いらっしゃい。
「あれ? リゼル君?」
開かれた戸の奥で、不思議そうな声が漏らしながら獣耳メイドが現れる。
リゼルより薄い赤い髪と猫のようなケモ耳と長い尻尾、そして膝上までのフリルなスカートのメイド服が特徴的な獣族の少女。身長はレシアと同じくらい。
「アカネ、久しぶり。ばあちゃんいる?」
「久しぶり、リゼル君。アステラ様なら奥にいるニャ」
「おけ。レシア、入ろう」
リゼルに呼ばれレシアは後ろに着く。すると、アカネと呼ばれた少女が、リゼルの陰からひょこりと顔を出す。
「お連れ様かニャ?」
「そう、旅仲間」
「ニャ~ん......」
リゼルの言葉を聞いて、アカネは、目の前の白髪の少女を見つめた。
メイドとしてのセキュリティガードか、獣としての警戒か。アカネは、レシアのアホ毛からブーツのつま先まで、じっくりと品定めするように見つめる。時折すんすんと臭いも嗅いは、心地よさそうに一瞬頬緩め、往復しながら何度か顔を見ると「結構かわいいニャ......」と漏らしている。
アカネの品定めを、レシアは首を傾げながら見つめ返し、リゼルは大丈夫だろうと、呑気に欠伸をしている。
「もしかして、彼女かニャ?」
「将来的には、そうなりたいと、思ってます」
値踏みを終えたのか、アカネがリゼルへと振り返り問う。対するリゼルは片言気味に答える。もちろんファッション片言だ。レシア関係とはいえ、リゼルが身内相手に緊張することはほとんど無い。
「つまり、外堀りを埋めに来たってことだニャ? アオネちゃんという子がいながら!」
「ダブルで誤解を生む発言はやめて、さっさと自己紹介と案内しろ。赤猫駄メイド」
「誰が駄メイドニャ!」
ニャーニャー騒ぐ赤猫を抑えながら早く中に入ろうと、後ろのレシアに促すリゼル。2人のやり取りを微笑ましく見つめた。レシアの視線に気づいたアカネが咳払いをして、身だしなみを整えて丁寧に向き直る。
「お客様、初めまして。あたしは、アステラ様に仕えるメイド、アカネと申しますニャ。以後よろしくニャ」
「私は、レシア。レシア・フォーノ。旅人。よろしく」
明るい声で含みのある笑みを浮かべながら名乗るアカネと、静かな口調と真顔で返すレシア。実に対照的だ。そんなことをどうでも良さそうに思いつつ、リゼルは、こっそりアカネの脇腹を肘で突く。
「お前の挨拶、ばあちゃんの前でやってたら、拳骨だったな」
「だから先に済ませたニャ」
「駄メイド」
----
「アステラ様、お客様をお連れしましたニャ」
アカネによってリビングまで案内されたリゼルとレシア。そのリビングでは、2人の男女が向かい合うように座り、茶菓子を嗜んでいた。ティータイム時なのでちょうどいいのだろう。
男の方は、皺の深い老人。老眼鏡をかけているが瞼が重いのか、単に薄目なのか目が開いていないように見える。女の方はかなり若く、耳が尖っている。エルフによく見る特徴だ。確かアステラと呼ばれていた。彼らが、リゼルの言っていた祖父母なのだろうと、レシアは察する。
「アカネ、お客が来るとは聞いてないのだけれど?」
「アポなしの突然の訪問ですニャ」
「それなら、お見えになった時点で一声かけなさい」
アポなしの客人、アカネの報告でその存在に聞くとアステラの方が、湯呑を置いて口を開く。かと思えば、客人らに視線を向けないまま出てきた言葉は、アカネに対する対応不備という不満だった。よくない空気だとレシアは察する。
「いくらアポなしの訪問とはいえ、いきなり通されては困ります。まったく、あなたは毎回楽をしようと大事なところを端折......」
「悪いね、久しぶりの再会だから話し込んじゃったんよ」
ツンとした良く通る声で、そのまま話の矛先がアカネに向かいそうになったその時、リゼルが割り込んだ。
「え」
聞き覚えのある声に、アステラは間の抜けた思わず客人たちの方を振り向いた。
そして、見覚えのある濃い赤髪の青年が目に映り、先程までの小言説教が嘘のように柔らかい笑みを零した。
「じいちゃん、ばあちゃん、久しぶり」
「いらっしゃい、リゼル君」




