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容疑者とアリバイ。

 事件までの時系列をまとめた所で、次は事情聴取。場所を移し、探偵とその助手達は、第一発見者であるスタッフリーダーを中心に、事件に関わりのありそうな人らに話を聞いていく。

 まず1人目は、第一発見者でもあるスタッフリーダー、36歳の男性。リゼルより若干低いくらいの高身長。茶色の髪と左目の泣き黒子が印象的な好青年だ。多分クラブとかにいる。彼はその役職名通り、この豪華客船テリープシップ内のスタッフのリーダーらしい。ここでの歴も長く、船内での立場もそれなりに高い。立場故に、客や通常のスタッフでは行けないような場所や部屋にも入れるとの事。言い方を変えれば、他のスタッフよりも行動範囲が広く、自由に動けるという事になる。


「事件当時はどこで何をしていましたか?」


 リターが問う。事件当時の動き、いわゆるアリバイだ。探偵の問いに、スタッフリーダーは冷静な態度で答える。


「先程も話した通り、私は2時前に締め作業を終え、その鍵を返却しました。返却時は2時10分くらいだったと思います。その後は、他のスタッフと共に1時間ほど船内の見回りをした後、4時半まで仮眠を取り、5時に船長室へホールの鍵を受け取りに行きました」

「事件関係なしに、大分ハードなスケジュールだな」

「休まる時間が少ないね」

「最初は大変でしたが、何年もやれば慣れるものです。それに、休憩も適度にいただいておりますので。」

「適度に取れる言っても接客業でこのスケジュールはなぁ.....こういうのが慣れちまうような仕事はしたくない」


 スタッフリーダーの活動時間を聞き、尊敬と自分はやりたくないとリゼルは呆れの混じらせる。


「あなたのアリバイを証明出来る人はいますか?」

「他のスタッフにも休むという事は伝えてあります。他にも休憩を取っていたスタッフがいるので、彼らに聞けば証明にはなるでしょう」


 スタッフリーダーの言葉を反応し、彼と同じタイミングで同じ休憩していたというスタッフが彼のアリバイを証明。また、監視カメラでも事件発生時刻に、スタッフリーダーが他の部屋に移動するような映像は残されていない。


「貴方と被害者の関係は? 以前から関わりはありましたか?」

「何度かご利用されてるお客様という事で、私側は把握していますが、お客様が私を把握しているかは分かりません。関わりもスタッフとお客様以上はないかと......」


 この発言には本部長の側近から「今回含め、過去のテリープシップ利用時にも、スタッフと問題を起こした事はない」と付け加える。プライベートまでは把握してないらしいが、少なくともこの船内で因縁はないとの事。


「どう思う?」

「まあ、白寄りのグレーじゃね? 結局休憩中に本当に休んでたかは、同じスタッフの発言でしかないし。口裏合わせてる可能性自体はあるだろ? ただそれだと実質共犯ってことで犯人が1人じゃない可能性も出てくる」

「そうなんだよね。それに、彼の立場なら監視カメラもイジれるかもしれないし......」

「疑い出したらキリがないな」

「それが事件ってものだよ。まあ、動機が見つからないし、君の言う通り白寄りなのかな?」


 ホールの締めから翌日の開けまでの時間を考えれば、彼が犯行を行ったとしてもおかしくはない。だが断定できる証拠もない。容疑者から外れる訳でもないが、現時点での彼の犯行の可能性は薄いだろうと、リターとリゼルは考える。


 次の容疑者は、雇われた冒険者パーティーの男性陣。ピアスを多く開けた金髪の男、肩に小さな刺青の入った茶髪の男、スキンヘッドの男。どこかで見覚えのある3人だ。男達も後ろに控える女性陣も気まずそうに目を逸らしている時点でだが。


「ねぇ、リゼル」

「はい可愛い......じゃなくて、どうかした?」


 不意にリゼルの袖を掴み、小声で話しかけるレシア。毎度の事ながらあまりにも可愛い挙動に、場の緊張感を無視して探偵の助手となった青年が反応する。当のレシアは気にしてないが。


「リゼル、あの人達知ってる?」

「うーん、それはどういう意味? 知り合いかどうかで言えば知らないけど」

「えっとね、あの人達、この船で会った?」

「......そうだね。初日にレシアにナンパしてきた奴らって意味なら会ってるよ。後ろで控えてるのも俺に逆ナンしてきた人達だね」

「やっぱり。どこかで見た事あると思ったから.......」


 見覚えがあると思っていたのは、リゼルだけでなくレシアの方も同じだった。とはいえ、レシアも「もしかしたら」程度の記憶でしかない。だから確認のためにリゼルに聞いたのだ。

 レシアは、興味のないことはあまり記憶に残りにくい。ナンパをされても差程気にしないという部分は感心できるが、昨日今日の出来事を、興味がなければ簡単に忘れてしまうというのは、良くも悪くもな事だ。話を聞いていたのか、リターがチラリと後ろ目で「大変だね」と同情のリゼルへと向けている。やかましい。


「それで、リゼルもあの人達に会ってるんだよね?」

「え、あぁ、うん。会ってるよ。というかまだ続くんだその話」

「うん、続く。リゼル、あの人達に会ってるなら、魔力わからないの?」

「あー、そういう話か」


 ここに来て、ようやくレシアの内容が見えてきたリゼル。だが、その表情はなるほど、と納得したものではなく眉を寄せた険しい表情だった。


「なんとも言えないな。そもそも、あの死体に残ってる魔力が1人の物じゃない気がするんだよねぇ......」


 事情聴取のタイミングで部屋を移動したため、この場に死体はない。戻って確認するのが確実だが、リゼルの記憶力ならばその必要もない。顎に手を添え男性の遺体とそこにあった魔力を思い出しながらリゼルは答える。


「そっか。もし、わかってたら、事件はすぐに解けた?」

「犯人はわかるけど、犯行の方法は分からないかもね。時間かけて証拠集めれば行けるかもしれないけど、それは俺より探偵の仕事だし」

「だから今事情聴取してるんだけどねー。後ろでイチャつくのはいいけど、ちゃんと話は聞いてる?」

「へいへい、聞いてますよ」


 注意するように鋭い視線を向ける地獄耳探偵に、リゼルは面倒くさそうに答える。レシアの話に集中しながらも、リゼルはしっかり事情聴取の内容を耳で拾っていた。

 男達のパーティー内での役職は、スキンヘッドの男がいわゆる盾役で、他の2人が火力担当の前衛職。女性陣とは同じパーティー(女性陣は黒髪が聖職者、茶髪が魔法使い)との事。元から本部長と面識があり、腕が良いという事から今回の護衛任務に雇われたらしい。事件当時の状況、アリバイに関しては先に本部長の側近2人から語られた通り、スキンヘッドの男と茶髪の女が部屋の前で、その他が隣の部屋で護衛のため待機していただけ。部屋の前の護衛は時間毎の交代らしいが、事件当時の護衛はこの2人らしい。室内に本部長以外いなかった事や窓側に護衛がなく侵入可能だったことを鑑みれば、彼らが犯行を行うのはおかしくはない


「お、俺らはやってねーよ! 何よりやる理由、動機がねーし!」

「本当ですか? 報酬が少ないとか? 過去にいざこざがあったとか」

「報酬は文句ねーよ! それなりに貰ってるし! いざこざに関しては......そりゃ、それなりの付き合いだから1回2回はあるけどよ、それを動機にする程じゃねーよ!」

「だって。どう思う?」

「スタッフリーダーより怪しいくらいしかないな。一応そっちの黒髪の女の人が治癒魔法使えるぽいけど、外傷が消えてるからどう言う風に殺したのかもわからんし、どの程度の練度かも分からん。練度次第じゃ候補から外れるし、逆に外付けで治癒魔法を用意できるならあいつら以外でも犯行を行える」

「魔力が1人の物じゃない。みたいなこと言ってたけど、それは?」

「複数人でやった可能性もあるし、魔石で誤魔化してる可能性もあるってだけ。断言出来る証拠はない」

「そっか」


 残念そうに肩を落とすリター。その視線は鋭い。リターはリゼルとの会話を敢えて聞こえるように話していた。それはもちろん、容疑者の彼らの反応を探るため。だがスタッフリーダーはこれといった反応はなく、逆に冒険者の5人は分かりやすく動揺していた。ただ疑われることに慣れてないだけかもしれないが。


 最後に本部長の側近や他のスタッフにも話を聞いたが、全員時間帯的なアリバイはあったり、本部長と接点がなかったり、断定できるものも事件に繋がる証拠もでてくることはなかった。


「ご協力ありがとうございました。とりあえず、今聞きたい話はこれで以上です。また気になることがあればその時にお聞きします。では私はこれで」


 事情聴取が終了し、リターが丁寧な口調で頭を下げ踵を返す。そしてリゼルとレシアの前まで来ては「整理したいから一旦戻るよ」とだけ耳打ちして2人の間を抜き去っていった。


「俺らの部屋だし、お前のASMRは求めてないんだよなぁ......」


 気怠そうにボヤきながらもリゼルはレシアと共に探偵少女の後を追った。


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 部屋に着いて早々、リターはリゼルのベットを占領し、先程の事情聴取で得た情報をまとめていた。場所を奪われたリゼルはというと探偵少女に舌打ちと睨みを飛ばしながら嬉々としてレシアの横に腰を下ろす。


「んで、探偵サマ、何がわかったんですかい?」

「んー、色々気になるところがあったから君の見解も聴きながら話していくよ。後、私をダシにイチャつかないで〜」

「じゃあ退け。さっさと話して退け」

「しょうがないなぁ......」


 嫌そうに姿勢を治して彼らに向き合い話し始める探偵少女。ベットから離れる気配はない。


「犯行当時の状況把握や容疑者達のアリバイとかの確認は済んだし、それ以外だと、あとはやっぱり死体かな」


 今にもポテチを広げ食べそうなテンションで話し始める探偵少女。


「君達も見たでしょ。被害者の死体傷跡も争った形跡も何も無いくらい綺麗だった。君自身も治癒魔法の可能性疑ってたしね」

「まあな」

「だからその事について、綺麗過ぎる遺体(このこと)に関して、君の見解を聞きたかった」

「……それはつまり、お前の予想じゃ今回の事件に魔法が確実に絡んでて、さっき話した人らが犯人じゃない可能性もある。だから魔法使いの俺に殺害方法の意見を聞きたいって訳だな」

「断定はしないけど、可能性は高いと思うよ。それに、君もそういう疑いは向けてるんでしょ」

「まあな」


 微妙そうな表情をしつつ肯定の言葉を返すリゼル。リターの意図を理解し、その解を出すべく青年は顎に手を当て考える。


「......考えられる可能性は大きく分けて2つだな。1つは、さっきから言ってる殺した後に治癒魔法で治した場合。もう1つは『呪い』などの外傷を残さず外部から対象に干渉して殺害する場合だ。一応言っとくと、どっちの方法でもに『遺体に魔力が残る』って条件は達成出来る」

「君的には、どちらの方があり得ると思う?」

「......どちらかと言えば前者だな」

「理由は?」


 リターの問にリゼルは一拍置いて答える。


「単純に難易度が低くて、証拠が残りにくい。殺害方法自体は刺殺撲殺なんでも良くて、その後に治癒魔法用のスクロールや魔導書を、魔力を肩代わりさせるための魔石とかで使えば誰でも同じことが出来る。使い終わった後の道具はどっかのタイミングで海に捨てればいいしな」

「なるほど、確かにそれだと証拠も残らないね」

「魔石の魔力は一定だが、使用者までは流石に俺でも分からない。魔石の中にはその魔石毎の魔力があったりもするから尚更」

「なるほどなるほど。じゃあ、後者の呪いとかの方は? 可能性としては低いと言ってたけど?」


 リゼルの言葉に頷き、メモを取りながらもう一つの可能性についてもリターは問う。低かろうと可能性は可能性だ。真実が明かされるまで無いものだと割り切れる事はない。


「呪い、所謂『呪術』ってのは魔法と同じように魔力をコストとしてるが、魔法とはまたジャンルというか、カテゴリが違うものなんだよなぁ......」

「違うと何かあるの?」

「色々あるけど、1番は習得難易度だな。魔法使いや聖職者とかの呪術をメインとしてない役職の奴が0から呪術を学んでも習得はかなり厳しい。仮に習得出来ても実践投入して誰か殺すとかまでは多分無理だと思う」

「リゼルでも無理なの?」


 レシアが問う。この手の話には基本傍聴しているだけのレシアが珍しく興味を示した。それを意外に感じつつも、期待に添える答えは出せないと溜め息混じりに言葉を返す。


「どうだろ? 知識的には知ってるけど技術的に勉強はしたことないからわからないな。まあ、この場で本だけ読んで覚えて使えって言われても、実戦運用まで持っていくのは流石に無理かな」

「覚えるだけなら出来るんだね......」


 お手上げだ。とでも言うようなジェスチャーをしながらリゼルは肩を落した。彼の意見を聞きリターは残念そうに、レシアは無関心そうに納得する。


「一応、もう1個可能性はあるけど、今は話さなくてもいいかな」

「あるなら話して欲しいけど......理由は?」

「今言っても無駄な情報になるだけ。逆に言うなら、特定の証拠さえ見つかればその方法で断定していいレベル」

「可能性の時点で無駄に情報になることは無いけど......まあ、君がそう言うなら君に任せるよ。確定した時に教えてね」

「はいはい」


 気軽い返事を返すリゼル。軽く情報をまとめて殺害方法の可能性の洗い出しも終了。まだ進展は少ないが、とりあえず休憩にしようと、彼らは未だに取っていなかった朝食(時間的には既に昼食)を取ることにした。

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