなのですぐに来るだろう。
お父さまは本当に公爵夫人が嫌いらしくイライラした表情になった。その横の執務机に座っているジェフリーお兄さまは無表情だ。
「お父さまは本当に公爵夫人がお嫌いですのね。」
「そうね。アーサーだけじゃなくて私もとても嫌いよ。皇帝命令で再婚せざるを得なかった事が悔しいわ。」
私の独り言にアマーリエが答てくれた。
コルネリスが今のうちにと、そこにいる全員にピアスとネックレスを装着させていた。
ピアスは2点カメラでネックレスはそれを記録するマナ石でできている。
6人分作るのに私もかなり協力したから足りなきゃ私だけでも作れるようになっている。
ゴードンが戻るとすぐにマティルダがやってきた。
「お呼びでしょうか?旦那様。」
マティルダは執務室に入るとすぐに笑顔でお父さまに挨拶をした。アマーリエがいることに少し眉をひそめたけれど
私と目が合うと急に高飛車な態度で上から見おろし
「ふん、まぐれでアカデミーに入れたらしいけどもう追い出されたのね。頭悪いんだから大人しくしていればいいのに!」
と言い捨てた。
私ではないメリッサが虐待をされていた記憶がどこかに残っているのか私の身体がビクッとして震えだした。
コルネリスが震えるわたしの背中をトントンと軽くたたいて
「ほら何ていうの?フラグたて乙!とか言っておく?」
と囁いてくれた。
あ、そっか。
「チープなフラグだね。ザコ感丸出し!スライム級かな?」
思わずコルネリスと二人で声をだして笑ってしまったのがマティルダの逆鱗に触れたらしい。
「なんなのっ!何をわけわからない事言って笑っているのっ生意気な!」
マティルダが『これが日常』という感じで私に平手打ちをしようとするのを見かねたアマーリエが扇子で叩いて止めた。
「私の姪に何をするの?まさか貴女、メリッサの面倒を見ると言って暴力をふるっていたのではないでしょうね?!ここがどこだかわかっているの?公爵の執務室よ!」
マチィルダが急に青ざめてそーっと公爵を見てひきつったように笑った。
私もつられてお父さまを見ると般若の面のような顔になっていた。
おぉ!転生初日に最初に会った時もこんな顔してメイドを断罪していたね。
「マチィルダ、私の娘をバカ呼ばわりしたのか?アカデミー始まって以来の好成績の娘を?バカはお前だ!」
マティルダがプルプル震えている。 やっぱりスライム?
「あらあらどうしたの?マチィルダ。顔が真っ青よ?どこか悪いのではなくて?そうだ、アーサーが言った通りメリッサが優秀だからちょっと診察してもらいなさいよ。ここに座って!さぁ早く。」
叔母さま上手い!
「あっ、わたくしで宜しければ診させていただきますわ。こちらにお座りになって手をお出しになって。」
公爵夫人が私の側に座って横目で睨む。
もう睨んだって怖くないよ。スライムだからw
「どうした!マチィルダ。まだ私の娘をバカにしているのか?早く姉上が言った通り、手をだして診てもらえ!」
私に手を差し出すのをためらっていた公爵夫人が公爵のダメ押しで私に手を差し出してきた。
すかさず手を握って魔力を流す。
公爵を怒らせて怖くて何も考えていないのか心が読めない。
私はおもわずアマーリエを見た。
「あらメリッサどうしたの?魔力が足りない?そういえばマティルダもマナが多かったわよね?貴女はなんの特殊能力なの?」
さすがアマーリエさらっと聞いてきた。
(あたしの能力ですって?冗談じゃないわよ。なんであんたに教えなきゃいけないの?なにか攻撃的な能力とかウソ吐いとく?でもバレるわねそれは。はぁ、あたしの能力が『能力低下』とかシャレにならないわ。この子の力は『能力強化』だったから封じておいたけど、地味過ぎて人に言えないわ。)
私はアマーリエに二回瞬きをして見せた。
「あら、マティルダ。もしかして恥ずかしくて言えないような能力なのかしら?じゃああなたの家門のルーツたどれば黒魔術を習得できるのではなくて?」
(何を言っているの?この女はっ!ルーツなんかたどらなくてもドラクレシュティの末裔は全員黒魔術使えるわよ!違法になってしまったけどね!ゲハイムブントにこの子を殺すように依頼したのになんでまだ生きているのかしら!)
突然マティルダが手を乱暴に振り払ってきた。
「なんなのよ!さっきからっ!生まれつきの能力なんて他人に簡単に言うわけないじゃない!あんたもいつまで私の手握っているのよ気持ち悪いっ!旦那様!何か私に御用があって呼ばれたのではないのですか?
御用がないのならば失礼させていただきますわ!」
「用はあるから呼んだんだ。おまえがメリッサの馬の鞍に細工をして落馬させるように仕組んだらしいな。命令をうけた使用人が証言した。」
「は?何を仰っているのかわかりませんわ?!」
「ウィルフレッド!こいつを東棟の地下に連れて行って監禁しろ!よかったなマティルダ。おまえの大好きな東棟の地下だ。メリッサを何回もそこで甚振ったのだろう?それも証拠があがっている。殺されないだけありがたいと思え!」
「いやぁぁぁぁぁぁ私は知りませんわ旦那様!誤解っ・・・そう!誤解ですわっ。」
「問答無用!」
マティルダが連れ去られた後、私はさっきマティルダから引き出した情報を皆に共有した。
「ゲハイムブントにメリッサを殺すよう依頼をしたのは知っているわ。だって私の組織ですもの、依頼を受けたけれど遂行するわけないわ。」
アマーリエが高らかに笑う。
コルネリスも違う意味で笑っている。
「ホント、フラグたて乙だったな。しかも能力がバフとデバフって!」
いや、ホントだよ。私の能力バフだった。
医学の上級クラスまで進んで回復魔法を覚えて『賢者』になるかな・・・
どうせなら『魔法戦士』になりたかったな。
どっちにしても私の性質じゃ後衛だけどね。
もうマティルダから毒を盛られたりする心配はなくなって良かった。それなりに復讐もできたし・・・
このダンジョンは楽勝だったね~なんて冗談を言っている場合ではなかった。
この一件が原因でオーヴェル家とドラクレシュティ家の全面戦争になるなんて全く予想していなかった。




