#030 何かが変わりそう
「はぁ、やっぱり私の部屋でランチすべきだったな。」
寮の食堂でフレデリックとランチをしていたら、私の隣にしれっとコルネリスが座ってきた。
この後 例の医術初級クラスの講義を受けるにあたってフレデリックから『お昼に食堂で待ち合わせしましょう』というメッセージを貰った。なのでその場の流れで一緒にランチをしていただけなのに、コルネリスが私たちを見つけて隣に座った事がフレデリックには不満だったらしい。
「俺も講義受けますよ。そもそも俺が先に一緒に出ると言ったのだし、ジェフリーに報告しないといけないですしね。」
「でも、私が一緒に受ける事になったのだ。」
フレデリックが拗ねた顔になった。
えっ、何その顔!かわいい!撫で回したい!
結局、私はフレデリックにエスコートされて東棟に向かい、少し後ろからコルネリスがついてくる事になった。
中央棟から東棟に向かう間に私の顔をみて嫌悪感を顕にした人が何人かいたけれど、フレデリックに一睨みされビクっとして逃げていく。
ちょっと『ざまぁ』で気分がいい。
私が皇太子に恭しいエスコートをされて教室に入っていったので教室の中がざわっとした。
さすがにみんな皇太子の顔は知っているようで、どう反応していいかわからないようだ。
このアカデミーは帝国で運営していて、授業料も寮の部屋代も食事代も制服代でさえ無料、つまり皇室で払ってあげているようなものだ。皇太子に印象悪くしたい者はいないようだ。
さぁ、私に何かしたいのならしてみなさいよ。とまでは思わないけど、フレデリックと一緒にきてよかった。
フレデリックもその雰囲気を察したのかこちらを見て蕩けるような笑顔をみせてくれた。
あ、私達が仲が良いように見えるアピールなんだね?!
私もフレデリックの腕を掴んで笑顔を返した。
フレデリックがはにかむように笑うと周りの女子生徒たちが赤面する。
ふふっ。婚約破棄&断罪予定の私だけど今だけはこのイケメン皇子の婚約者であることを誇りたい。
私のせいで罪人になったという女教師がアンソニー先生と一緒に入ってきた。
アンソニー先生は私を見て嬉しそうに笑い、女教師は私の顔を見て悔しそうな顔になる。
「私が何をしたというのですか!公爵令嬢を転ばしたり踏みつけたりしたのは私ではございませんよ?そもそも令嬢が大それた嘘を吐いたせいで他の生徒たちの反感をかったのではありませんか?それも私のせいだと仰るのですか?!」
アンソニー先生がその女教師が罪人にあたるので自分が監視にきたと告げると女教師が耐えかねて開き直った。私が大怪我しても嬉しそうに笑っていて治癒魔法もかけてくれなかったくせに・・・
「そもそもオーヴェル令嬢が嘘を吐いたとは私は全く考えていませんが、その発言自体が侮辱にあたることは理解してますか?」
アンソニー先生が挑発する様にその女教師に反論する。
「なにを証拠に嘘だと決めつけるのです?相手は公爵家の令嬢ですよ?確証がおありなのですか?」
アンソニー先生は私がしたことを全く疑っていないようだ。
「ではアンソニー先生は身体のなかの毒を魔力でスキャンして場所を特定し、それを動かすほどの魔力のある人間が実在すると仰るのですか?」
「証明すればいいんじゃないか?」
突然後ろの方に座っていたコルネリスが立ち上がり発言した。
「そうですね、証明していただきましょうか?貴女は子爵家出身の教師でありながら、公爵家の令嬢を証拠もなく嘘つき呼ばわりし侮辱したのです。その上生徒が令嬢に危害を加えても笑ってみていただけで治癒魔法も施さなかったそうですね。なら毒を飲むくらいしても良いのでは?」
アンソニー先生がコルネリスの意見を受けて怖いことを言い始めた。
今までアンソニー先生をおっとり系の方だと思い込んでいたけど違うようだ。びっくり!
「先生、罪人ならば危害を加えても罪にならないのですよね?」
「そうですね。帝国法で罪人は人間扱いされていませんので罪になりません。仮に無理やり服毒させたとしても罪にはならないでしょう。」
コルネリスとアンソニー先生が同時にニヤリと笑った。
あっ・・・なんでコルネリスが無理やり講義についてきたか理解した。
アンソニー先生と打ち合わせてたね。これ・・・
「先生、私が死なない程度の毒を持参しています。」
フレデリックが突然参加してきた。
フェレデリック、おまえもか?!
アンソニー先生がどこからともなく杯を持ち出しフレデリックが毒を盛る、コルネリスが押さえつけて飲ませるという地獄絵図が展開された。
いくら罪人だとはいえ女性を相手に酷い仕打ちだ。
「やめてくださいっ!」
もう見ていられないと思わず叫ぶと
「メリッサはもっとひどい目にあっただろう!許せるか!」
コルネリスが叫び、フレデリックも深く頷く。
激怒しているのは小侯爵と皇太子だ。私に危害を加えたり便乗した者たちはあきらかに怯えている気配がする。
「ひっ」という声があがった。
激怒しているコルネリスとフレデリック、震撼している受講生たちの空気をぶった切ってアンソニー先生がワクワクした顔で私を振り返った。
「さぁ オーヴェル令嬢、スキャンと毒の移動見せてください!さぁ!さぁ!」
アンソニー先生は私が侮辱されて怒っていたというより、見たいという好奇心でコルネリスと手を組んだ訳だったんだね・・・
これ見せちゃっていいの?という気もするけれどやらざるを得なくなり解毒ショーをする羽目になった。
押さえつけられたまま毒で苦しそうにしている女教師に手をかざしスキャンを試みる。
「胃に毒があり全身に広がりつつあります。あと、脹脛に炎症反応があります。」
コルネリスに手渡された透明のマナ石に毒を集めていく。
机の上にこぼした砂を手のひらで一か所に集めてゴミ箱に移す感じだ。
透明だったマナ石が少しづつ紫色に変わっていくと教室から
「おぉ!」という声が上がった。
元々お父さまやフレデリックが盛られた毒に比べると弱い毒で量も少なかったので苦労せずに解毒ができた。
解毒された女教師は驚愕の顔で私を見ている。
「脹脛・・・ここに来る前に鞭で打たれたから・・・」
受講生たちは何を見せられているのか理解が追い付かないのか物音ひとつ立てず表情も固まったままだ。
時が止まったような静寂の中私が一人オロオロしていると腕に着けているスマートウォッチ型の通信の魔術具の呼び出し音がした。
思わず腕の自分の作ったばかりのアーティファクトを見るが反応がない。
そしてコルネリスでもフレデリックでもない。
というより古い方のアーティファクトを鳴らしているのがフレデリックだった。
フレデリックが素早く音の出るところに移動し、持ち主の腕をねじり上げた。
持っていたのは、私の上に転がってきた太った令嬢だ。
「お前がメリッサのアーティファクトを盗んだのだな。連れていけ!」
フレデリックが叫ぶとどこからともなく皇室の騎士が現れ太った令嬢を連行していった。
「さぁ、メリッサを突き飛ばした者と踏みつけた者も名乗り出よ!誰がやったかはすべて調査済みだ。今更とぼけるなら罪が重くなると思え!」
フレデリックが絶好調の笑顔で高らかに叫んだ。
・・・もういいよ、講義受けようよ?




