#026 【Side フレデリック・アーサー・ド・エルラード】忸怩
予想に反してメリッサ・フォン・オーヴェルは悪女ではなかった。
ここは理々沙と由吉と観た何とかって言うアニメ映画の中なはずだけど設定だけ一緒でストーリーは違うなんてことはあり得るのか?
そもそも自分はフレデリックという皇太子でメリッサと婚約後にマリーという女主人公に会って恋に落ちるという設定だったはず。
映画の途中で寝てしまったから細かいことはわからないけど、途中で設定が変わるなんてあり得ないだろう。
だとするとマリーという女は考察の仕方や鋭い着眼点などが好きで仲良くしたいだけで、異性として言うならは苦手なタイプだ。
むしろ頭が悪くて嫉妬深いという設定のメリッサは噂とは全く違ったし、話の仕方も雰囲気も振る舞いもドストライクだった。
なんか理々沙に似ている気がするんだよな。
まさか中身は理々沙かなんて聞くわけにもいかないし、このまま元の世界に戻れないなら彼女が婚約者なのはラッキーだ。
もし戻れないならばメリッサと仲良くなりたい、恋人のような関係になりたいなんて理々沙に対して不誠実なのだろうか?
理々沙に二度と会えないなら・・・いや、二度と会えないなんて考えたくもない・・・でも、メリッサとも仲良くなりたい。
そういえば、マリーにメリッサと仲良くなりたいと言ったら「もし拒まれたら秘密の部屋作って監禁しちゃいなよぉ。協力するよ。」と怖いこと言われた。
あいつは純粋無垢なヒロインではない。親友としては好きだけど、女性としては怖すぎる。
俺はこんなに気の多い男じゃなかったはずなんだけれど、この葛藤で毎日堂々巡りを繰り返している。
メリッサと恋人関係のような付き合い方をしなければ、ただそばにいて仲良く過ごすだけならば理々沙も許してくれるかもしれない。
こんな考えた方はずるいというのはわかっている。自分だって○○ちゃんも××ちゃんも両方好きとかほざいて二股かける男を、本能だけで生きている獣かよって思っていた。
・・・獣は俺もだった。
それにしてもコルネリスってヤツは信用ならないな。あいつ絶対にメリッサを狙ってるだろう。
婚約者とは毎日会わなきゃいけないって法律を作るわけにもいかないしな。
部屋に一人でいると余計なことを考えすぎるから散歩でも行こう。同じ寮なんだから庭園にいればメリッサと会えるかもしれない。
庭園に出るとメリッサが向こうから歩いてくる。
ラッキー!
走り寄ろうとした瞬間に彼女の方に飛んでくる光るものがあった。
危ない!
腕についていたアーマーのアーティファクトで飛んでくるものを避けてメリッサをかばう。
俺にこんな俊敏性があったか?いや、無い!これは脊髄反射的なものだから元々この身体に備わっていた能力だろう。
元々この身体に備わっていた能力も化学バカの俺には使いこなせなかったらしく、手首から手の甲にかけて負傷してしまった。
カッコ悪っ!
言い訳の様に「命を賭してでも君を守る」的な事をほざいたけどカッコ悪すぎる事には変わりはなかった。
さらにカッコ悪く、付着していた毒で逃げている最中に意識が暗転してしまうとは・・・ど~しょ~もないな俺・・・
イケメン皇子なんて言われモテすぎて困るだと?過去の俺を殴りたい。気に入った女性も守れないで!
忸怩とともに目覚めた俺は、助けたかった女性に助けられたという事実を知り正気ではいられなくなった。
アーティファクトに毒を移しただと?!そんな技術も魔力も聞いたことはない。どこまで凄いのだ貴女は?!
愛しさと恥ずかしさでメリッサに抱き着く。まるで小さな子供が感情を乱して母親に抱き着くみたいに・・・
眉目秀麗、才気煥発などと称えられたくせに、カッコつけたい女性の前では醜態をさらしてしまうとは!残念過ぎるな俺って!
メリッサに抱き着いていたらさらに劣情が頭をもたげてくる。
こんなにまでカッコ悪いのに彼女にキスしたいだなんてふざけんな俺!
気づけば夢中でメリッサに頬ずりしていた。
あっ、すべすべ!気持ちいい!!
俺の至福を中断させたのはウザい男ナンバーワンのコルネリスだった。
なんだ?!やっぱり秘密の通信器具を持っていたな!しかも彼女の部屋に転移できるなんて!
羨ましいぞ!俺も欲しい!
権力とはこういう時に使うもんだ!もうカッコ悪いとかどうでもいい。まんまと俺の分の通信具も作ってもらう事になった。
ありがとう!コルネリス。もうウザいナンバーワンって言うのやめるよ。・・・ナンバーツーくらいでどう?
本来メリッサと兄、コルネリスでやるはずだったであろう作戦会議に参加させてもらった。
俺はどこかでまだアニメ映画の続編でもみているつもりだったのか、急に現実を突きつけられた。
自分が命を狙われるとか大事な人の命が狙われるとか『ストーリーの中の世界』の様に感じていた事にやっと気づいたんだ。
ジェフリーとコルネリスの瞬発力すごいな。もう犯人を何人かに絞り込んでいるのか。
見せてもらった家系図は皇室のもの。つまり俺の家系図だ。
ジェフリーが 「ドラクレシュティ・・・公爵夫人だけじゃなかったのか!」と言った後に
「黒魔術の権威だったドラクレシュティ家の末裔が怪しいと思っていたけどやっぱりな。」
と小声で呟いた。
「黒魔術?」
三人が一斉にこちらを見た。 え?黒魔術を知らないのって俺だけなのか?
「殿下、黒魔術については話をするのも御法度だという事は存じています。でも志を同じにしていただけるならそこは避けては通れない話題なのです。ご容赦いただけますか?」
ジェフリーが気まずそうに俺の顔を伺う。
「確かに、話をできないことがあるのでは作戦会議にならない。私を仲間に入れてもらえるならば何を話しても構わないし、身分的な事で気を使うのも無しにしてくれた方がありがたい。ただ、恥ずかしながら黒魔術の事は本当に知らないのだ。不勉強で申し訳ない。」
ここまでカッコ悪いのだから知らないことは素直に教えてもらう方がいい。
「黒魔術というのは、一言で言ったら『呪い』に関する魔術です。例を挙げるなら・・・」
ジェフリーが例えばという例もいくつか丁寧に教えてくれる。なるほどそれは禁忌にすべきものだ。特に洗脳なんかされては誰を信用していいのかもわからなくなる。
「コルネリスとわたくし、それとお父さまが命を狙われたわけですけれど、これって・・・もしかすると皇位継承権の問題に見えるのはわたくしだけでしょうか?」
メリッサがジェフリーに同意を求める。
「そうだな、確証はないが皇帝の後妻と皇帝の異母妹の夫がドラクレシュティの末裔ならば、その子供たちを皇帝にするためにフレデリック殿下を亡ものにしたいはずだ。ならば皇帝派のトップであるオーヴェル家を先に潰してから殿下を害したほうが良いと考えるだろう。公爵と私達兄妹が死ねば、やはりドラクレシュティの末裔である公爵夫人のマティルダが公爵家を乗っ取れるわけだからな。コルネリス、ゲハイムブントでは他の可能性について言及していたか?」
「オブライアン・ド・ケリーは『これでわかるだろう』という言い方だった。」
「なるほど、では叔母は私たちに言えない秘守義務もふまえてそこが犯人だと断定しているんだな。理解した。」
「叔母?ってなんの話ですの?」
「これはトップシークレットだが・・・」
メリッサの質問にジェフリーが俺を振り返りながら続きを話す。
「帝国最大の情報ギルド『ディテールズ』を経営しているのが何でも請け負う秘密結社『ゲハイムブント』であることは知る人ぞ知る事実だけれど、その『ゲハイムブント』を経営しているのが私たちの叔母であるアマーリエ・フォン・オーヴェルなんだ。これは絶対に知られたらいけない事なので殿下も他言無用でお願いします。コルネリスは既に聞いたんだな?」
「あぁ。お前の使いで行ったからな。」
ジェフリーが深く頷いた。
「じゃあさっきの考察は99%間違いないだろう。コルネリスが毒殺されかけたことは別件かもしれないが我々は全員殺される計画の中にいる。メリッサと殿下は常に一人で行動しないでください。コルネリスも気を付けてくれ。私は一度帰り父上に作戦を共有して、別棟に住む叔母も交えて話し合いをしてくる。殿下、妹をよろしくお願いしたします。」
情けないとか言っている場合ではないな。
どんなにカッコ悪くてもメリッサとみんなも守らなくては!




