#023 僕らのその先
一撃離脱
短剣が投げられた方向を探しても既に人の気配はなかった。
フレデリックは自分のマントを脱ぎ私に巻きつける。
「このマントには防護の魔石が付いている。不快かもしれぬが我慢してくれ」
フレデリックは私を抱えて走り出した。
「殿下!ご無事ですか?」
帝国の騎士と思われる出で立ちの男性が2名こちらに走ってやってくる。
この二人はどこにいたの?隠れられるところがそんなにあったらまずくない?
「この位置から3時の方角より短剣が飛んできた。すぐに追ってくれ。毒が塗られているとまずいから我々はすぐに医務室に行く。」
「畏まりました!」
騎士たちはすぐに短剣が飛んできた方向に向かって走っていく。二人だと思っていたが走るたびに人数が増えていく?!どこに隠れてたの、本当に!
そんなことより!
私を左胸に抱いて走るフレデリックの体が熱く呼吸が乱れてきた。フレデリックの予想通り短剣の刃に毒が塗られていたようだ。
「フレデリックさま?大丈夫ですか?お熱が出てきていますわ。やっぱり傷口から毒が?」
「大丈夫・・・大丈夫だが医務室まで走れそうにない。私を置いて先に向かってくれ。」
フレデリックは言い終わるなり右膝から崩れた。これはまずい。一刻も早く毒をなんとかしなくては!
「すみません、どなたかいらっしゃいませんか?!」
私に攻撃した者を護衛の騎士が追跡したとしても何人かは残っているはずだ。
やはり、すぐに一人出てきてくれた。
「一刻の猶予もなさそうですわ!私の部屋に解毒剤があるのでフレデリックさまを運んでください!速くっ!運び終わったらすぐに医師を手配してくださいませ。」
フレデリックを私の寝台に運んでもらった時にはもう彼の意識はなかった。
どうみても熱にうなされていて青ざめている。
「急いでお医者様を連れてきてくださいませ!」
毒は時間との勝負だ。私はおろおろしている騎士を一喝して追い出し、フレデリックに手をかざした。
傷をうけた手首の辺りに毒の波動があってそこからじわじわと中心に向かっている。
「これってお父さまと同じ状態じゃない!」
どうやらフレデリックも胸にネックレスのようなお守りをかけていて胸の、心臓の方に悪い波動が来ない様に抗っているようだ。
困った。公爵の治療で使ったようなマナ石はここにはない。
「そうだ!アレが使えるかも。」
私が初めての錬金術で作ったお守り、それは通常の『数式』で作った魔法陣で錬成したものではなく『数式の解』で作られたものだ。
つまり、『形式』ではなく、単純に『答え』なのである。
だから予防だけじゃなくて治療にも使えるはずだ!
傷の近くにお守りを置いてそこに向かって波動を移動させてみると、やはり最初は抵抗していた波動がお守りの方にむかって流れていった。
マナ石よりもお守りの方が自分から毒を吸い込んでくれるので楽に毒を取り除くことができた。
お守りは、すべての毒を取り込むと一度光を放って元に戻った。
「うまくいったみたい・・・よかった。」
ふぅ、と一息ついたところで扉の魔道具から来客を告げる音がした。
急いで扉を開けると医務室から来た医師が走り込んできて状態のスキャンを始めたので、襲撃されたところから毒をお守りに移したところまで説明する。
説明してしまってから、あれ?これって言わない方が良かったんだっけ?という不安に襲われけどしょうがない。 遅いよ!
医師は黙って私の説明を聞きながらフレデリックの身体に手のひらをかざしてスキャンしていたが、状態が把握できたらしく手を外しながら私に振り返った。
「令嬢の仰る通り殿下のお身体に毒は残っていないようです。なぜご令嬢にそのようなことができるのかわかりませんが一先ず危機は脱したようです。皇宮には連絡がいったはずですのでまもなく皇家の方がいらっしゃるでしょう。私は一旦失礼して状態に合わせた薬を用意して参りますので殿下の側で様子を診ていてください。」
医師はそう言うと淡々と手の傷に薬剤を塗り包帯を巻いて部屋を出て行った。
なんだろう?
一国の皇太子が死にそうになったのにそんな対応でいいの?
私がもしかしたら敵かもしれないとか考えないのかな?
じっと見守っていると、フレデリックは少しづつ顔色が良くなってきて呼吸の乱れもなくなってきたようだ。
未来のあるこの皇子がなんで私を命がけで守ったりしたのか・・・
そもそも私はヒロインをいじめた罪で断罪される予定(未定)の悪役令嬢なのに、私を守った皇太子が私のせいで死んでしまう事になったらどうなっていたんだろう?
自分のせいで誰かが死んだり、自分のせいでストーリーが破綻するくらいなら私が死んだ方が・・・
「メリッサ?」
フレデリックの意識が戻ったらしく掠れた小声で私を呼んだ。
「フレデリックさま、お身体は大丈夫でしょうか?毒はすべて排除できました。あぁ、お熱もだいぶ下がってきましたわね。」
フレデリックは私が発熱を確認するためにおでこにあてた右手をとり、強く引いた。
私は少しよろけてフレデリックの上に倒れ込んでしまう。
「フレデリックさま!申し訳ありません。すぐにどきますので!」
慌てて謝罪したので素の私になってしまった。
「近くに来てほしくて私が貴女をひっぱったのだ、メリッサ。少しでいいからこのままでいさせてくれないか?」
フレデリックの少し汗ばんだ胸の上で私はどうしていいのかわからなくなる。
「フレデリックさま・・・なぜわたくしを助けたりされたのでしょうか?わたくしは皇太子殿下がご自身を犠牲にしてまで助ける価値などありませんわ。」
「貴女は私の婚約者ではないか。」
フレデリックがまだ本調子ではないらしく掠れ声で答えた。
「いいえ、フレデリックさま。わたくしは身分や年回りが皇太子殿下の妃候補にふさわしかっただけですわ。わたくしが死んでも婚約者の替えがきく、ただの政略結婚の相手に過ぎません。でも貴殿は替えがきくお方ではないのですよ?もう二度とこのような事はなさらないでくださいませ!」
「やはり毒が塗られていたのだな・・・メリッサが私を助けてくれたのか?」
「フレデリックさま!聞いてらっしゃいますの?!」
フレデリックは全く聞いていないようで、さらに私を強く抱きしめた。
「あぁ、癒される。私はメリッサと一緒にいると、はるか昔に失くしてしまった大事なものを見つけたような切ない気持ちになるのだ。そう怒るな。私は死んでいないのだからな。」
そう言われてみれば・・・
私もフレデリックに抱きしめられるのは嫌ではない。むしろ心の奥の何かが溶けてくるような温かい気持ちになる・・・
いやいやいや!何を言ってるの!この人だけは絶対ダメ!
ストーリーをめちゃくちゃにするのは本意ではない。
私の断罪を処刑からせめて追放~とかにしてもらえたらいいなってだけなんだから!




