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船長と探偵。

「リゼル、さっきのエセ探偵ってリターの事?」

「そうだよ」

「どうしてエセ探偵?」


 海の上を飛ぶリゼルに抱えられながら、レシアが不思議そうに尋ねてくる。先ほど残したメッセージが気になっていたらしい。

 リゼルは少し考えてから、肩を竦めて答えた。


「言葉通りの意味だよ。探偵じゃないってこと。まあ、もしかしたら名前すら偽名かもしれないな」

「リターは探偵じゃないの?」

「多分ね。手際の良さとか、なんとなく探偵とは違う感じがした」

「目的は何かわかる?」

「さあ? 本職も分からないからなんとも言えないかな。ただ、探偵を騙ってでも事件を解決したかったのは本当だと思う」

(それに、正体がなんであれ敵対しないなら、どうでもいいしな)


 リゼルは心の中で結論を出し、レシアもそれ以上追及しなかった。無言の飛行が続き、約一時間後、二人はようやく陸地に到着した。


---------------------------


 拘束室から退室するリターと船長。事情聴取を終えた2人は無言で船内を歩き続ける。

 もうすぐ港に到着する頃だろう。神話魔獣は姿を消し(リター目線は撃破を確認)、乗客の混乱も収まりつつある。港に着いたら事件の犯人であるジョンの引き渡しやらでやる事は残っているが、一息つける時間くらいは確保できるだろう。リターは緊張を解くように軽く息を吐いた。


「探偵殿、少し宜しいか?」

「......なんでしょう?」


 前を歩く船長に声を掛けられ、リターは気を張り直す。


「まずは今回の事件の解決及びその後の対応への協力、心から感謝する」

「それが私の仕事なので。欲を言うなら、その言葉は助手2人にも聞かせてあげたかったですね」

「それは私も心残りだ。次に彼らを迎える機会があれば、その時にでも伝えるとしよう」

「そうしてください」


 柔らかい話にリターの気が少し緩む。これくらいの気楽な会話が今のリターには心地が良い。残念ながら、本題はこれじゃないのだが。

 リターの気も知れず、船長は「ところで......」と切り出す。


「先程の話のこと、聞いてもよろしいか?」

「先程の話?」

「ジョンの家族の安全の確保。深く聞くなら、探偵殿の正体だ」


 船長は足を止め、振り返った。その鋭い視線は深く被った帽子の鍔の下からでもわかるほど、警戒の色がはっきりと浮かんでいた。


「貴方がただの探偵ではない事はわかった。出来ることなら、その正体を明かしていただきたい」

「......」

「こういう言い方は悪いが、うちの部下が唆されて今回の事件をやらかしている訳だ。内部はもちろん、外部の相手はより注意を払わなければならん」

「......まあ、その言い訳でいいでしょう」


  リターは軽く肩を竦め、苦笑を浮かべた。彼女自身は違うが、責任ある立場の人間が取るべき警戒心は理解できた。だからこそ、責める気にはなれない。

 だからこそ、リターは素直に答えた。


「確かに、私はただの探偵ではないと言いましたが、そもそも探偵ではありません」

「何?」

「正確には、時に探偵を名乗り、時に別の役職を名乗る者という事です」

「どういう事だ?」


 リターの紛らわしい説明に、船長の警戒が強まる。ただでさえ、部下が知らず知らずのうちに、裏切りに走っていたのだ。訳の分からないこと言動ほど他人に警戒を持たせるものはない。

 探偵ならばそれに気づいているだろうに、リターはそんな船長に構うことなく、静かに言う。


「シェリウス」


 一言、小さな口から発せられた1つの単語。その意味を知る者は世界でもそう多くない。だが、目の前のこの男は、その意味を知っていた。知っていたが故に、船長は口を開いたまま絶句する。


「探偵殿、貴方は......」

「船長さん、私は約束を守ります」


 衝撃のカミングアウトに言葉を失った船長。何とか声を振り絞るが、リターはそれ以上その話を広げるつもりなく、船長の言葉を遮るように話す。


ジョン(あの人)の行動も判断も罪も、全部あの人のものです。そして、その罰をあの人は受け入れた。なら、私はその覚悟が揺るがないように、期待に答えます」


 それが「シェリウス」の、()()()()()()()()()()のやるべき事だ、とリターは真っ直ぐな瞳で言い切った。


(シェリウス......シェリウスの彼女なら、裏切る事はないのだろうな。そういう眼をしている。良い眼だ。ならば、私のやるべき事は難しくない)


 先程の単語に、船長は未だ頭と感情の整理が追いついていない。だが、彼女の意志と言葉は、不自然なほど自然に、受け止められた。受け止められたのだから、次にするべき行動もわかっている。

 船長は被っていた帽子を外し、深々と頭を下げた。


「そうか......では、よろしく頼む」


 余計な言葉は紡がず。ただジョンの上司として、幸福を運ぶ豪華客船テリープシップの船長として、最大限の礼儀と感謝を持って、彼女への心からの信頼を返すのだった。

船旅編、これにて完結です。

最後は若干駆け足になりましたが、まあ、いいでしょう(物足りなかったらまた付け足します)。

リターの掘り下げや彼女の所属する「シェリウス」関係は今のところ本編で回収する予定はありません。本編では。

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