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#021 Before the story 

 

 私は『イケ略』を知らない亮ちゃん(コルネリス)に覚えている限りのストーリーを説明した。

 

 「で?今はそのアニメのストーリーの始まる前で、そのストーリーにそって話は進んでるってわけか。俺は?コルネリスはどんな役なんだ?」

 「そもそもその『イケ略』のヒロインのマリーは『自分が好きだった乙女ゲームの世界に転生した』っていう設定だから逆ハーレム状態なわけ。で、設定が乙女ゲームだから『攻略対象』っていう相手がいるんだけど、その中の一人だね、コルネリスもジェフリーも。ジェフリーは最後まで妹をかばおうとするんだけど、マリーの事を愛しているから心情的にかばいきれないんだよ。コルネリスは『そんな女処刑しろ~』って叫んでた気がする。」

 「もうすでに原作通りにいくはずないと思わん?マリーって皇太子にべったりくっついてたピンクの髪の子でしょ?俺あのタイプ苦手中の苦手!だってほら、俺って理々沙がタイプなわけだし。」

 ピンクちゃんは無理~と言って舌をだす・・・本当に亮ちゃん(コルネリス)がマリーに恋する未来は訪れないのかな?

 「はいはい、ありがとうね。」

 「そういうとこな! そもそも乙女ゲームがわからないんだよ。その手のアニメもいくつかは見たから全くわからないわけじゃないけど、『the女の子』のヒロインより悪役令嬢の方が推せるんだよな~。理々沙は乙女ゲームとかやったことあんの?」

 「私はないね。子供の頃 超有名なRPGは塾の合間にやったけど、あれって結構 時間とられるからハマりはしなかった。由吉は乙女ゲーム好きだったよ。予備校の休み時間にもやってたし。『攻略キャラ全員攻略した~』って言ってたから相当やり込んでたね。」

 「由吉って彼女いたよな?男が男のキャラ攻略して何が楽しいんだ?」

 「さぁねぇ。男の子四人兄弟の一番下で母親が女の子の服着させたがったって言ってたから、女の子みたいに育てられたのかも。三番目の兄の攻略が難しいって冗談言ってた。」

 「成績優秀すぎるヤツって変人多くないか?・・・あいつ天才だろ?フェルマーの定理が解かれてなかったら絶対にチャレンジしてたと思うな。」

 「もしも由吉が迎えに来なかったら・・・亮ちゃんは私が断罪されそうになったら助けてね。」


 懐かしい友人と素の自分で会話できることがこんなに安心できるとは思わなかった。

 気が張ってたんだな・・・

 

 なんかほっこりした気持ちでいたら、突然ブレスレットの兄の魔法陣が光りだした。

 「お兄さま?どうなさったんですの?」

 急いで魔力を流して『メリッサ』として返事をする。

 「大変だ!父上が毒を盛られて倒れられた!魔力酔いが大変だろうけどこっちに来られるか?」

 「公爵が毒を盛られたって?!」

 私より先にコルネリスが返事をした。

 「公爵は俺の作ったお守り(アミュレット)持ってなかったのか?」

 「あぁ、持っていた。持っていなかったら即死だったようだ、ところでコルネリスまだメリッサの部屋にいたのか?」

 「えっ・・・あぁ、まぁ、授業のような?」

亮ちゃん(コルネリス)が目を泳がせた。

 「まぁ、いい。メリッサをできるだけ安全に、秘密裏にこっちに連れて来てもらえるか?」

 「わかった、用意ができたらコールするから。」

 

 私はついさっきまで亮ちゃんと『ここはアニメの中の世界』というファンタジーな話をしていたのに、身内に毒が盛られたという生々しい報告をされて動けなくなった。

 アニメのストーリーの中とはいえ、今の私には現実なんだという事を突き付けられて混乱してしまったからだ。

 

 「理々沙!じゃなかった。メリッサ、支度をしてくるから5分だけ待っていてくれ。」

 と言って亮ちゃん(コルネリス)は部屋を出て行った。

 何か大きな渦のようなものに飲み込まれた感覚で震えが止まらない。

 

 亮ちゃん(コルネリス)は5分もたたずに大きめなメッシュの袋を持って戻ってきた。

 「早かったね。」

 「この部屋を出て自分の鍵を突っ込むと俺の部屋だからな。そんなことはどうでもいい、一緒に公爵邸まで移動するぞ。これを抱きしめて待っていろ。」

 亮ちゃん(コルネリス)はわたしに普通の石ころのようなものがいっぱい詰め込まれたネットを寄こしてジェフリーに連絡している。

 亮ちゃん(コルネリス)がいてよかった。私だけじゃどうしていいかわからなかった。

 「じゃ、今からそっちに二人で行くから公爵の部屋に移動して人払いをしておいてくれ。」

 「大丈夫だ。今は父上の部屋にいて周りには誰もいない。」


 「いくぞ、理々沙(メリッサ) 手をつないで目を閉じろ。理々沙(メリッサ)は一切魔力をだすなよ?いいな?魔力がでそうになったらそのネットを握れ。」

 私は亮ちゃん(コルネリス)の手を握って目を瞑り、空いている方の腕で石ころネットを胸に抱いた。

 少し強風に煽られて揺れた感じがしたけれど気持ち悪くはならなかった。目をあけると血の気のない真っ白な顔の公爵が横たわる寝台の前だった。

 

 「お父さまっ!」

 「メリッサお前は大丈夫か?魔力酔いはしていないか?」

 兄も蒼白な顔をしているけれど私を心配そうに見ている。

 「わたくしはコルネリスが目を閉じている間に連れてきてくれたので大丈夫ですわ。マナ石も抱いてますし。」

 「あぁ、移動スクロールよりダメージが少ないようで良かった。コルネリス、ありがとう。」

 「俺はいい。公爵の具合はどうなんだ?医師に見せたのか?犯人に心当たりは?」

 「医師は呼んでいない、まだ誰にも伝えていないんだ。晩餐の時に飲んだ酒に毒が入れられていたようだ。私も一緒に飲んでいたら二人とも死んでいたかもしれない。とにかくメリッサ。スキャンの能力で診てくれないか?」

 「わかりましたわ、お兄さま。」

私は言われたまま公爵の胸に手を当てて神経を集中する。お守り(アミュレット)があった胸の周りは大丈夫そうだけれど、体の末端の方の血液には毒がたくさん残っている。 

血液は流れていても手足頭に留まってモヤモヤしているようで、このまま心臓に流れ込んだら死んでしまうだろう。私は診たままを二人に告げた。

 「お兄さま。この毒はお守り(アミュレット)を避けています。なので私が抱いてきたこのマナ石たちに移してみたらどうでしょう?」

 「そんなことができるのか?!」

 「錬金術を学んでみて思ったのですが、魔力はイメージで動かすものですよね?ならば できるかできないかではなくやってみたいのです。この石をお父さまの両手に握らせて口の中にも入れて足の甲と土踏まずに置いてみてください。」

 「あぁ、わかった。コルネリス、石を借りるぞ。」

 「大丈夫だ、わかっている、足りなかったら戻って持ってくるさ。」

 

 私はさっき見えた毒のモヤモヤを気功のような動きで石の方に送るイメージをする。

 最初は強く抵抗していた毒のモヤモヤだったけど、動き始めたらどんどんイメージ通りに動いてくれた。見える範囲の毒は除去されたようで、公爵の呼吸も楽そうになってきた。

 

 「お兄さま、やりましたわ!ほとんど除去されたようです。」

 見ると毒のモヤモヤを移したマナ石は普通の石ころから赤黒い毒々しい色に変化していた。

 

 「あ、それ直接触らない方がいいかも。」

 コルネリスがカーテンの裾を引きちぎった厚手の布で石を取りそのまま包んだ。

 「で、犯人の予測はついているのか?」

 コルネリスがジェフリーを振り返る。

 「私は公爵夫人が怪しいと思う。近しい者じゃないと公爵家に侵入して毒を盛るなんて難しくないか?」

 「ちょっと待ってくださいお兄さま。公爵夫人はお父さまが亡くなって得することはあるんですの?すでにお兄さまが継ぐことが決まっているオーヴェル家で未亡人が好き勝手にできる事なんてないのではないでしょうか?下手すればお兄さまに追い出されるのがオチですわ。もし知らないところに異母兄弟がいたとして私生児がお兄さまに勝てるはずありませんもの。」

 「それはそうなんだが、晩餐で私も一緒に酒を飲んでいたら私も死んでいたかもしれないのだ。私も父上も亡くなれば公爵家は自分のものになるのではないか?」

 「お兄さまがお酒が弱いことは周知の事ではありませんの?」

 

 コルネリスがふと顔をあげた。

 「俺の作ったお守り(アミュレット)はこの帝国で流通している毒の全てに対策している。つまりこれは珍しい毒って事だ。そしてこの毒が移ったマナ石の匂い、間違いなく俺が盛られた毒と同じだと思う。まず、俺はこの石を持ち帰って研究してみる。公爵に毒を盛られたことを知っている者は?」

 「執事のゴードンと護衛騎士のウィルフレッドだけだ。その二人には口止めしてある。」

 「じゃあお兄さまは、お父さまが目覚められても絶対に部屋から出ないようにしてもらってください。そうすれば犯人もしくは犯人に通じている者が『毒を盛ったはずなのに、生きているか死んでいるかわからない状態』を演出できますから。」

「そうだな。そうしよう。 あぁ、二人がいてくれて本当によかった。自慢の妹と友人だな。コルネリスに毒を盛った者と父上を害そうとした者が同じ犯人なら、犯人の意図がまるで推測できない。二人ともくれぐれも気を付けてくれ。」

 「えぇ、それはお兄さまもですわ。わたくし、明日から錬金術の中上級クラスインターミディエートアドバンスにできる限りでないといけないのですけど、合間に医術の基礎クラス(ベーシック)初級クラス(ビギナー)も受けてみますわ。」

 

「メリッサ、気持ちはわかるが無理はするな。何か思いついたらすぐに連絡してくれ。こちらからもする。」

私は兄に頭を撫でられハグされながら、正体不明の敵に立ち向かわなくてはならない不安で慄いた。

 

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