#032 アマーリエ・フォン・オーヴェル
「私が公爵の様子を伺うのは社交辞令ですわ。何の問題があるのかしら?」
皇太子と言い争う事に全振りしていた皇后が不意を突かれた結果顔にすべて出てしまい、挙句の果てに普通過ぎる言い訳をしてきた。
今彼女の頭の中は『誤魔化せる返答』を求めて右往左往しているはず。
チャ~ンス!
コルネリスを振り返ると『いけ!俺がフォローするから』という顔でニヤリと笑った。
「陛下!」
私はそれとなく皇后の手を両手で包んだ。
「陛下、その通りですわ。健康伺いは社交辞令ですもの!そうそう!わたくし、医学の講義を受けていて体の具合を調べる訓練中ですの。」
そう言って皇后の手から魔力を流した。
「お父さまにも会うたびこれをさせていただいてますの。」とにこりと笑って見せた。
(なんなの?この小娘。結局オーヴェル公爵は生きてるの?死んだの?摂ると即死の毒だったはず。 それが確認できなければ計画が進められないじゃない!あの方もイライラなさっているのに!早くこの小娘と生意気な皇太子を殺ってしまいたいわ!)
あぁ、やっぱりね。
「いけませんわ陛下!心臓が弱っているようです。何か思い通りにならないストレスを感じていらっしゃるのかもしれませんわ。」
当然大嘘だ。手を握っただけではスキャンはできないからね。
「ですので、早くお戻りになってお休みになられてください。心臓も心配ですが休息をとられませんとお肌も荒れてしまいそうですわ!」
私のわざとらしいはったりにコルネリスが笑うのを我慢してゲフンゲフン言っている。
「あら?そうなの。少し思い通りにならないストレスは確かにあるわね。お肌が荒れるのは厄介なので今日は戻らせていただくわ。ではお先に失礼するわね。」
わざとらしいはったりでも皇后には通用したようでいそいそと教室を出て行った。
「あの方は何をしにここまでいらっしゃったのでしょう・・・」
アンソニー先生が唖然とした顔で呟いた。
「それはそうと、オーヴェル令嬢は手をかざさなくてもスキャンできるのですか?」
「まさか!ちょっとスキャンしているふりで、早くお帰り頂けそうな事をさりげなく提案させていただいただけですわ。それよりアンソニー先生、ザビーネ先生が顔色も悪く辛そうにされていますので医師にちゃんと見ていただいた方がよろしいのではないでしょうか?」
「あぁ、そうですね。では我々はお先に失礼します。」
「アンソニー先生、今日はありがとうございました。味方になっていただいて本当に嬉しかったですわ。」
「では我々も寮に戻るか。」
先生方を見送ったフレデリックが私の手をとった。
コルネリスがこれ見よがしにムカッとした顔をしたけれど、一応婚約者であるフレデリックがエスコートしようとしているのに他の男性と並んで歩くのは無理だろう。
コルネリスは私が皇后の考えを読んだことがわかっているから早く知りたいんだろうね。フレデリックを睨みながらイライラしてるみたい。
ところで・・・
フレデリックの事はどこまで信用していいのかわからない。
フレデリックと婚約したところまでは原作通り。でも婚約するのはヒロインのマリーに出会う前のはずだった。私がフレデリックの事が大好き過ぎて嫉妬でヒロインに危害を加える未来なんて本当に来るのかな?ストーリーを変えたいとは思わないけど断罪は全力で阻止したい。
コルネリスが最上くんだったんだから、フレデリックは加賀くんだったらよかったのに。
でもそれはないな。
だって加賀くんはこの『イケ略』のストーリーを知っている。メリッサが悪役令嬢で断罪される役だって知ってるなら私にこんなに親切に接してくれるはずないもの・・・
フレデリックがいつ敵になるはかわからないけど、彼がおもったより人格者だっていう事はわかった。
なら私も彼を信用してできるだけ誠実に接しよう。
一緒に寮の私の部屋に戻ったコルネリスとフレデリックに
「『なんなの?この小娘。結局オーヴェル公爵は生きてるの?死んだの?摂ると即死の毒だったはず。 それが確認できなければ計画が進められないじゃない!あの方もイライラなさっているのに!早くこの小娘と生意気な皇太子を殺ってしまいたいわ!』って皇后が思ってた。」
一緒に戦う事になるんだし私の能力はフレデリックにもカミングアウトすることにした。
「はっ!やっぱりか。わかりやすすぎたもんな。ってか、メリッサのその能力はフレデリック殿下も知ってるのか?」
コルネリスがそう言ってフレデリックを見た。
「どういうことですか小侯爵?」
「そういうことです殿下。」
「なるほど!」
ええっ?!今のコルネリスとフレデリックの会話でわかりあっちゃったの?!
「フレデリックさま、今の会話ですべて理解なさったんですの?」
フレデリックが寧ろなんで聞くんだとばかりに
「あぁ、理解した。もう今更メリッサが、何ができても驚かないよ。貴女は充分に凄すぎるから。どうせスキャンの技術を応用して他人の心が読めちゃった・・・とかそんな感じなのだろう?」
フレデリックさまぁ~!
ついうっかりときめいてしまいました。短い付き合いなのにわかられている!
「メリッサ?そのような可愛い顔で私を見てどうした?」
コルネリスが激しく咳ばらいをする。
「んんんっ!変な雰囲気作るのやめてください!それよりジェフリーに共有したほうが良くないですか?」
「はぁ・・・まぁそうだな。メリッサ、つづきは二人きりの時に。新しい通信具をジェフリーに渡してあるのか?」
新しい通信具とは私が最初のを盗まれてしまったのでコルネリスと二人で錬金で作り直したものだ。
コルネリスがスマートウォッチのようなマナ石に刻まれているいくつかの魔法陣の中からお兄さまの魔法陣を選んで魔力を流した。緑色の光で魔法陣が浮かび上がり、その上にお兄さまの顔が投影された。
「ジェフリー?俺だ。」
「どうした?コルネリス、メリッサは無事か?あぁ、そこに皆揃っているな。私達もそちらに行った方がいいな。待っていてくれ。」
「私達?お父さまもいらっしゃるのかしら?一人だったら一緒に転移できるのでしたっけコルネリス?」
「いやメリッサ、手を繋いでいれば一緒に転移できるように改良したから右手と左手に繋げば1つのアーティファクトで3人移動できるようにした。」
そんな話をしていたらお兄さまが左手に誰かを連れて現れた。
「お兄さま!」
『とりあえずビール!』のような感じで『とりあえずハグ!』をする。
「あ~よしよし。元気になって良かったな。」
嬉しそうな顔で頭をなでなでしてくれる。
私がいつかこの世界を去る時が来たら一番辛いのはこの兄との別れになるのかもしれない。
お兄さまは『異世界』を知らなかったから100%この世界の人なわけだし。
「もし違っていたら失礼だが、貴女はアマーリエ・フォン・オーヴェル令嬢か?」
兄が連れてきた人をそっちのけで兄を堪能していたら、耐えかねたフレデリックが気を使って話しかけてくれた。
「ええ、フレデリック殿下、お初にお目にかかります。わたくしアマーリエ・フォン・オーヴェルと申します。アマーリエと呼んでくださいませ。」
黒い髪にアメジストのような瞳、長い髪を後ろに黒いリボンで無造作に結んである。ドレスではなく騎士のような肩章のついたコートにジョッパーズとロングブーツ姿で、美しい事は美しい。けれど、とても求心力がありそうでどちらかというと『かっこいい』と言う方がしっくりくる女性だ。
「あの・・・はじめまして?叔母さま・・・メリッサですわ。」
はじめましてといってしまっていいものか・・・同じ敷地内の別邸に住んでいる叔母に一度も会った事がないはずはないが、理々沙は初めて会う。
「まぁ、メリッサ。記憶障害があるというのは本当だったのですね。貴女のせいではないのだから気にしないでね。」
あっ、そうだった。私はこっちで目が覚めた時から記憶喪失と言う設定だった。私は頷きながらアマーリエを見上げる。
「貴女の事なら貴女よりもよく知っているわ。だから心配しないで。」
「実は今日、医学の講義でメリッサを侮辱したザビーネという教師を断罪していたら突然皇后が現れたのです。一連の毒殺未遂も皇后が関係していそうですね。」
「まぁ、殿下。ザビーネという教師は元は皇后の側近の治療師だったのですわ。ドラクレシュティ家の末裔の者です。」
「えっ?」
私とフレデリックとコルネリスがびくっとなった。
皇后は頭悪そうだけど、いつでもここに来られるように自分の臣下の教師を配属してあったってこと?
「さらに言うならアンソニーという教師もドラクレシュティの末裔です。でも自分の配偶者と子息をドラクレシュティの親族に殺されて恨みに思っています。どこまで対立しているか、敵討ちを考えているのかまではわかりません。優秀な教師ですので可愛がっていただくのはいい事ですがどちらかはっきりするまでは油断なさらないでくださいね。」
「叔母さま!皇后はわたくしたちを殺したいと考えていました。彼女が元凶なのでしょうか?」
私の質問にアマーリエは何も言わずにニコリと笑った。
皇后が言っていた『あの人』って誰の事だろう・・・




