首を突っ込まなきゃ良かった。
リゼルは後悔した。この船の事件に首を突っ込んでしまった事。そして、探偵少女に手を貸すと言ってしまった事に。
「ちょっと、おかしいよな」
食事を終え、事件解決のためレシアとリターと共に船内を回っていたリゼルがふと呟いた。
「何が?」
「今の状況」
首を傾げるレシアにリゼルは即答。そして彼女が反対方向へ首を傾けるよりも早く、その理由を語る。
「一部施設に利用制限が掛かってるとはいえ、普通に考えて、殺人事件の起きた船内で乗客に自由行動させるか? あの野次馬なら船内全体に事件の事は伝わってるだろうし、それで言ったら船側が事件の事をアナウンスしてないのもおかしいんだよな。犯人が見つかってないし、その犯人が無差別殺人犯だったら第2、3の事件が起きる可能性もある。対応の甘さというか雑さ、ちょっと気になるな」
顎に手を添え難しそうな表情を浮かべるリゼル。彼の表情を横目に話を聞いていたリターも、実は同じ事を考えていた。
この船、豪華客船テリープシップは指定された港で停船し、客の入れ替えを行う、電車やバスと同じ動きをする客船だ。次の停船港までは明日の夕方。殺人事件があったとはいえ、それまで客を監禁するのは相応のストレスになるだろう。ましてや利用金額が馬鹿にならないこの船では余計。溜まったストレスで別の事件が起これば本末転倒だろう。とはいえ、だ。リゼルが言った通り、殺人事件が起こり犯人がまだ見つかってない状況で調査している自分達も含めて客を自由にさせている対応が不自然なのも確かだ。ストレスに繋がる不安を与えないためとはいて、事件の事をアナウンスしてないのも尚更。
「聞いてみね?」
「......そうだね、もし仮に次の港で停船するとかされたらそこで犯人に逃げられる可能性もあるし」
リターの決断でリゼル達は調査を1度切り上げ、3人は船長室へと向かう事にした。幸いというか、ちょうど調べてた場所から船長室はそこまで遠くない。5分もすれば到着するだろう。何も無ければ。
ドンッ、ドォン! ドンッ、ドンッ!
刹那、どこからか聞こえた爆発音に、船長室の前まで来ていた3人の足が止まった。
「爆発......いや、花火か?」
「花火?」
「パンフに載ってた。今晩だったかに夜景眺めながら花火を打ち上げるとか」
「その花火が、どうして今?」
ドンッ、ドォン! ドンッ、ドンッ!
数度繰り返される花火の爆発音。誤射にしても、現在はまだ昼過ぎ。元の予定が明日の夜というのも含めると準備が早すぎる気もする。誤射の理由を考察していると、目の前の扉が開かれ2人の男が現れる。帽子を被っていて髪色は見えないが1人は泣き黒子の青年、今朝事情聴取をしたバイトリーダーだ。もう1人はサンタみたいな白く深い髭の男。レシアと同じくらいの身長に、横に太い体、加えてスタッフリーダーよりも装飾の多い豪華めな服装をしている。恐らく彼よりも位が高い立場なのだろう。帽子の下に僅かに見える皺の深さも相まって貫禄がある。
「船長さん、ちょうどいい所に」
船長。髭の男を見て探偵少女は言った。対して呼ばれた髭の男は睨むようにしてリゼル達を見つめ返すと、隣のスタッフリーダーが「彼女らが例の探偵です」と耳打ちした。それを聞いたスタッフリーダーは眉ひとつ動かさず、視線も変えぬままリターへ言葉を返す。
「何か用か? 申し訳ないが、今から出る。話は後で......」
「花火の事ですよね? 私達も同行していいですか? あの事件の後ですし。移動ついでに、いくつか聞きたいこともあるので」
リターの提案に船長は「好きにしろ」と低い声で答え、彼女らの間を通り抜けていく。その後ろにスタッフリーダーが続き、リゼル達も後を追う。
「この花火、明日の用ですよね?」
「......」
「確認してみないと分かりませんが、恐らくは......」
「一応なんですけど、明日この花火使う予定でした? 今朝あんな事件起きてますけど」
「......」
「まだ決定はしていません。その会議を後ほど......ただ、お客様に余計な不安を与えないためには、実行する可能性も......」
リターの問に船長は視線すら向けず何も答えない。代わりにスタッフリーダーが回答している。船長側が何も言わないのは、彼の言葉が代弁という事でいいのだろうか。とはいえ、やってる事はほぼガン無視なので、それはそれで対応としてどうかとも思う。
その後も「なんで事件を公にしなかったのか?」とか「客への行動制限はしないのか?」などリゼルが聞きたかった事をリターは何度も質問していたが、回答は全てスタッフリーダー。それも「客に余計な不安を与えない」が曖昧な返答がほとんど。船長がリターの問に答えることはなかった。ある質問をするまでは......。
「そうですか。では、もう一つ。この船は明日の夕方到着する港で1度停船予定のはずですが......停船はするんですか?」
「それは......」
「する。この船は客を目的地に届ける事だ。次の港が目的地の客がいる以上、停船は絶対だ」
スタッフリーダーの声を遮るように、船長が返答。視線こそ寄越さないが、言葉を発した船長の背中からは妙な威圧感があり、それは1番後ろにいたリゼルすら感じていた。
「事件が解決してない以上、犯人に逃げられる可能性もあります。なので、停船は避けて貰えますと......」
「ならば、停船までに犯人を見つけ出せばいいだけだ。その為に名をあげたのも君達だろう」
淡々と返す船長。簡単に言ってはいるが、実際その通りではある。本人は言ってないが、付け加えるなら、事件の事を公にしてないのも、停船するまでに犯人を見つけて捕まえて、停船先で警察にでも引き渡せば何も問題ないと考えているのだろう。客に余計な不安を与えないというスタッフリーダーの言葉を考えれば正当ではあるが......安易に時間制限をつけられたようなものだ。巻き込まれ助手のリゼルとしては良い迷惑でしかない。
「そういや、スタッフリーダーさん、腕どうし......」
「着きました。ここです」
そうこうしているうちに、一行は花火の音を辿ってテリープシップの甲板へと到着した。甲板への入口が閉まっていた事で少々時間は取られたが、誤差だろう。
花火の音は既に止んだいたが、丁寧か雑か花火の打ち上げ跡とも言える、打ち上げ道具は甲板に見渡してすぐの場所にばら撒かれていた。また、それ以上の物も......。
「ほんと、首を突っ込まなきゃ良かったよ......」
恨めしげに呟くリゼル。花火の打ち上げ道具から少し離れた場所。甲板に辿り着いた彼らの視線の先には、赤い血溜まりの上で倒れる一人の女性がいた。




