#025 秘密の共有
「フレデリックさま、すこし離れていただけないかしら?」
フレデリックの抱擁で身体中が熱くなってきた。
ヤバい、なんか私いま頭から湯気がでてそう・・・なんでイケメンっていい匂いがするのかしら!
「メリッサ、お願いだ。もう少しだけ・・・このままで・・・」
フレデリックがなぜこんなことになっているのか!二人で食事をしたときに話が合ったし好感度は上がったけれど私たちはまだ数回しか会っていない。
フレデリックが私の肩に乗せていた頭を起こして私の方を向いた。
ヤバい!キスされちゃう?
私は顔を逸らそうとしたけど片手で頭を抑えられ、そのまま私の頬に自分の頬を摺り寄せてきた。
(え?なに?何しているの?)
フレデリックはそのまま自分の頬と私の頬をスリスリしている。
(あぁ、わかった。これは猫とか犬を可愛がってスリスリしているのと同じだ!)
あ~よかったと思った瞬間
「メリッサ・・・」
耳元でフレデリックが甘くかすれた声で囁いた。
(ヤバい!ヤバい!やっぱりヤバいよこれ!頬と頬をすり合わせているという事は彼の口は私の耳の真上だ!)
ムリ~~~~~! と、なった時に私のブレスレットについている魔法陣が光った。
この通信の魔道具の事は他言無用と言われているにもかかわらず脳みそがのぼせ上った私はついうっかり応答してしまった。
「メリッサ!大丈夫か?どこにいる?」
「寮のわたくしの部屋ですわ!」
コルネリスの問いかけに仕方なく答える。フレデリックは少しだけ顔を離して私のブレスレットを注視していた。
答えてしまうと逆探知機能が働いて転移できてしまうのがこの魔道具の凄いところ。
次の瞬間に私の部屋にコルネリスが転移してきて、フレデリックに抱きしめられている私を見て悲鳴のような声で叫んだ。
「何をなさっているのですか殿下っ!!!」
コルネリスはフレデリックから私を引きはがして後ろに隠した。まるでマジックテープを開いたようにべりッと音が聞こえるようだ。
「なぜここに転移してきた?アカデミーは転移ポイント以外への転移は違法だ!」
フレデリックに言われコルネリスが急に真っ青になって下を向いた。
違法・・・だから他言無用と言われてたのか。だよね。犯罪も隠蔽できるもんね。
相当まずい事なのかコルネリスは私を引きはがした後つかんでいた私の腕を離し完全に黙ってしまった。
そういえば大学生のころから自分に不都合なことがあると何も言えなくなっちゃうんだよね亮ちゃんは。
「違法な上に私の婚約者の部屋に転移してきたのだぞ?二人はどういう関係なのだ?!」
「待ってくださいませフレデリックさま。私が移動スクロールが使えない身体なのでお兄さまがコルネリスに依頼して作っていただいた魔道具なのです。なのでお兄さまもこっちの魔法陣で転移できるようになっていますの。コルネリスと秘密の関係などではないですわ。」
私がブレスレットについているスマートウォッチのような黒いマナ石についている魔法陣を示すとフレデリックが興味深そうな顔で覗き込んできた。
やっぱり!
こういう魔法陣とか魔道具とかお好きですよね?フレデリックさま!
「なるほど、理解した。君はオーヴェル小公爵から依頼されてメリッサの安全のために作ったという事だな?ではこの魔道具は皇家でレシピを買い取り秘匿扱いにしよう。」
「本当ですか?殿下、ありがと・・・」
よほどの罪にあたるのか憔悴しきったコルネリスが嬉しそうに顔を上げてお礼を言おうとするのをフレデリックがかぶせてくる。
「そのかわり!私にも同じものを作り私の魔法陣をメリッサのマナ石に刻んでくれ。」
フレデリックの口元が僅かに緩んだ。
「・・・・・わかりました。今日中に殿下の分を作成した後レシピは買い取っていただきます・・・」
コスネリスが悔しそうに呟いた。
二人が魔道具の権利売買の話が済んだ頃に漸く皇家の医師と役人たちがやってきた。
医師が私とフレデリックを診察している間に校医がさっき私が話した内容を告げ、それを聞いたコルネリスはかなりうろたえた顔になっている。
やっぱり私は言わない方がいいことを言ってしまったらしい。
知らない間にさっきフレデリックを運んでくれた騎士もいて私たちは皇室の捜査官に事件の有様を事細かに報告させられた。
捜査が一通り終わると皇室の関係者は全員退出した。
なのになぜかフレデリックは退出せず私の部屋に留まっている。なんで?
「フレデリック殿下はなぜ退出されなかったのですか?」
まだ元気がないコルネリスがそーっと質問する。
「そりゃあ私の婚約者の部屋に他の男がいるのに私が出ていくわけがないだろう?」
フレデリックが尊大な態度で答えた。
「・・・殿下はメリッサの味方ですか?何があっても?」
コルネリスが絞り出すように尋ねる。
「あたりまえだ!でなければ命がけでメリッサを守るわけがない。」
「わかりました。信じましょう。話があるのでジェフリーを呼んでいいですか?」
コルネリスは質問の体をとっているけれどフレデリックが答える前に魔道具でジェフリーを呼び出した。
「公爵の体調はどうだ?もし問題がなければ5分くらい離席できるか?できるならこちらに来てほしい。」
すぐにジェフリーが私の部屋に転移してきた。
「あぁ、メリッサも一緒なのか、あ、フレデリック殿下、ご機嫌麗しゅう・・・」
「お兄さま!」
私はジェフリーの顔を見るなり殺されかけてからの緊張が溶けてくる感覚を覚え、走り寄って抱きついてしまった。
「どうした?何かあったのか?」
兄は私の髪を撫でながら優しく問いかけてくれたけど、なぜか私は泣き出してしまった。
「ジェフリー聞いてくれ、実はメリッサが刺客に襲われた。」
「なんだって!大丈夫なのか?メリッサ!」
コルネリスが一連の事件をジェフリーに説明する間、私はずっとジェフリーに抱きついて泣いていた。元の世界では涙なんか見せたことのない私がこの世界の兄に抱きついてずっと涙を流しているなんてすごく恥ずかしいけれど、涙が止まってくれない。
「それと、ジェフリーに言われた通りに情報を入手してきた。よかったらフレデリック殿下も聞いてください。」
コルネリスが一枚の紙をとりだして応接のローテーブルの上に広げた。なにか家系図の様に見える。
「メリッサの鞍に細工をして殺そうとした者は例の秘密結社に依頼をしたようだ。そこでは依頼は受けていないものの、秘守義務として『依頼主の名前を言えない魔法契約』があるから『依頼していないものの名前』を聞いてその者の名前に✖をつけてきた。赤い×は呪殺疑惑のある被害者らしい。」
「ドラクレシュティ・・・公爵夫人だけじゃなかったのか!」
ジェフリーが驚いた顔で呟いた。
「なるほど、これはわかりやすい。バツのない者は私が死んだら得をする者ばかりじゃないか。オーヴェル公爵、私、メリッサと小公爵がいなくなればこの国を思い通りに操れるってわけか。はっ、わかりやすいが証拠はないってわけだな。」
フレデリックが見たことないほど攻撃的な顔になっている。
さっきまで元気なかったコルネリスが顔を上げた。
「そうだな。では作戦会議といこうじゃないか!」




