#028 四面楚歌
私の事が気に入らないのなら無視して欲しい。
チラチラこっちを見てヒソヒソする必要ってあるの?
それって『あんたはバカにされてるんだよ!凄く嫌われてるんだよ!プ~クスクス』ってアピールだよね?
最初の数分は聞こえよがしにヒソヒソされる悪口にイラっとしたけれど、授業が始まったらそんな感覚はなくなってしまった。
回復魔法って面白い!
元の世界にも治療系の気功師のような人たちもいたけど、こっちの世界は基本的にマナを使う。
つまり、魔力の源であるマナが少ない人は回復魔法を習得してもほとんど治療はできない。せいぜい傷跡が少し綺麗になる程度らしい。
スキャンの技術も然り。
魔力を多く使える人が身体の悪いとことを見つけるレントゲンやCTスキャンやMRAのようなことを魔法を使ってできるわけで、平均的な魔力量の人には無理ってことらしい。
なるほど、身体をスキャンした挙句に毒を動かすなんてそんな魔力がある人はほぼいないだろうし、スキャンしても体の構造がわかっていないとどこが悪いのかもわからないって事だよね。
普通の現代人は五臓の位置と役割位は知っているけれど、この世界の人たちがどの程度人体構造について知識があるのかわからない。
じゃあ、医学知識がないはずの私が身体をスキャンして毒の位置をみつけ、しかもそれをうごかせるだけの魔力量があるなんて噓つきと呼ばれても仕方ない訳だ。
許す!
講義に満足して教室を出ようと出口に向かって歩いていると、いきなり後ろから誰かに押されて前方にスライディングするように転んだ。
顔と膝と左腕を床に打ち付けられて痛みに耐えながら起き上がろうとした時、こんどは後ろから来た多分私を突き飛ばした人に「あっ危ないなぁ!」と言われ床についていた左手を踏まれた。
その上「いやぁ~」といいながら太った令嬢が私の上にわざとらしく転んできて立ち上がろうとしていた腰を強打されて再び転んでしまった。
「あらあら、出口を塞いだら危ないですわよ。」
教壇から成り行きを見守っていた回復魔術の女教師が楽しくて仕方ないという声で笑いながら言い放つ。
「痛い思いしたらほら吹いたことを少しは反省するんじゃないか?」
誰だかわからない意地悪な物言いの一言でまた教室に爆笑がおこる。
なんなの?
ここで怒っても多勢に無勢で反論されるだろうし、泣いても面白がられるだろう。
転んだ時に顔を思い切りぶつけているので口の中が切れているらしく血の味がする。
口をつよく引きむずび痛みを堪えて立ち上がって何もなかったように寮の方向に歩いていく。
背中に侮蔑の視線を浴びながらなんとか中央棟を横切りルクス寮の庭園迄歩いてきた。
「メリッサ?」
庭園で読書をしていたらしいフレデリックが駆け寄ってきた。
お昼に喧嘩をうったばかりなので正直会いたくないし、こんな姿も見られたくはなかった。
黙ったまま通り過ぎようとしたけれど腕をつかまれもう一度名前を呼ばれた。
「メリッサ、どうしたのだその顔は!頬が真っ赤になっているではないか!膝からも血が出ている。何があったのだ?!」
明らかに自分を嫌いだと思っている者の中で講義を受けた後なので、自分に向けられた優しさに涙が零れる。
「フレデリックさま・・・」
ひきむすんでいた口を開いた途端、口腔に溜まっていた血液が流れ落ちた。
「うわぁぁ!メリッサっ!誰か早く医師を呼べ!いや、待て私が運ぼう。」
驚いたフレデリックが私を抱きかかえて走る。
寮の食堂の厨房の横に学校の保健室位の大きさの部屋があり魔法陣のかかれた床がある。
こんなところあったなんて知らなかった。
皇室の使用人専用につくられた連絡用のものらしい。
厨房の方から使用人が一人急いでやってきて医師の手配をしているようだ。
「メリッサ、いつも手首に着けている連絡用の魔術具はどうした?」
フレデリックが私の腫れあがった腕と手首を冷やしながら聞いてきた。
「えっ?・・・教室を出る時までは腕に着けていたのですけれど・・・」
あれって違法だからとフレデリックがコルネリスを脅したんだから、他の人に知られたらかなりまずいんだよね?
さっきの教室に戻って落としていないか調べるべきだろう。
でももう、心も身体も痛くて意識が落ちそうだ。どうしよう・・・
「そこで何があったのだ?何かの講義を受けたということか?誰の何の講義だ?」
ここで公爵家の令嬢として泣き言は言いたくないので「なにもなかったですわ・・・」と言うのが正解だろう。
だけど違法らしい内緒の魔道具を拾われたり盗まれたりしたかもしれないとなると話は別だ。
昼、フレデリックに腹をたててアカデミー中央棟の食堂に行った時からの話を事細かにすべて話した。
恥ずかしい。あれほど他人に嫌われて悪意を向けられたのは初めてだ。
本来は悪役令嬢なんだからあっちが正解なのかもしれないけれど・・・
私の説明を聞いたフレデリックがわかりやすく腹をたててくれた。
「なんだって?!帝国の公女に対して何たる無礼!!それよりもまずいな。あの魔道具で通信ができるのは問題ないが転移ができることは絶対に知られてはならない。さて、どうしてくれるかな・・・」
フレデリックは困ったなと言いながら全然困った顔などしておらず怒りで湯気がでそうな顔で笑っている。
頼もしい!あとはまかせた私の婚約者さま!
少し安心した私はそこで意識を落とした。




