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追想の愛は誰の為に  作者: 伊藤猫
第五章 わたしの檻
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10.これは慣れそうで怖い



 メイラは南北に伸びた島国であり、エイリース国は島の南側から海を渡ったところにあるメイラと近い大陸国の一つだ。

 メイラより温暖な気候だが、十年前の戦争によって敗北から始まったその国は中立になることを強要された。いわば中立という名の孤立だ。

 魔石が枯渇し、プランツ教に唆されたためメイラを属国にしようとしていたが、それはメイラが反発した結果一時は失敗に終わった。


 そんなエイリースの使者を自国の戦艦に招き、かつて王城で務めていた文官と対談していた。

 人族の使者は黒いひげを蓄えた顎を撫でながら文官を品定めるような目で見ていた。


「なるほど、誰もが魔石を作る魔術を提供すると」

「えぇ、こちらは女神の威光によって開発が阻まれていた技術故にこれまで表に出せなかったのです。ですがその女神の使者が魔石の管理を手放した今、堂々と貴国に提供できるというもの」

「つまりその技術を提供することを証として、こちらの要求に応じてくれると」

「は……?あ、いや……そうではなくてですね……」


 強気に出るエイリースの使者との対話が成り立たず、それを通信用の水晶越しに見ていたアコナイトは内心ため息を吐いていた。


「どちらの国もろくな耳を持ってないのか……」

「隊長、お口が乱れておりますよ」


 アコナイトの後ろで控えていた側近兵がその場で彼女を宥めるが、アコナイトに反省する素振りはない。どうせこちらから口を出しても向こうにはこの声は届かないのだから。


「それにしても、南隣……トーラスは黙っていないはずだ。この件で干渉してこないのはなぜだ……」


 エイリース国の南隣にあるトーラス国は十年前の戦争でエイリースに勝利し、エイリースを中立として敢えて孤立させた国だ。メイラ国を属国にしようとするのは許さないはずだ。


「元々我が国も中立を名乗っていますから干渉する必要がないと判断したのではないでしょうか」

「どれも憶測にすぎない。トーラスに使者を送ろうにも囲われて動けないのがもどかしいな」


 アコナイトは騎士家系の出だが貴族としての社交は幼いころから慣れており、軍事学校にいた頃に文官資格も取っているのでこうした場に色々建前を付けて無理矢理参加することは可能だった。

 なんなら大陸の言語もいくつか履修しているのでやや訛りはあるが話すことも読み書きも多少は可能だ。


「私も行けばよかっただろうか」

「いけませんよ」

「分かってる」


 しかし第一部隊と第五部隊の大隊長が入れ替わったばかりの不安定な状態で第二部隊の大隊長までもが欠けることは出来ない。そのためアコナイトがシャトーバニラの軍本部で待機せざるを得なくなったのだった。


『にして、そちらには竜人族の生き残りがいるとか。貴国が応じてくれないのはそれもあるからでしょうか?』


 やはり彼女のことを出してきた。


『我が国には数多くの民族、種族がいます。一つの、しかも少数民族だけに我が国の命運を任せるつもりはありませぬ』


 すでに事前の打ち合わせした通りの回答をすれば、彼らは嫌味ったらしい顔を浮かべていた。


『ならばその技術と竜人族の娘、こちらにくれないだろうか。そうすればこちらも手を引く』


 突然の要求にその場にいたエイリースの使者以外の全員に緊張が走った。民を一人寄こすこと自体可能だっただろう。しかしその竜人族は一人しかいない。


『現在我が国において竜人族は一人しかいない。そしてその者は私の娘だ』


 文官の護衛の中で一番体格の大きい鳥族の男が口を開いた。


『ヴィスコ殿。お気持ちは察するが今は』

『おぉ、貴公のご令嬢でしたか!なら話が早い』


 メイラの文官が冷や汗をかきながらターゲスを諫めようとするがエイリースの使者はそれに食いついてきた。

 しかしターゲスはそのまま話を続ける。


『見ての通り、彼女と私には血の繋がりはない。しかし彼女は友から託された大事な娘で私の家族だ。父として娘をもう国の事情に巻き込むことはしたくない』

『奴隷のようだと思ったのでしたら申し訳ない。我が国の聖女として国を救っていただきたいだけだ。そしていずれは騎士の妻にしましょう』


 妻になんてそんな話を信じられるわけがない。あちらは人族優位の国だ。欲しいのは妻という名の竜人族の母体だろう。

 そして水晶越しにその話を聞いていたアコナイトは顔をしかめた。モス=オーキッドの件が脳裏によぎったからだ。どちらにせよ不愉快な話だ。


『それでも無理だ』

『国に臣を置く人間とは思えませんな』


 その言葉にアコナイトはカチンとくる。後ろにいた側近兵はアコナイトが最近手懐けたばかりの魔獣を差し出せばすぐに撫で始めた。撫でられる場所が心地いいのか魔獣もくるると喉を鳴らす。本来毒を持つ魔獣だが、毒の魔法を持つアコナイトだからこそ触れられる生き物である。

 ターゲスは静かにその言葉を放つ。


『俺は皇帝を殺した男だ。その意味が分かるか』

『……』


 反逆(クーデター)の主犯は表向き死んだ前元帥だと言われているが、ターゲスが主犯であることは軍の中では公然の秘密だった。


 まさか彼はまた戦うつもりなのだろうかと疑いそうになる威圧。

 水晶の映像に映るターゲスの姿は遠いのに、その大きな体格ゆえか、それとも彼のその張り上げてもいないのに地鳴りのように響く声のせいか、彼のことを久しぶりに恐ろしいと感じた。


『それに彼女には既に婚約者がいる。想い合った相手だ。彼らの仲を引き裂くつもりはない』


 あちらは黙り込んだ。



―――



「ごめんねジュリア、連日当番になっちゃって」

「かまいませんよー。お嬢の頼みだし?」

「そうです。お嬢が気にする必要はありませんよ」

「スケイルお前が言うな」


 最近は護衛として癖のある黒髪をツインテールしている豚族のジュリアと普段からフードを被っている蛇族のスケイルが付いてくれている。

 これでジルベールがいればいつものトリオの完成だったのだけれど、ジルベールは非番だ。三人合わせれば色々うるさいし面倒だが今は大丈夫だろう。多分。

 ちなみに軍にいる女性は圧倒的に少ない。その中で戦える女性はもっと少ない。

 だけどそんな数少ない女性の兵士を連日私の護衛に回してもらわないといけない事態が発生してしまったのだ。


「ミス・ヴィスコ。カレンデュラ伯爵についてお伺いしたいのだけど時間はあるかしら」


「フィラデルフィア様へお話がしたい方は事前に面会依頼をしてください」

(お嬢に近づくな一昨日来やがれ)


「ロイ……カレンデュラ様のことは私には分かりかねます」


「ミス・フィラデルフィア、君とカレンデュラ伯爵との関係は……」


「フィラデルフィア様はただいま貴族アレルギーが酷いので近付かないでください」

(お嬢に触れんなクソガキ)


「発症してません。変なこと吹き込まないで下さい」


 ロイクが学院に出入りするようになったからだ。

 ロイクは一昨日から領地返還の手続きが終わるまでゲリーとアイリスの住んでいる邸に滞在しているのだけれど、教師で研究者でもあるベンジャミン先生がロイクを客人として学院に呼んだのだ。

 私がロイクと一緒に学院内を散策していたのが広まっていたこともあり、事実確認をしようとする生徒が増えた。


「あの、これ落としましたわよ」

「えっ?」

「お嬢待っ……!」


 仕舞っていたはずの自分のペンを差し出されたので受け取ろうとしたが、スケイルの制止も遅く、バチンと静電気が弾けて思わず落としてしまった。

 ジュリアに庇われながら相手を見ると、相手の手が突然現れた炎によって焼かれてしまった。


「きゃぁあっ!?」

「あ、あの……」

「っ覚えてなさいよ……!!」


 相手は逃げるようにその場から去ってしまった。ジュリアは「そんな捨て台詞いう奴いるんだ」と関心した。

 落ちてしまったペンは魔術的な細工をしていたようで、私のものではなかった。


 ロイクが現状私の婚約者であることを知った途端、小等部に居た頃と似たような嫌がらせが起きてしまい、しばらく使っていなかった呪詛返しのお守りが必要不可欠になってしまった。


 それに嫌がらせをする人のほとんどが女子生徒であるということもあり、女性しか入れない場所でも必ず護衛が必要になる。

 今までは男女関係なく順番に回していた護衛の当番も一人は必ず女の軍人が付かなければならなくなった。


 おかげで仕事モードになっても素の副音声が聞こえてくる二人に庇われながら一日生活する羽目になったのである。


「お疲れのようですわね。フィラデルフィア」

「仕方ありませんよ。だってフィーは色んな意味で目立ちますから」

「カメリアぁあ、コスモスぅ……」

「あらあら……」

「もう、しゃんとなさい」


 カメリアとコスモスが聖母に見える。それくらい私も疲れていたようだ。

 嫌がらせをされていなくても私に対する視線や陰口が聞こえてくるから、気を張り詰めてしまう。思わず二人に抱き着いてしまうくらいには私も参っていた。

 そういうこともあって昼休みは食堂には行かず東屋でカメリアとコスモスと共に昼食を摂っている。二人にはお礼にとお手製のお弁当を作って持って行っている。


 昼食を摂っている間にコスモスがこの二日間で知ったことを話せば、フィーの護衛に付いているスケイルも自然と耳を傾けている。ジュリアは関心がないのか東屋の外を向いてあくびをしていた。

 こういう時のコスモスのゴシップ好きは存外役に立つ。情報の質は兎も角、とりあえず噂の内容だけを知りたい時にはちょうどいいのだ。


「にしても、貴女の評判も落ちましたわね。亡くなった妻を慕う殿方に付け入る女狐だとか」

「……」

「えっ、あ、ごめんなさい……」


 カメリアが素直に謝罪するくらいフィーが寂しげな顔をするのでコスモスは話を戻した。


「ですがそこまで広がるのはなぜでしょう?私もその方にお会いしたことないのに」


 自分が学院に編入したころ、ターゲスの娘ではなくカレンデュラ家の孤児として広まっていた。その噂を広めたのは彼を知っている世代。


「……ロイクを知ってる先生方が話したんだと思います」

「でしょうね。わたくしもお会いするまでいい噂を聞きませんでした」

「その方は一体何をしたんですか?」


 フィーもターゲスから色々話を聞いているが全てを教えてもらっているわけではない。ロイクがターゲスを『旧友』と呼ぶくらいの相手だからこそだろうが。


「嫌われてたら女性に好感触にならないでしょう?きっと嫌っていたのは殿方です。

 地方の領主があんなに女性に好意を寄せられていたら妬みを持ってもおかしくないでしょう」


 コスモスはなるほどと頷いているが、カメリアは先程から苛立ちが酷い。

 コスモスが座ったまま無言でお茶のお代わりとデザートのスイーツを差し出せば、カメリアは優雅ながらも早いペースでそれを口に入れてくる。私たちの分は残してくれるだろうか。


「それにベンジャミン先生も大概ですわ。いくらカレンデュラ殿が呪術にも精通しているとはいえ、授業以外の時間を彼と研究なんて!おかげでろくに来ないクセに研究室にやって来る方が多くて多くて……っ!」


 カメリアに関してはベンジャミンを占有できなくなった不満もあるのだろう。私はコスモスと視線を交わして苦笑した。


「ロイクも断れたら良かったのですけれど……」


 ベンジャミン先生の実家はまさかの侯爵家だった。アリスが公爵家だったのでその一つ下ではあるが、それでも高い地位にある。

 呪術というニッチな学問を担当しているとはいえ、その暗い容姿でほとんどの学生を近付けない彼がなぜ学院に居られるのか不思議だったが、そういう理由があったのだそうだ。

 本人が言わなかったから私は知らなかったが、ロイクは家名からすぐに気付いたらしい。それでも何か興味を惹かれるところがあったのかその招待に応じたのだ。


「ミズ・ナスタチウムも乗り気らしいのですよ。でもベンジャミン先生は兎も角、ナスタチウム先生までどうして……?」

「あぁ、それは……」


 コスモスが首を傾げるので私の口からロイクとナスタチウム先生の関係を知っている限り話すと二人は意外そうな顔をする。


「なんだか、ナスタチウム先生らしいですね」

「はやくナスタチウム先生が彼の所有権を勝ち取っていただきたいものですわ」

「それを決めるのはロイクですよ」

「でもそれではフィーも二人の時間が取れなくて寂しいですね」

「あら、フィラデルフィアは今日からミズ・ナスタチウムの元で学ぶのでしょう?」


 カメリアの言葉にフィーも頷く。


「この騒ぎにミズも見兼ねたみたいで……」


 教師もそうなった要因であるからだろうがナスタチウム先生が呼ぶなんて珍しいこともある。


「そうなのですか」

「昨日は酷かったですものね」

「……本当に」


 ロイクの噂を聞きつけた令嬢がベンジャミン先生の研究室に押しかけるやいなや、私がロイクと普段通りの会話をしていたのが気に食わなかったらしく、私に嫌味を言うとロイクが諭すように説教をした。

 一時その場は収束したものの、結局私へのやっかみが増えたのだ。

 しかしロイクも良くなかった。怒りを抑えた結果なのは分かるが子供の説教と変わらなかったのだから舐められたと思ったのだろう。


「あぁ、そうでした。フィラデルフィア、先日まで行っていた先生の研究成果の論文の草案です。今のうちにお渡ししておきますわ」

「ありがとう……!」


 カメリアが魔術陣を格納する杖を出すので私も同じく杖を出してこつんと重ねる。

 するとカメリアの杖から光が放ち、私の杖にそれが伝わった。これを紙に転写することで草案の内容が読めるようになる。


「人手が足りないんですもの。早く戻ってきてくれないと、いつまで経っても終わりませんわ」

「うん……」



―――



「ミズ。道具の片付け終わりました」

「ありがとう。魔力は残っているかしら。属性別に魔石を作って置いて欲しいのですが」

「大丈夫です」

「良かった。貴女の魔力量は学院でもトップクラスですからね」

「そんな、かいかぶらないでください」

「嘘は言いませんよ」


 さすがに研究室を仮で入っているだけあってやっていることは雑用ばかりだが気分転換にはなる。


 島の外に出たいと思った日から、私はベンジャミン先生に呪いの事を教えてもらおうと思っていたけれど、肝心のベンジャミン先生はロイクにばかりかかりきりで、私は研究室でも少しだけ宙ぶらりんの状態になった。

 しかも他の女子学生からの嫉妬なども相まって見かねたナスタチウムが私を自分の研究室に連れて来たのだ。


「そう言えば他のメンバーはいないんですね」

「さぁ?今は他の研究室でしょう。それに家や派閥を理由に研究室を選ぶ者がほとんどですからね。

 それに私はどちらかと言えば研究者というより教育者ですから」

「何となく、そんな気はします」


 彼女は初老に近い身空でありながら小等部担当の教師だ。

 どれくらいの年数を学院で教師をしているのかは知らないが、彼女のようなの者が魔術の研究ではなく貴族としての教育をするのだから教える事の方が性に合っているのだろう。


「それに私は誰かさん達から提供された情報の精査するのに忙しいのですよ。専門外のものを寄越された時の苦労と言ったら……」


 なんか最近聞いた話だ。


「すみません……」

「貴女が謝ることでは無いでしょう。それにそれらの情報が集まるから私も学院にいられるというものです。北の方々は何故か()に隠したがりますからね」


 とはいえナスタチウム先生はやはり面倒見が良かった。ベンジャミン先生の研究室ではあまり使われない器具の手入れの仕方を懇切丁寧に教えてくれたのである。


「流石に手慣れていますね。特に容器やナイフの手入れは大抵の人が初めに怪我をするのですよ」

「幼い頃からやってますから」


 それでもガラスや陶器の器を磨くようになったのはロイクに拾われてからだ。花瓶やランプのカバーを磨き方を教えてもらう際にガーベラにガラスや陶器の価値を教えられて脅された。

 そのせいでターゲスの養子になってから頻繫に使うようになった陶器製の食器を前に慣れるまで手が震えたものである。


 雑用が一通り済んでこれで終わりかと思えば「なら授業の課題でもしたらどうですか?専門分野なら教えることは出来ますよ」なんて言うので泣く泣く課題をこなすしか無くなる。


「小等部にいた頃より学力が落ちたと噂を聞いてましたが、基礎は出来ているようで安心しました」


 高等部で学ぶ魔術の基礎は全て孤児院でロイクから教わった事だ。流石に応用まで行くと辛くなる。

 小等部では色々誤魔化しながら覚えてきたことが高等部ではそれが通用しなくなっているのだ。中間がない。それ故授業を受けようにも教授の説明がてんで分からない。

 質問をしに行こうにも私を毛嫌いしている教授が未だに多くて取り合ってくれなかったものである。

 だがナスタチウムの教えはするすると入ってきた。


「すごい。分かりやすいです……!」

「応用が出来ないと思っているのは、教師の言い回しが貴族向けだからなのでしょう。彼らは遠回しな言葉を好みますから」


 嘘だろ。あれは全て王宮言葉だったというのか。


「……なんだか損した気分です」

「むしろこの数年で全く身に付いて無いのも不思議ですね。振る舞いを教えてくれたというお友達からはなんと?」

「カメリア……えっと、ローレルはそういうタイプではないので……」

「あぁ……彼女でしたか。彼女は確かに……忌憚ないというか、真っ直ぐな子ですからね」


 憂う顔をしているがカメリアは女子学生の中でも特殊だ。

 元々伯爵家だった彼女の家は、内乱の戦火が飛び交う時期に、平民向けの物を売る商人として事業を立ち上げたらしい。貴族が平民に物を売ることが卑しいという考えがある中、彼女は学院の小等部の頃から孤立していたようだ。

 平民の血税で豪遊しておきながらそんな考えがあることに私は驚きが隠せないが、カメリアは貴族でありながら貴族と馴染めず、かといって身分や派閥のせいで商人とも仲良くすることが出来ずにいたようだ。

 ちなみに同じく小等部の一年からいるコスモスはカメリアを認識こそすれども身分も違うし、彼女自身も別の貴族令嬢の取り巻きをしていたので、互いに声をかけようにもかけられなかったというのがコスモスから聞いた話だ。


 「直截的な言葉を選ぶのは品がありませんよ」と彼女は言うが、ずっと私に会話を合わせてくれている。

 魔術を学ぶ前、ロイクから言われたことがある。学院には平民もいるがそれは豪商がほとんどで、魔術を学ぶのは貴族の特権だと思っている者もいると。


「ミズはどうして私に分かりやすく教えてくれるのですか?」


 小等部にいた頃は言葉遣いなどのマナーで散々小言を言われたが、特段彼女と仲が良かったという記憶は無い。良くも悪くも他の学生と同じように平等に接してくれた。


「高等部は私の管轄外ですから。個人的な話に棒をつくのは野暮でしょう?

 それに貴女と仲良くなれば、情報を送ってくれる機会が増えますから。研究費用が増えて困ることはありませんよ」

「……」


 つまり他者の研究成果を自分の褒賞(ボーナス)にしているのか。こういう話を聞くとこの人は貴族というよりも商人のようだなと思う。


「お話中失礼します。お嬢」

「どうしたのジュリア」


 護衛としてかしこまった姿のジュリアにフィーは委縮しつつも返事をする。


「急で申し訳ないですが帰宅命令です。帰りましょう」

「えっ、ど、どうしたの突然!?」

「移動中にお話します。準備を」

「構いませんよ。言えない事情でもあるのでしょう?」


 先生は肩を竦めつつも帰りを促してくれた。


「ごめんなさい。……ごきげんよう」


 私は言葉だけの挨拶をして研究室を出た。



今更ですが今までこちらで投稿していた番外編や閑話休題を以下URLに移動しました。

最新話にダリアの過去編を入れています。

https://ncode.syosetu.com/n2860if/

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