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リゼルの祖父母。

「いらっしゃい、リゼル君。久しぶりね、元気だった? 少し大きくなった? あら? また魔力量増えたかしら?」


 リゼルの顔を見た途端、アカネにぶつけていた不満は何処へ。立ち上がったアステラは、まさに孫に向ける祖母の笑みを浮かべていた。

 そう、見ての通り、祖母は、孫のリゼルを溺愛していた。

 孫の姿を見れたのが嬉しいのだろうが、やけにスキンシップが多いのと、エルフ故の若さから光景に逆ナンに見えなくもない。


「リゼル、来たのかい」

「うん、連絡なしに悪いね」

「儂らは大丈夫じゃ」


 祖父の方もリゼルに気づいたようで、椅子に座ったまま顔だけを向けて、嬉しそうに微笑んでいる。どうやら薄目なだけでちゃんと見えているらしい。


「リゼルは、家族と仲が良いんだね」

「もちろんね」


 3人のやり取りを見て言葉を漏らすレシア。彼女の声に、リゼルは親指を立てながら振り返り即答した。仲が良いのは元からだが、見栄的なものもあるのだろう。或いは外堀を上手く埋められていると思っているのか、リゼルも疲れが薄れたかのように楽しそうだった。

 そして、その四者のやり取りを1歩引いた所から見守っていた赤猫のメイドが気づく。


(これもしかして、あたしがツッコミ担当ニャ?)


 溺愛の祖母、穏やかに見守る祖父。そして彼女候補の前で見栄を気にしている様子の孫。その3人の光景にレシアの見つめる言葉数の少なく、コミュニケーションも僅かの新キャラ旅人。この4人の現状はツッコミ不在だ。普段ならリゼルがツッコミを担当するのだろうが、何故かしない。今はまだする流れじゃないのかもしれない。だが、彼がツッコミをしないとなればら他の誰かがすることになる。そうすると、この緩い空気に流されず俯瞰してる者がその枠に入る。それは誰か、もしかしなくても自分だ。リゼルが外堀を埋めに来たと同時に、それぞれのポジションも埋められていく事に、アカネは気づいた。気づいてしまったら、しょうがない。


「あたし、お茶入れて来ますニャ」


 このメンツの(特にボケに回ったリゼル)の相手は出来ないと、アカネは台所へ逃げて行った。


----


「それで、今日はどうしたの? 連絡もなしに急に来るなんて」

「あぁ、それも含めて色々話したくてね。とりあえず紹介するよ」


 アカネがお茶を汲みに行った所で、祖母が切り出すと、リゼルが半歩横にズレ、白髪の少女の姿が祖父母達にも映るようにする。そして、紹介をする。


「今一緒に旅をしてる、旅人のレシア」

「初めまして。私はレシア・フォーノ。リゼルのおじいちゃん、おばあちゃん、よろしく」


 リゼルの言葉に繋げるように、レシアは頭を下げ名乗った。敬語やら礼儀やら気になる部分はあるし、リゼルの祖母も気にするような相手ではあるが、あまりに気にしてる様子はない。


「......旅人?」


 むしろ、言葉遣いよりも彼女の()()を気にしているようだった。


「旅人と、言っていたわね? リゼル君、どういう事かしら?」

「ばあちゃん、先に自己紹介でしょ。名乗ってもらったんだからさ」

「む、それもそうね」


 リゼルの祖母は気になりだしたら、問い詰めるタイプの性格だ。この手の性格の問い詰めよりも脱線の方が面倒だと、リゼルは理解している。どうせ後でまとめてする話だ、とリゼルは脱線しないよう祖母に自己紹介を促して手を打つ。


「儂は、ローフという者です。レシアさん、リゼルと仲良くしてくれて、ありがとうございます」

「うん、私も」


 祖父の方が先に名乗る。柔らかく落ち着いた口調で話す。椅子から立ち上がらないのは足腰が悪いのだろうか、それとも動くのが大変なのか、どちらにしてもそう思わせるくらいの年齢なのはレシアでもわかった。


「私は、アステラ。アステラ・スリーフよ。リゼル君のおばあちゃんかしら」


 夫の名乗りに合わせて、祖母の方も名乗る。おばあちゃんという部分を強調しているように聞こえたが、何か意味でもあるのだろうか。ステータスか? 隣で聞いていたリゼルですら首を傾げた。レシアは気にしてすらいない。

 とりあえず、お互いの自己紹介が済んだ。というところで、タイミングよくアカネが茶と菓子を持ってきた。


----


 祖父母の正面にリゼルとレシア、ついでにアカネも入れて5人がテーブルを囲うように席に着き、アカネが持ってきた茶菓子を楽しみながら本題に入る。


「さっきの続きでいいかしら? リゼル君、レシアさんは旅人と名乗っていたけど、それはどういうことかしら?」

「そのままの意味。レシアは旅をしてるんよ」


 自己紹介中もずっと気になっていたのだろう、アステラの問いはやはりレシアの身分、旅人についての事だった。


「......一緒に、とも言っていたわよね? 学校はどうしたのかしら? まだ夏休みじゃなかったわよね?」

「辞めた。モチベなかったし」

「なるほど、辞めたのね......」


 アステラが問いを続け、リゼルは飄々とした態度で答える。隣に座るレシアは茶菓子に夢中でちゃんと聞いているのかすら分からない。

 口調こそ変わらないがアステラの声が僅かに低くなっている。空気もピリついてきた。アカネは胃がキリキリする感覚を覚えながら饅頭を1つ頬張る。お前実は余裕あるな?


「ラウスは何か言わなかったの?」

「母さんが何か言うと思う? 普通に送り出してくれたよ」


 娘とその夫は止めなかったのかと聞くアステラ。しかしリゼルから帰ってきた言葉に「それもそうね」と納得するように頷く。夫の方が出ていないのは最初から当てにされていないのだろう。リゼル側も聞いてこない事に疑問すら持っていない辺り共通認識か。


「アオネは? あの子は何も言わなかったの?」

「ちょうど里帰りしてるタイミングだったから話してもない。連絡も入れてないから、母さんが話さなきゃ知らないんじゃない?」

「「えぇ......」」


 アステラと一緒にアカネの声も重なる。2人ともマジか、と軽蔑するような視線をリゼルに向けていた。


「なんで旅を始めたの?」

「レシアと出会って、レシアが旅してるって言うから俺も一緒に行くわって」

「一目惚れニャね」

「そういう事」


 茶々を入れるアカネに、リゼルが指を鳴らして同調すると鋭い睨みがアステラから飛んでくる。主にアカネに対して。


「学校を辞めて、将来は大丈夫なの?」

「冒険者で食っていけるのは、ばあちゃんも知ってるでしょ」

「でも、旅をしながらでしょ? 大変じゃないの?」

「そりゃ大変なこともあるけど、レシアは旅人歴長くて経験豊富だし、実際今までどうにかなってるからね。半年経ってないけど」

「でも、でも......」


 溺愛している孫とはいえ、流石に学校をやめていきなり旅に出るという行為は納得し難いのだろう。あれやこれやと理由を付けては、リゼルに正確に反論され、それでもアステラの不満は拭えていない。祖母として、家族として、心配は尽きないのだろう。

 埒があきそうにないと思ったその時、祖母と孫のやり取りを静かに見守っていたローフがゆっくりと口を開く。


「リゼル」


 孫の名を呼ぶだけの一言。そこまで大きな声でもなかったにも関わらず、その声は二人を黙らせる重みがあった。


「旅は、楽しいか?」


 柔らかい視線を向ける祖父から投げられた短く静かな問い。その問いに、リゼルも柔らかな、それでいて確かな意思を持った言葉で答える。


「それなりに楽しいよ。レシアもいるし。後悔はしてない」

「そうか、それならいい」


 リゼルの答えを聞き、ローフは納得したように微笑んだ。

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