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#018 あいあむ錬金術師

物理関連のご託は読み飛ばしていただいても大丈夫です

 

 アカデミーの建物は授業を行っている建物は北塔、東棟、南棟、西棟に分かれていて、その周りにアカデミーの生徒たちが住んでいる寮が5つと講師陣の為の宿舎がある。

 北だけ棟ではなく塔なのは別に打ち間違えではない。

 北塔は魔術の研究特化でここがどうやら魔塔と呼ばれているらしい。1階から5階までは普通にアカデミーの講義が行われている場所だけれど、6階から上はアカデミー生の魔術上級(アドバンス)のバッチを持っていても立ち入れない専門組織のようだ。このアカデミーにはせっかくその道の権威たちが教鞭をとるため集まっているので帝国でお金をだして研究させれば研究結果を秘匿できないだろう。という考えのもとに後から魔術で増築された塔のようだ。

 

 そして錬金術の講義は西棟の4階に集中していて、研究室は5階に集中している。

 研究室に入る扉にバッチを識別する魔道具が付いているのかと思っていたけれど、そうじゃなかった。

 5階に上がるための階段の扉に識別の魔道具がついていて、中級バッチを持っていると扉は通れるけれど上級バッチを持っている人じゃないと開けることはできないらしい。

 なので私は扉が開けられないから扉の前で待っているしかないみたい。

 

 「コルネリス先生、先に行ってるって言ってたけど どうしたらいいのかな?」

 仕方がないからブレスレットになっている連絡用魔道具(アーティファクト)のコルネリスと同じ方の魔法陣に魔力を少し流して呼び出す。

 すぐに魔法陣が光ってコルネリスの姿が浮かび上がった。

 「メリッサ。やっとこれを使って俺を呼んでくれたね。嬉しいよ。すぐに迎えに行くから階段の扉の前で待っていて。」

 あ、コルネリス製のこの通信の魔道具(アーティファクト)何回か使ってると思ったけどお兄さまとだけだった。

 階段側から扉が開きコルネリスが手招きをする。

 

 「こっちだよ。ちゃんとバッチはつけているね?入っておいで。」

 私は張り切ってドアをくぐった。けど、なにかとても小さい『ぴりっ』としたものを感じた。

 「?」

 「ん?どうした?なにかあったの?」

 「なにか、気にならない程度ですけどぴりっとしたようですわ。」

 「そうなのか?普通は何も感じないんだけど、たま~に何か感じる人がいるらしい。痛いとかじゃなければ平気だろ?」

 「平気ですわ。それよりも早く研究室がみたいですわ。」

 「そうだね。メリッサの目が輝きすぎて眩しいくらいだ。早く行こうか。」

 「もう、嫌ですわ。からかわないでくださいませ。」

 


 研究室は大学院の古い研究室のような道具やら研究結果の覚書やらでごちゃごちゃしている様子を思い浮かべていたけれど、全然違っていた。

 広い植物園のような大きなドーム型のサンルームが真ん中にある作りだ。円形の中心には庭園のようなスペースがあってベンチまで置いてある。 

 庭園のようなスペースは洒落たしきりで区切られていて、そこに色々な形の植物や花が所狭しと植えられている。

 入口のすぐ横には体育館倉庫のような場所もあって、いろいろな鉱物がきれいにかたずけられていた。

 

 円形の外周部分はぐるりと部屋のドアが並んでいる。ところどころに階段があって二階建ての様になっているので、真ん中の庭園部分が吹き抜けになっているような作りだ。

 あ、こんな感じのカラオケ屋さんに行ったことある。そこは真ん中が植物園じゃなくてゲームコーナーだったけど・・・

 

 「211の部屋を借りているから早くいこう?」

 メゾネットのような階段を上がり211と書かれた扉を開ける。

 なんとなくカラオケブース的な広さかと思ったけど、中は12畳くらいのやや縦長のスペースで真ん中に大きな机と壁際にはいろいろな道具が入った棚が置いてあった。これよこれ!いい感じ!

 コルネリスが長椅子に荷物を置きながら質問をだす。

 

 「わかりきってる質問だけど、錬金術の原則は?」

 「物質を分解して別のものに再構築するための等価交換・・・でしょうか?」

 「そう、それが原則。分解して別のものにするためには錬成陣と呼ばれている魔法陣を構築してそこに魔力を流す。氷を水に変化させるためには火のようなエネルギーが必要だけれど、そのエネルギーがマナであり魔力であるわけだ。では、水(H₂O)と氷(H₂Oの結合体)の様に元々同じ分子でできていないものについては?鉛を金に換えるとか。」

 「鉛を金に変えるためには原子核の陽子の数を変える核変換を行います。元素交換というやつですわね。」

 「そのとおり。その変換のための数式がこれで、解毒に必要な薬草と金属がこれ。金属は毒に反応する銀をもってくれば無難だな。もっといい金属があればいいんだけどね。この場合薬草は解毒薬の類を何種類かブレンドして効果だけをとりだすんだ。つまり、錬成陣はこの数式を当てはめる。元々はもっと複雑だったものを俺が通分して少し簡素にしたからちょっとだけ省エネになっている。」

 「前々から疑問だったのですが。なぜ計算式ですの?この毒がメインになる場合、毒は数値になりませんよね?そうすると毒の与えるエネルギーが問題になるわけですからこの量子エネルギーの hνの解を求めた『答え』の形式ではだめですの?その方が純粋(シンプル)に効力がありそうに思うのは私が初心者だからなのでしょうか?」

 「・・・・・目から鱗! あぁそうか。いままで錬金術をやってきた先人たちはなぜ通分しないのかと思っていた。2/8とか書かれると気持ち悪いな、なぜ1/4と書かないのかと・・・なるほど。ここを反転させればいいのか。効果がどのように違うのか両方作成してみよう。」

 

 コルネリスがブツブツいいながら口もきいてくれないで一人で実験を始めてしまったよ。

 元々ある公式って合っていてあたりまえという既成概念があるからド素人の方が取っ払えるのかもしれないね。

 1+2+3+4+・・・+nが、n(n+1)÷2の式で答えが出るって発見したの、たしか小学生じゃなかった? 

 お昼に手順とレシピを頭に入れておいてよかった。コルネリスが一人で何も説明してくれないで全部錬成を終わらせそうになったけど。何をどうするのかはわかった。

 本当に機械を何も使わないんだね。混ぜ合わせるものによっては鍋とか道具とかを使うみたいだけれど、解毒のお守り(アミュレット)の場合は生の薬草をつかって錬成するだけ。

 自分で作りだした計算式、つまり魔法陣だけ秘匿すべき研究結果だったりするわけだ。

 「あっメリッサごめん!説明しないでどんどんやってしまった。これ。ここの最後の錬成やってみて。この錬成陣の上に素材を置いてマナを流してみるんだ。」

 コルネリスが我に返ったように私を見て「しまった」という顔で最後の作業を振ってきた。彼もギークなんだね。

 

 「では、初錬成やらせていただきますわ!」

 コルネリスが私の腕の方向を定めるため私の腕に手を添えてくれた。

 

 楽しい! 

 素材の上から魔力を流すと魔法陣の真ん中に向かって淡い光が走り、それが強い光に変わると物質が変化るする。

 魔力を強く流した瞬間に

 (メリッサはなんでこんなに数式につよいんだ?何の教育も受けてなかったはずなのにあの暗算の速さもおかしくないか?)

 コルネリスの心の声が聞こえてきた。

 

 どうしよう。声に出して言われたわけじゃないから言い訳できないよ。

 兄には機会があったら実験してみろって言われていたけれど、むやみに他人に触れられない。それになんていうか、心を覗くのは相手が風呂に入っているところを覗くのに等しい背徳感がある。

 兄は自分を使って心を読む練習をしろと言ってくれた。それって私に対して何も隠し事もなく、裏表さえないってことだよね。

 私なら他人に自分の考えを読まれるのは絶対に嫌だ。


 「コルネリス先生、わたくし小さい頃から頭が悪くて教師をつけても無駄だとお父さまに言われて育ったので、こっそり本を読んで興味のある分野だけ独学で学んできたのです。だから

 お昼に読ませていただいたコルネリス先生の覚書もちゃんと暗記したのでもう一人でもできそうですわ。真ん中に植えてある薬草を採ってきて一人でやってみてもかまいませんか?」

 アンコールの要望に苦しい言い訳も付け加えてみた。

 言い訳が通用したかどうかは微妙だけれど、『私は1から1人でやる』に成功した。

 

 ははははは。今日から私も錬金術師だ!

余談ですが、私は波動測定器にさわるとピリッとします。

技師にそう言ったら

「普通は何も感じないけど、霊感強い人は弱電流が流れるみたいに感じるらしいね」

と言ってました。

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