14.作戦実行
「君の立場が変わろうと、君は私の娘であることには変わりない。………君を利用しようとしていること、許してほしい」
ターゲスの謝罪にフィーも緊張が解けた。
「…………すみません、私も気が立ってました」
「無理もない。そもそも君は目立つことを望んでいないのだったな」
ターゲスは長いため息をした後、「実はな」と口を開く。
ターゲスは第一部隊と第二部隊で行った会議での決定事項、および私への相談事項を一から教えてくれた。
先ほど言っていた皇帝権限の魔術は領海に入り込んでいる他国の船を追い出す機能があるということ。
その魔術を行うに先立って、全ての魔術属性が込められた魔力の補充が必要であるため、その全ての属性が含まれている植物の魔法が使えるフィラデルフィアから魔力を融通して欲しいということ。
その魔力を融通したという実績をあたかもフィーが女神の生まれ変わりであるということを示唆させ、オルキデアは皇帝として国に認めさせるという魂胆があるということ。
「私とオルキデアの魔力で足りるんですか?」
「長らく使っていないので魔力を満たすには時間がかかると思う。魔力を供給する場所は海沿いにあるから、足りない分はオルキデア皇女が魔力変換で魔石に変える」
「王都の地下にも鉱床がありましたけど」
「それは聞いてるが、真下だろう。採掘したら地盤が緩んで街が沈没するぞ」
冷静に却下されてしまった。
この国の貴族は特に魔石に依存している。平民と違って自分の魔法を生活で使用するなんて考えがないのだ。
「気持ちは分からんでもないが」と言うあたり、この国の魔石不足は深刻なのだろう。
「親子水入らずの面会でここまで魔術で防御していることに不自然だと思わないか?」
「……さっき事情を話してくれましたよね?」
第二部隊はアリスが何人もいるような場所だとウォルから聞いたことがある。
アリスの能力がどんなものかは分からないが、彼の魔法が盗聴に長けているらしく、そうなのだろうなとフィーは納得していた。
「アレも間違いではないが……教祖マグノリアの魔法の影響下から外すためが第一だ」
「盗み聞きする手段って以外と多いんですね……」
盗聴も防音も可能なアリスの音の魔法といい、見知った相手の視界を覗き見ることができるアネモネの魔眼といい、レオの影にもぐりこめる魔法も使い方によっては盗み聞きすることは可能だろう。
あのソーレルが自分らの会話を盗み聞きするならどうやって行うのだろう。遠隔でアリスの命を救ったくらいだ。魔力の影響範囲も広いと思われる。
「もしこちらの動きを察せられたらロイクに危害を加える可能性も無くもないからな……」
「あ、あぁ……」
ソーレルが女神の娘だからなのか、自分はロイクに危害を加える可能性を考えたことがなかった。
そう言えば自分は今までロイクの心配していなかったことにフィーは気付く。
「フィー、どうした」
「あ、いえ……なんでもないです」
ターゲスは訝し気にフィーを見ながらも作戦の詳細を話し始めた。
今回の件を知っている者はターゲスが率いる第一部隊とアコナイト率いる第二部隊に所属するごく限られた人間しか知られていない。
既にアリスが生きていることは内外共にに周知しているが、その時点でオルキデアが意図的に教会にもぐりこんでいたということが教会にも知られてしまった。
そのため今夜にでも冤罪で処刑されかけたフィラデルフィアとそう仕組んだ元凶であるオルキデアが共に国を守ったという実績を作りたいらしい。
フィーの本心は無視して、せめて対外的には仲良くしてくれと遠回しに言われるとなんだか複雑な気分である。
「今夜って大分急じゃありません!?」
現在午後の18時半を回っている。空はまだ明るいが既に日は沈んでいた。
「それくらい急務なんだ。それにほかの連中に悟られないようにするには私の謹慎が解除されたその日の方がいい」
オルキデアが行おうとしている皇帝権限の魔術は本来、緊急時のスイッチのようなもので、その動力は魔石の魔力で補うものだ。しかし国内は魔石不足なので使うことができない。
だが氷の魔法が使えるオルキデアは水も魔法の制御対象に入るため、海水の水分を魔石に変換し、その魔石の魔力も使って供給するのだという。
オルキデアは魔力暴発を起こしてから間もない。魔力変換を行いながら魔力供給をするなんて肉体的にも負担も大きいはずだ。
「この案を出したのは夫人だ。これは彼女なりの贖罪なんだろうな」
「その時私は何をすれば……」
「君は夫人がその魔術を使う前に魔力を注げばいい」
その魔術は全ての魔術属性が必要であるようで、フィーがちょうど適任なのだという。
というのも、植物を育む『魔術』は全ての属性の魔力が必要になる。
植物の『魔法』が扱う魔力を使えば全ての属性が揃うことになるから、オルキデアが魔力を注ぐ前にフィーが魔力を注ぎ、無事に魔術が起動する準備が出来れば今度は王城に向い、オルキデアがその魔術を起動すると同時に魔力供給を交代すると言われれば納得した。
自分はポンプ式井戸の呼び水のような役目らしい。
「オルキデアの意気込みも含めて納得しました。協力はしますよ」
フィーの了承の言葉にターゲスは安堵した表情を見せた。
「……私は、一時的とはいえ、夫人が皇帝になることに歓喜しているんだ」
「え?」
ターゲスは内乱で皇帝を処刑した首謀者の一人だ。皇帝の政治に不満があるから、恨みがあるから裏切ってまで処刑を推し進めたのではないのか。
そんなフィーの考えを察したのか「少し、昔話をしよう」とターゲスは自分の過去を話し始めた。
ターゲスには昔、自分の親が罪人となったため、連座で処刑されるところだったのを当時の皇帝が取りなしてくれたという過去があった。
本来なら愚かな親のせいで死んでもおかしくなかった自分を救ってくれた恩でファレノプシス家へ個人的に忠誠を誓っていた。
それからターゲスは罪人の子であることをもろともせず軍で出世していき、身内を裏切ったという噂などもあり孤独ではあったが、順風満帆な人生を送っていたという。
その後起こった内乱で初めて知った内政の現状と、自分を救ってくれた皇帝が貴族たちによって不遇な扱いを受けている状況を知って反旗を翻すことを決めた。
しかし反旗を見せた時点で対外的には皇帝を裏切っていることに変わりはない。
皇帝を処刑しなければ自分と同じく反旗を翻してくれた同胞たちにも面目が立たない。だから処刑せざる得なかった。
かつての皇帝が自分にしてくれたように、どうにか手を回して罪のない皇族を連座で処刑されるのを回避したものの、最終的に生き残ったオルキデアは皇帝になる意思がなく、反逆した軍に復讐することも考えることなく、完全に生きる意欲すらなくなった状態だったらしい。
しかしアリスの尽力で生気を取り戻し、自分の姪であるサイネリアもといアネモネに皇位継承権の魔術が付与されていると知った途端、彼女に余計な不穏分子を取り払うためにレガリアを取り戻したのだという。
「私は本当にこれでよかったのかと幾度となく考えたこともあったが、夫人は国を守るために主君になることを決めた。君にとっては色々巻き込まれたからいい印象はないだろうが……」
「ちょっと待ってください!アネモネには何も魔術がかかってないって聞いてましたけど」
「皇族にしか分からないようになっていたんだ。皇帝の王笏で判明した」
オルキデアが術をかけるとアネモネの右手の甲に「1」の数字と蘭のつぼみの印がついていることが分かった。それが皇位継承権の魔術、もとい魔術の使用許可証のようなものだったらしい。
ちなみにオルキデアは皇帝の証として左腕に紫のカトレアの花が咲いていたらしい。
オルキデアはオーキッドの死後、気配でそれを感知することができるようになったようで、アネモネに出会うまで気付かなかったという。
今はその魔術も解除されているためアネモネは王都の各地に仕組まれていた転送魔術が使えなくなった。
アネモネは相当残念がっていたらしいが、脱走癖があるのだから没収されても仕方ないだろう。
オルキデアの行動はアネモネやシオンを保護するためだということは知っている。
しかし自分は処刑にまで追い込まれてしまったし、アリスを殺してまで行った暴走だったため、現在彼女に対していい印象が無い。
「それを話されても、私はオルキデアのことを心から許すことは難しいです」
「……だろうな。せめて表向き謝罪は受け入れてくれ」
貴族は面倒くさいなとフィーは内心ため息を吐いたのだった。
―――
夕食や入浴を済ませた上ですべてを備えた21時前。
防御の魔術が設置されている場所に行くため、シャトーバニラを周辺を囲う北側の城壁の上でメンバー全員と顔を合わせた。
挨拶をした途端跪かれたオルキデアを前にフィーは思わずたじろいだ。
「貴女を危険な目に遭わせた謝罪をさせてください」
必要最低限のマナーや立ち振る舞いは孤児院ではガーベラが、ターゲスの養子になってからは魔術学院の小等部での授業や同級生たちを真似たりして身に着けたが、流石に皇族が目の前で跪く時にどうすればいいのかまでは学んだことがない。
困った顔でクライアンを見ると謝罪を受け入れるようにと頷かれ、フィーはオルキデアを見た。
「受け入れます。……どうか、頭をお上げくださいませ。オルキデア様」
「……ありがとうございます。フィラデルフィア」
社交辞令は未だに分からないけど言葉遣いを取り繕うことはできる。自分が一線を引いたことに気付いたのか、頭を上げたオルキデアは一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべた。
(ごめん。貴女の事情は理解できるし謝罪は受け入れるけど、今は完全に許すことはできない)
今回の作戦で向かうのはフィーとオルキデアと指示役のクライアン。護衛役として今日まで謹慎を受けていた第三小隊の選抜メンバー五人である。
フィーたちは本部からは容易に抜けることはできないため、転送魔術でクライアンの魔力が籠った魔術道具を送り、時間になったら現地の人間に呼び出してもらう予定である。
遠方であればあるほど魔力消費が激しいらしく、今回の移動では魔石の魔力も借りないと出来なかったという。クライアンがいなければこんな大胆に移動することは出来なかった。
フィーたちが向かうのはメイラの東南にあるパイン領境界にある城塞だ。
パイン領は海に面しており、アコナイトが当主を務めるベノム家が管理している土地であるため向かうのも比較的容易だという。
軍事機密に触れない程度にいろんな話を聞いていたが今回の一件でアコナイトの貢献度はかなり大きい。
アコナイトだけではないがターゲスを解放するために奔走したり、ウォルを助けるために急遽リナリアを寄こしてくれたり、自分を匿うためにシェルターの一室を貸してくれたりと大分手厚い。今度お礼言わないといけない。
全員が姿隠しのマントを被ることを確認するとクライアンは腕に付けている魔術道具が点滅していることを確認した。
「準備が整った。行くぞ」
クライアンが大き目の魔石を手にしながら指先を縦に空を切ると、空間に裂け目が現れた。
開かれると同時にすぐさまその裂け目を潜りこむと、一気に肌をなでる空気が変った。周囲はとっぷりと暗くなっており、窓からは城壁に灯る監視の灯りが等間隔に光っているのがよく見えた。
一緒に付き添ってくれた護衛が次々と目くばせで安全確認を取る。護衛の者たちの目は夜目が働いているのか瞳がほんのり光っていた。
確認が取れるとクライアンは再度魔法で空間に裂け目を入れてはその裂け目を潜り抜ける。今度は肌を撫でる風が変り潮の匂いがした。遠くからざざざと雨の音に似た音が聞こえてくる。
現地で合流した者が案内し、灯台の扉の前で止まる。
「向こうの階段を上った先が供給場所になります」
「ご苦労。各自配置に付け」
クライアンの指示で護衛のメンバーは一人を除いて魔術道具のマントで姿が消えてしまう。クライアンの視線が残った護衛に向けられると彼は応じるように頷いて扉を開いた。
建物は塔になっているのか上に続く階段が螺旋状に連なっており、オルキデアはフィーに手を伸ばした。
「先導してくれる者の手を煩わせる訳にはいきませんから」
そう言って先導する護衛を見ると、今まで仕舞っていたのか彼の背中から大きな翼が現れ、これから空を飛ぶのだと気付く。
戸惑いながらもオルキデアの手を取る。クライアンは下から監視を行い、後から追ってくるそうだ。
フィーは今まで仕舞っていた竜の翼を出し魔力を込めては何回か羽ばたかせて見せると、オルキデアが手を引いて上空へ上っていった。
フィーは不慣れながらも翼を羽ばたかせているが、全て魔力でまかなっているというオルキデアは羽ばたきせず優雅に上へ上がっている。フィーも背中に魔力を集中させてみると浮遊感が倍増した。
ようやく上部まで上がりきると、直径三メートルくらいのドーム状の空間が広がっていた。
「明かりは無いのですね」
「明かりを灯せば窓の向こうが見えなくなります。ここは監視や灯台の役割もありますから」
「そうなのですか」
先導していた護衛がオルキデアと会話しながら腕に嵌められた魔術道具を前に出すと、すぐに空間が裂けてクライアンが出てきた。本当に便利な魔法である。
この窓ガラスは特殊な加工がされているようで、外から室内を覗くことが出来ないようになっているという。
周囲の城壁や監視の塔にも同様の加工がされているらしく、窓の外から周囲の城壁を見れば確かに海側の窓は鏡のように反射しているため部屋の中の様子を見ることが出来なかった。
海を臨めば自分たちのいる場所の上から光の柱が彷徨うようにぐるぐると海を照らしており、別の崖にも同様に高い塔から光の柱がぐるぐると回るように周囲を照らしていた。
水平線にはちらほらと船の灯りが点々と光っているのが見えるが、以前から話している中立国の船だろうか。随分遠くにあるがあそこまでがこの国の領海なのかもしれない。
本来この灯台は皇帝が所有していたものだったらしく、管理を地方の領主に任せていたようだが、内乱で多くの貴族が処分されてしまい、皇帝も処刑されてしまったためこの場所も分からなくなってしまっていたのだという。
この場所も内乱後に賞与という名の押し付けでベノム家が管理を一任されてしまったため役割も引き継がれていなかったらしい。
後ろを振り返れば、自分が入ってきた出入口の横には金色のパネルが付けられており、この国全体の簡易地図が刻まれていた。地図には各地の魔力供給できる場所と現在地が赤字で記されている。どうやら供給場所は島全体で七か所あるらしい。
等間隔に距離が置かれており、七つ目の供給場所だけは中央にぽつんと置かれており、緑色に光っていた。場所からして王城だろうか。
「フィー、ここだ」
クライアンに促されるまま、中央に視線を移して魔力を注ぐ場所を見る。
本来魔石の魔力を使用する前提で作られているらしいこの場所は中央にフィーの胸の高さまである大きな金色の杯が床に鎮座していた。
カレンデュラ領にあるシールドには石炭などの燃料を放り込む炉のような場所が各地に点在しているが、この杯はその炉と同じ役割なのだろうか。
王城の供給場所ではなくここに向かったのも二つ理由があるらしく、まず一つはオルキデアが魔力変換を行いながら大量の魔石を作るから。もう一つはこの魔術は地方の供給場所から中央に魔力が集まるような仕組みになっており、逆流させることが不可能であるため、地方の供給場所から魔力が注がないと全ての供給場所に魔力が行き渡らないのだという。
それに本来シャトーバニラは地盤変化を防ぐ目的で地下に魔石が作られないように街全体の魔力が自然と王城へ集約されるようになっているらしく、杯の魔力は既に溜まっているのだという。
ならなぜ教会の地下には魔石の鉱床があったのだろうと聞いてみたが、誰もあんな場所に魔石の鉱床があるなんて知らなかったので分からなかった。
杯を覗き込めば中は空っぽで長いこと供給していないことが目に見えて分かった。
「この杯は魔石を入れて詠唱を唱えると魔石が液状化すると言われています」
「フィー、杯の内側に手を触れて詠唱してみてくれ」
「はい」
フィーは杯の淵に手を置き魔力を込めると詠唱を唱えた。
「『我が力、万物の元に帰り給え』」
杯が一瞬光り、驚いて手を放そうとしたがクライアンが後ろから片手を重ねてそれを防がれる。心臓に悪いのでやめてほしいと睨むがスルーされた。
しかし自分の指先から溢れる魔力が白く光る液体のように底に流れ込んで行くのが目に見えて分かる。
「問題なさそうですね。このまま続けてください」
オルキデアの言葉にフィーは頷き、続けて両手に集中する。
初めは安全面を考慮してゆっくり注ぐように言われている。ようやくバケツ一杯くらいの魔力を流せた辺りで、床に刻まれていたらしい魔術陣が杯の底から線をなぞるように光りだした。
端に向かうにつれて、橙、黄、碧、青、藍、紫。と六つの属性ごとに色が分かれ始める魔術陣にフィーは違和感を覚えた。
それに並行してクライアン達は魔石を生成し始める。護衛の人達も代わる代わる報告ついでに魔力をくれているようだ。
今回秘密裏に行われている作戦だが、表向きは海沿いの警備を強化するという名目で地方に配置されている第一部隊の兵士の人員を少しずつ海沿いに集めることになっているらしく、カモフラージュしてくれているらしい。自分の養父は随分と大胆な作戦をしてくれる。
「魔石の用意ができた」
「ありがとうございます!」
後ろを振り向き、クライアンから片手で魔石を受け取る。
フィーの魔力が周囲の供給ポイントにまで行き渡らせるまではオルキデアの生成した魔石をもらいながらフィーの手で魔力を流さなければならない。
フィーは受け取った魔石を見つめると、かつて自分が胸を穿って取り出した真っ赤な父親の魔力核と重なり、思わず顔を歪ませた。
「大丈夫か?」
「……大丈夫です」
自分の手にあるのは属性の偏りがない氷のように透明な魔石だ。
これは決して誰かの心臓だったモノではない。
フィーはガリと音を立てながら魔石にかじりついた。
片手から魔力を垂れ流しながらもう片方の手から吸収するのは苦手だ。それなら食べて取り込んだ方が手っ取り早い。ウォルが氷の魔法を取得する時に行っていた手法だ。
魔石を歯で砕いていけば舌の上で綿あめのように溶けて消えてしまう。
その溶けだしていく感覚は、当時魔力核を口にした食感ととてもよく似ていた。まさか魔力核も魔石と本質は変わらないのではないだろうかと思うと嫌だなと感じてしまう。
無言で魔石を食べる様子にその場にいた者は全員啞然としたが、フィーが「あとどれくらいか分かりますか」とその場で問えばすぐにクライアンはすぐに周囲を探し始めた。
杯を覗き込めば、魔力は杯の三分の一まで溜まり始めた辺りから一向に増える気配がない。おそらく他の不足している拠点にも供給しているのではないかとフィーは考える。
「――七つの拠点のうち、二つしか魔力が通っていない……」
「分かりました」
二つのうち一つがこの場所と王都なのだとしたら随分と先が遠い。
本来なら各地の供給場所から魔力を注いだ方が手っ取り早いのだが、それができないのは各地の責任者に問い合わせればその作戦が公になってしまうから。
今回拠点の一つが偶然アコナイトの領地にあったのは奇跡なのだ。
杯から手を放さないようゆっくりと移動し、パネルが見える場所まで回り込む。
海側は監視のためか何も置かれていないが、陸側には机が一つと椅子が二つ置かれており、そこでオルキデアは魔石を生成していた。
先ほどから次々とこぶし一つ分の魔石を作り上げては隣に積み上げている。作り上げた魔石は既に山のように机の上に積み重なっていた。オルキデアが使用する分も含まれているだろうがにしてもスピードが早い。
彼女は出来上がると一区切りついたのか息を吐き、優雅に立ち上がった。
「クライアン殿、外へ向います」
「分かりました。お気を付けて」
オルキデアは己の魔力を補充するため護衛の一人と外へ向った。水系の魔法を持つ者にとって海沿いは大分有利だ。
島の簡易地図が書かれたパネルには自分らがいる場所と中央にある供給場所が緑色に光っていた。まだ先は長い。




