#024 【Side コルネリス・フォン・ブルターニュ】 レギオン
オーヴェル公爵が毒を盛られた。
その毒はどうやら俺がこの世界に転生してきた時に盛られた毒と同じ毒で、この国では珍しいものだった。
俺はメリッサとアカデミーの寮に転移するとすぐにジェフリーの元に引き返した。
「ジェフリーこれは俺たちが放置していい問題じゃない気がする。」
「あぁ、その通りだ、コルネリス。私はメリッサが言った通り、父上が無事かどうかを毒を盛った者に悟らせないように付きっ切りにならないといけない。もし君に時間があるならここを訪ねてもらえないか?」
ジェフリーが走り書きで場所と『私の代わりに動いてくれている友人をよろしく』と書いた紙をよこした。
「ここは?」
「あぁ、情報ギルド・・・みたいなものだ。私からも連絡しておく。」
「情報ギルド、みたいな?まぁいい。すぐに動くよ。」
情報ギルドではなくギルドみたいな? 何かそれ以外のものもありそうだけど、ジェフリーが俺を罠に嵌めたりすることはないだろう。
翌朝ジェフリーが書いた場所に行くとそこは何の変哲もない居酒屋だった。早朝にも拘わらず店は営業していて怪しげな隻眼のマスターが新聞を読みながら葉巻を燻らせている。こんな朝早くから居酒屋が開いていて客がいるなんておかしいだろう!
なるほど!ここは現代の日本人が考えた異世界ファンタジーだからな!
「マスター、ジェフリーの知り合い?」
俺はいつもの軽いノリでマスターに話しかけジェフリーのメモを見せた。
「あぁ、おにぃちゃんはジェフリーのお使いかい?こっちに来な!」
これまた想像通り、店の木の階段を上り廊下の突き当りに突然現れた扉を開けて『それっぽい』部屋に案内してくれた。こじんまりした部屋には執務机と応接セットが置いてある。
「はじめまして!ジェフリーから連絡きてますよ。」
仮面舞踏会の時にするような仮面をした男が俺に握手のための手を差し出してきた。
おいおい、嘘だろ。その仮面なにか意味があるのか?
赤毛のくせっけにソバカス。元の世界で言うならアイリッシュを絵で書いたような男が仮面をしただけで正体を隠せているつもりらしい。
どうみても俺とジェフリーのアカデミーで同期だった男だ。
「久しぶりだな!オブライアン。なにが『はじめまして』だ!その仮面なんの仕事もしてないぜ?」
「はぁ、やっぱり つっこまれたか。知らないふりするもんだぞ、こういう時は! で、なんの情報が欲しいんだ?ジェフリーのお使いって言うんだから俺は何でも教えてやるよ。」
こいつは俺達の同期の中では天才と呼ばれたヤツだ。情報だけではなく謎解きのような力も相当なものだろう。
俺は、俺が毒を盛られた話からオーヴェル公爵の毒殺未遂に至るまでの経緯をすべて話した。メリッサの事も知っている限り全部話した。公爵夫人に殺されそうになったことや俺の助手としてアカデミーにいる話もすべて。俺たちがこの世界の住人ではない事以外はすべて話しきった。 天才というのは些細なヒントから謎を解いてしまうものだから。
「ジェフリーの妹が『綺麗なだけのバカ』と呼ばれてたけどその正反対で、錬金術で最速で上級になるらしいという話は知っている。興味深いよな?会ってみたいものだ。」
綺麗なだけじゃなく賢いなんて最強じゃないかとオブライアンが笑う。
「もう知っているのか、さすが最大の情報ギルドだな。」
「普通は絶対に教えない話だが、ジェフリーのお使いだからこのギルドの正体を話そうか?ジェフリーに信用されているって事は大丈夫だと思うが他言無用だぞ?」
「それは当然。秘密は洩らさないけど、ジェフリーの信用され方がすごいな・・・」
「ここのギルド長は俺のオヤジでブライアン・ド・ケリーだ。」
「なるほど、ケリー伯爵の秘密の収入源ってわけだな。」
「ちょっと違うな。本当はアマーリエ・フォン・オーヴェル令嬢が運営している『秘密結社ゲハイムブント』の表の顔が俺のオヤジの『ギルド・ディテールズ』ってことだ。実は情報の売り買いだけではなく何でもやる組織だ。」
「アマーリエ・フォン・オーヴェル令嬢って、結婚していないオーヴェル公爵の姉君か!なるほど、だからジェフリーが信用されているんだな。納得!」
「ジェフリーの言伝があったから説明しているんだからな!くれぐれも!ここが秘密結社に繋がっていると知っていても、アマーリエ女史がボスだと知る者はいないんだ。」
「わかっている。じゃあ単刀直入に言う。俺とオーヴェル公爵とメリッサを殺そうとした者を探してほしい。」
「メリッサ嬢についてはすでにアマーリエ女史が調査を行っているはずだ。オーヴェル公爵についてもすぐに調査されるだろう。安心しろ。少し待っていてくれ。」
オブライアンは一旦部屋を出ていき紙を一枚持って戻ってきた。
「やはりメリッサ嬢の事故については調査されているようだ。というか、事故の依頼をこのゲハイムブントが請け負ったようだ。」
「なんだと!アマーリエ令嬢がトップであるにもかかわらず姪を殺そうとしたのか?!」
「いや、何件かから依頼があったが政治的理由を言い訳に依頼を断ったようだ。」
「誰だ?!誰がメリッサを殺そうとしたんだ?!」
「コルネリス、まぁ落ち着け。仕事を断っても秘密を守る契約をさせられるんだ。金をもらってな。だから依頼の主の名前を言うわけにいかない。」
なるほど。魔術的な契約ならば言うわけにいかないだろう。
俺は歯ぎしりをした。
「これを見てくれ。」
オブライアンがさっき持ってきた紙を差し出してきた。
「これは家系図か?」
「そうだ。これをジェフリーに持って帰ってくれ。」
「これで何かわかるのか?ジェフリーに渡せば・・・ジェフリーならわかるのか?」
俺は急き込んで問いかけた。
「だから、落ち着けって。いいか、俺は『依頼してきた者の名前』は教えることができないんだ。今から『依頼していない者』の名前を言うから✖をつけていけ。そうしたらかなり絞り込めるだろう?」
オブライアンがニャッっと笑った。
俺がちょうどオブライアンから『依頼されていない者』の名前にバツをつけ終わった時にドアをノックする音が聞こえた。
「オブライアン!」
顔を出したのはオブライアンにそっくりなアイリッシュ系の顔の男だった。ただ、オブライアンは俺と同年代だから18~20歳位だけどその男はたぶん30代後半だ。
「どうしたオヤジ!何かあったのか?」
あ、やっぱり父親のブライアンだ。
「今入った情報だ。アカデミーのルクス寮に刺客が入ったらしい。何者かがメリッサ嬢に毒の付着した小刀を投げたらしい。今そこに来ているお客様には重要な情報じゃないか?」
「なんだって?!メリッサは無事なのか?ケリー伯爵!」
俺は挨拶もしていなければ紹介もされていないケリー伯爵に向かって叫んだ。
「無事らしい。だが我々伯爵家ではルクス寮には入れない。ブルターニュ令息、申し訳ないが様子を見に行って情報を共有してもらえないか?我々のボスがとても心配されているのだ。」
「わかった。詳細がわかり次第知らせるよ。だから、俺たちの依頼の件もよろしく頼みます!」
まさか俺が留守したとたんにメリッサが狙われるなんて!!
「どうか無事でいてくれ!理々沙!」




