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#034 Take it easy.


 叔母のアマーリエとお兄さま(ジェフリー)はスマートウォッチ型のアーティファクトが使えないので移動スクロールで帰っていった。

 このスマートウォッチ型のアーティファクトは通信した相手がいて初めて転移できるので、同じものを持っている人がいないところには行けないのが難点だ。

 

 


 「メリッサ、ちょっといいか?」

 コルネリスが思い立ったように話しかけてきた。

 

 「たぶん作っておいた方がいいものがある。今から錬金術の研究室に行きたいんだけど、助手頼めるかな?」

 コルネリスはもう頭の中で計算式を組み立てている最中らしく、私に話しかけてはいるけれどこちらを見ない。急いで何かをしたい時の最上君(コルネリス)の癖だ。

 「わかりましたわ。今すぐの方が良さそうですわね。ではフレデリックさま、ごきげんよう。」

 頭の中に構築したものがある時に、すぐに行動を起こしたい気持ちは私にもよくわかる。申し訳ないとは思いながらフレデリックに退出を促した。

 

 「まてメリッサ、今日は一緒に食事をする日だったな?私よりコルネリスを優先するのか?」

 あれ?知らない間にフレデリックがコルネリスを名前呼びしている。これは仲が良くなったの?悪くなったの?

 「フレデリックさま、申し訳ありません。フレデリックさまよりコルネリスを優先するのではなくフレデリックさまよりも錬金を優先するのですわ。」

 「私よりも錬金が優先・・・」

 フレデリックの笑顔が消えて思案顔になった。

 しまった!と思ったけど仕方がない。これだけは譲れないよね。

 だって私は錬金術師だもん!

 

 「では私も錬金術の研究所に同行しよう!」

 フレデリックは自分が錬金術より下と言われて気を悪くするかと思いきや、なぜかわくわくしながら研究所に同行したいと言い出した。

 

 「フレデリックさまは錬金術の中級バッチをお持ちですか?」

 行くのはいいけど、行けるの?

 

 「しまった!錬金術の講座は初級までしか受けていないから中級バッチは持っていない。あぁ、私は入れないのか・・・」

 フレデリックが絶望した顔になった。

 

 おぉ!美形な顔は絶望しても美形なんだね。

 そんなことより、コルネリスが知らない間にいなくなっていた。

 きっと計算式と魔法陣を考えながら先に研究室に行ってしまったらしい。

 私がちょっと狼狽えているとフレデリックがようやく笑顔に戻った。


 「コルネリスは計算式の事しか頭にないのだろう。先に出て行ってしまったようだ。一刻も早く思いついたものを書き留めたい気持ちは私にもよくわかる。では、メリッサは一人では危ないから私が研究室の入口まで送っていくよ。食事は作ろうとしている魔道具(アーティファクト)ができた後で良い。是非食事をしながらその説明をしておくれ。」

 フレデリックがにっこり笑って左手を差し出した。


 フレデリックはとても物分かりがいい人みたいだね。婚約者より錬金術が優先なんて言ったら普通は怒るんじゃないかな・・・っていうか同じ人種のニオイがするよ。


 研究室の入口までフレデリックにエスコートしてもらって、自分の『上級バッチ』を使って研究室に入った。

 コルネリスはどこに行ってしまったのだろう。

 スマートウォッチ型のアーティファクトがあるから連絡が取れないわけではないけれど、自分の考えを纏めている最中なら通話で邪魔をされたくはないだろう。

 円形に配置された研究室をぐるりと見回すと、コルネリスが扉も閉めずに作業机に向かって何やら書きなぐっている姿が見えた。


 いたいたw

 一人で始めてしまう前に計算式と手順を見せてもらわなきゃ!

 急いで研究室に入り鍵をかけて何を書いているのかを後ろから覗き込むと、2つのレンズとそこから三角形に置かれたマナ石を配置している設計図が見えた。

  

 「あ、わかっちゃったかも!3Dカメラだね。」

 「そう。それと音声を記録するための装置だ。持っていた方がいいだろ?」

 設計図の下に計算式が書いてあって、今はそれを魔法陣に書き換えている。コルネリスが書いている手も止めずに事務的に答えた。


 「そうだよね。私たちの命を狙う人たちにこれから立ち向かっていかないといけないんだもんね・・・実感ないけど。」


 例えば無農薬の野菜に虫がついていたら食べるのに戸惑うけれど、農薬がいっぱいついていても気がつかないからおいしく食べてしまうのと同じで、誰かに命を狙われているということよりもアカデミーの人たちに悪意を向けられる方が辛いと思ってしまった。

 やっぱり私はもっと根本的な事に目を向けられなければこの世界では生きていけないのだろう。

 

 「そうビビらなくてもいいんじゃないか? 理々沙はさ、RPGとか対人ゲームとかやった派?」

 「そんなにやり込んではいないけど有名なタイトルはやったかな・・・なんで?」

 「だってここ『乙女ゲームがベースのファンタジーなアニメ』の世界なわけでしょ?なら『ゲーム感覚』で挑んだ方がいいと思わん?『殺される前に殺す』なんて事現代人の俺らには無理だって。なら『敵キャラをやっつけてクリアする』くらいの感覚でいかないと。ビビったり倫理的に考えているうちにゲームオーバー、つまり簡単に殺られちまうんだぜ?魔法で錬金までできるんだし特殊能力まで授かっているわけだし。由吉がよく言ってたじゃないか。難しいことに挑むときこそ『Take it easy』だって。」


 「ゲーム感覚か・・・それもそうだよね。今のままじゃせっかく授かっている異能も使う前にやられちゃいそうだもんね。」

 

 「落ち着いた?このところずっと険しい顔していたもんな。さぁ、じゃあ『旅立ちの支度』をしなきゃだろ?フィールドに出る前に何を準備したほうが良いか考えないと!俺たちの一番の武器はなんだ?」


 「錬金術・・・」


 「そうだ。俺たちはバトマスみたいな前衛じゃないんだから準備は入念にしないとな。日曜は材料とりに行くくらいの感覚で行った方が緊張しなくていい。だけどいつイベントが発生しても大丈夫な準備はしておかなきゃだろ?イベントリは紙に書き出して考えてみな?服装は隠しポケットがいっぱいあったほうがいいな。まだ錬金術で何ができるかわからないだろうから今回は俺に任せてくれてもいい。だけどマナ石は用意しておいたほうがいいだろう。ほら、力抜いて!まずは始まりの街から出て敵の顔を拝みに行こうぜ?怖そうだったら逃げればいいんだからさ。」

 

 「ありがとう。不安で仕方なかったけどなんか楽しくなってきた。私のパーティは頼れる人がいっぱいいるんだもんね!」


 ・・・ちょっと後衛ばっかりな気もするけど。

 よし!フィールドに一歩踏み出してみよう。

 

ランクイン通知が来ました。

ありがとうございます!!!

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