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賢者ってなんだっけ?  作者: 木林森
7/11

「本当に良いのかい?今着てる服はマシだけど、他の服には明らかな女物もあるんだよ?」


テリーヌさんが、マリーさんの服を畳みながら問いかける。

場所は作業場で、僕も一緒に服を畳みながら、「まぁ、それは追々考えます。」と苦笑いを浮かべながら答える。

昨日の約束通り、マリーさんの服は僕が貰うことになった。

確かに明らかな女物もあるが、昨日あれだけの宣言をしたからには貰わない訳にはいかない。

大丈夫。着なければ良いのだから。

二人に会う時に問われたら着なければいけないかもしれないが、その時はその時だ。


「まぁ、ステラちゃんなら着てても皆普通に女の子としか思わないだろうけどねぇ。」

「それはそれで悲しい気もするんですが…。」


アハハとテリーヌさんが笑う。

まぁ、実際この見た目では間違われても仕方がないと自覚はしているので、言うほどには嫌味にも感じない。

因みに、ローダさんは既に仕事に行っている。

ローダさん曰く、今日は多分かなり仕事は楽に進むはず。だそうだ。

何やら不敵な笑みを浮かべていたが、何かあったのだろうか?



そうこうしていると、服は全て畳み終わった。

数にして12着。これは持ち運ぶのが大変そうだ。

バッグには入らないし、どうしようか。

考えていると、テリーヌさんが何かをテーブルから持ってくる。


「服はこれに入れて運ぶといいよ。私は使う予定はもうないからね」


そう言って、革製のトランクケースの様な物を手渡してくれる。

小さめのサイズで、多分30センチ×45センチくらいかな?

留め具部分は金細工の様になっていて、小さなカギ穴が付いているようだ。

しかしこのサイズのバッグに服が入り切るとは思えない。

せいぜい2着が限界じゃないだろうか。

不思議に思っていると、テリーヌさんはポケットから小さなカギを取り出した。

それを鍵穴に差し込み、捻る。

その瞬間、ボン!っという音と共に、バックから煙の様な物が広がる。

何が起きたか分からない僕が目を閉じ、再び開くまで数瞬。

そこに有ったのは、カーテンで区切られた更衣室の様な物だった。

広さは2メートル×3メートルくらいだろうか。

カーテンの内側の一面は木製のクローゼットがあり、その反対側には鏡まで付いている。

更には椅子や化粧台、テーブルまで!

え?これは一体?


「びっくりしただろぅ?こいつは私ら仕立て屋の間で一時期流行った道具でね。『持ち歩ける更衣室』って所だね!」


テリーヌさんは僕が驚いた事を嬉しそうに説明をしてくれる。

何でも、バッグと対になったカギを使う事で、バッグに込められた魔術が発動。

この更衣室を展開するらしい。

バッグに込められているのは空間圧縮と重力操作の魔術で、クローゼット内に入る物なら再びバッグの中に入れることが可能なんだとか。

しかも重量は元々のバッグと同じままなんだとか。

すごいバッグだが、高価なのとわざわざ仕立て屋が更衣室ごとあちこち行くメリットが少なくて、現在は持っている人自体が少ないらしい。


「使い方はさっきみたいに、カギを開ければ展開。閉じるには、カーテンの外へ出て本体を閉じればいいよ。」


そう言って、真ん中にあるテーブルを指さす。

そこには本体であるトランクケースが開いた状態で置かれている。


「ただ、注意してね。中に人を入れた状態でも閉じれるけど、本体を持っている人は中には残れず外に放り出されちゃうから。」


「昔、テント代わりに使おうとした奴が居てね。」と、クククッと笑っている。

誰か知り合いが試したみたいだが…ローダさんだろうか?

ともかく、これは便利だな。嵩張る物を手に入れたら、ココにしまっておいて運んでしまおう。

まぁ、今は服以外に入れる物はないんだけどね。

服をクローゼットに運び入れ、早速ケースを閉じてみる。

さっきの逆再生の様だ。どこからとなく現れた煙が更衣室を包み、バッグの中に吸い込まれていく!

完全に閉じ切ると、そこには何も残っていない。

おぉ!なんか魔法のアイテムって感じでカッコいい!



アイテム:【インスタント・クローゼット】

種別:【特殊:収納】

重量:2

レア度:B+

効果:『更衣室・伽藍の帳』を展開する。また、内部の重量は全て0として扱われる。

備考:『動ける更衣室』をコンセプトに作成された商品の一つ。更衣室内のアイテムや人物をバッグ内に収納し、持ち運ぶことが可能。カギの紛失に注意!



鑑定してみると、レア度が高い!

ホントに使っていいのか聞くと、「無くても運べるなら返してもらおうかね?」と、悪戯っぽい顔をされてしまった。

むぅ、確かに他にいい道具も無いし、遠慮しないで使わせてもらおう。


「それと、冒険者ならコレがあった方が良いだろと思って、用意しといたよ。」


そう言って、テリーヌさんは何やらウェストポーチを取り出す。

四角い形のタイプで、グレー系の布で作られている。

今度はなんだろう?



アイテム:【トラベラーズ・ポーチ】

種別:【収納・ポーチ】

重量:1

レア度:C++

効果:プレーヤ―レベル×2までの重量のアイテムを重量0として収納可能。

備考:冒険者向けの収納ポーチ。入れてあるアイテムの重量を失わせる魔法がかかっている。ただし、サイズは変わらない為大きい物を入れることは出来ない。



む?これはこの手のゲームお決まりの容量無視タイプのバッグ?

いや、重量は無視できるようだが、サイズは無視できないタイプみたいだ。


「昔街に居た時に知人から譲ってもらったんだがね。私達には使い道も無いし、ステラちゃんが持っておくといいよ。」


テリーヌさんがそう言って渡してくれる。

受け取って早速腰に巻いてみる。

位置は…。うん、腰の横に来るように着けておけば使いやすいだろう。

これにはポーションなんかを入れるようにしようかな。


「ちょっと見た目が悪いねぇ…ちょっと待ってな。」


そう言うと、テリーヌさんは作業台に向かい、何かを捜し始める。

…何だか嫌な予感がするんですけど…。



「またいつでも来ておくれよ!ここは自分の家だと思っていいんだからね!」


テリーヌさんがうれしいことを言ってくれ、送り出してくれる。

それは良いが、これはちょっと…。

先ほどのトラベラーズ・ポーチは見た目が可愛らしくデコレーションされてしまった。

リボンとコサージュ、ストラップまで付いてしまい、完全に女の子の小物入れといった様相だ

テリーヌさん、実はやっぱり僕の事を女の子だと思ってないだろうか?

恥ずかしいので、さっさとローブで隠してしまおう!

あ、そう言えばまだローブを鑑定していなかった。

ついでに鑑定してしまおう。



アイテム:【薄絹のローブ++】

種別:【防具:ローブ】

重量:2

レア度:C++

効果:防御力+6 魔法適性+5 対破損+9

備考:薄絹を使ったローブ。見た目は薄いが、【錬金触媒:硬化】により加工されており、見た目より丈夫。また、要所に銀糸を使う事で破損にも強くなっている。また、魔法適性も上昇する。



これもまた効果が高い!

ホントにテリーヌさんにはお世話になりっぱなしだ。

これで女の子扱いがなくなればなおうれしいのだが。

それはまぁ、無理だろうなぁ。

自嘲気味に笑いながら、ローブを羽織る。

うん。これならまずは安心だ。

さぁ、今日も張り切っていこう。まずはギルドに行ってコンパスと時計を受け取らなくては。

僕はギルドに向かって歩き始めた。



「こちらが、コンパスと時計になります。紛失したりした場合は再び窓口に来て頂ければ再発行も出来ますので、ご利用下さい。」


ギルド窓口で早速コンパスと時計を受け取った訳だが。

最初テーブルにあったのは、無骨なデザインの腕時計と、ゴツいケースに包まれたコンパスだった。

受付のお姉さんはそれと僕を見比べて、それを可愛らしいデザインの物と入れ替えたのだ。

…もうこの扱いにも慣れてしまった自分がちょっと悲しい。

まぁ、とりあえず目的の1つは達成できた。

次は依頼を確認しよう。

僕でも出来そうな依頼見て、良い依頼が無ければ木工所の手伝いの依頼をまたやろう。

何があるかな〜。

…あれ?木工所の依頼の内容が変わってる?


クエスト:【木材加工の手伝い】

ランク:F

報酬:120G、新作武器

依頼者:木材加工所所長ローダ

内容:冒険者向けの杖の加工を手伝ってくれないかな?手伝ってくれた人には新作の木製武器を提供するよ!


その下にはイラスト付きで新作武器の内容が書かれている。

…これって僕の作ったオーク・スタッフじゃないか。

なるほど、ローダさんの不敵な笑みの原因はコレか。

でも、コレで人が来てくれるんだろうか。

あくまで木製武器である事だし、そこまで人気を博するとは思えないが。

まぁ、今日は別の依頼を見てみよう。

えっと…あ、コレにしてみようかな。


クエスト:【森の兎による被害を食い止めて下さい】

ランク:F

報酬:500G+

依頼者:冒険者ギルド

内容:最近、森のウサギによる村の被害が甚大です。ウサギを倒し個体数を減らして、被害がこれ以上広がるのを阻止して下さい。


ふむ。ウサギなら、前回事故とはいえ一撃で倒せた相手だし、なんとかなるだろう。

とはいえ50匹とは多いな。

この依頼を何人も受けたら森から兎が絶滅するんじゃないか?

とにかくこの依頼を受けてみよう。

用紙を窓口に持っていく。

窓口のお姉さんは用紙を受け取ると、宝石の様な物を手渡してくれる。

これには倒したモンスターの数が表示されるらしい。

途中で切り上げることも出来、その時は報酬が減らされるが、逆に多く倒せば多く貰えるとのことだ。

報酬は一匹につき10G。少ないようだが、まぁ強さを考えると妥当な気もする。

それに金額よりも大切な事を思い出す。

セージとしてのスキル、【調査】と【再現】だ。

同種のモンスターを何度か倒さないとスキルとして習得できないらしいが、まだウサギは昨日の一匹しか仕留めてない。

これは何とかして、モンスターのスキルを習得してみたいところだ。

行く行くはボアのスキルも得てみたい。

その為にも、確実に倒せるように装備を整えておきたい。

とりあえず今は木工所に行って、新しい武器の相談をしてみよう。



さて、木工所にはついたのだが…。

これはすごい。

木工所は多くの冒険者が集まって作業をしていた。

中には作業台が足りずに、木工所の外で作業している面々までいる。

上に出ているマーカーを見ると、殆どが魔法職だ。

これほどの人が集まるなんて…。

そう言えば、杖の在庫が不足しているから仕事が忙しいんだったな。

杖が得れない所に、杖を作ればその上の性能を持つ杖が貰える。

そう考えればこの人数は納得の数なのかもしれない。


「お、来たね。」


真ん中で指示を出してたローダさんは、僕を見つけると事務所を指さす。

中で話を。という事だろう。

作業をしている人たちを避けつつ、事務所の中へ。

そのすぐ後にローダさんも事務所へやって来る。


「いや~。思った以上の好評でね。逆に作業が暇になったくらいだよ。」

「えっと、これってやっぱり…。」

「うん、目的はあの杖だね。」


ローダさんは椅子に座ると、朝の出来事を話してくれる。

木工所の開始時間になって少しすると、冒険者がまず数人やって来る。

杖の実物を見せると喜んで手伝いを始め、それから一気に冒険者が押し寄せたそうだ。


「いや実際、品はいいから人は集まるだろうとは思ってたけどね。予想より一気に集まって僕もビックリだよ。」


ハッハッハ、と笑うローダさん。

う、うーん?

僕の考えた武器で人が集まったのは嬉しい気もするけど、これは予想外にも程がある。

これじゃ僕が武器を作るスペースは無さそうだ。

仕方ないから今日は相談だけして帰ろうかと思い、ローダさんに話をすると、「丁度いい。」と事務所の一角から盾の様な物を持ってくる。


「時間が出来たんで僕がちょっと作ってみたんだが、こんなのはどうかな?」


?なんだろう。僕は遠距離武器の相談に来たんだけど…。

そう思っていると、ニヤリと笑ったローダさんは盾の後ろで何かを引っ張る。

すると、盾の裏側から広がる様に何かが飛び出てくる!

三日月を半分ずつ左右に展開した様な形。

これは、弓?

いや、ツルの部分がゴム製の様になっているから、スリング?

何にせよ、これは単なる盾では無さそうだ!


アイテム:【ウッドシールド・スリング++】

種別:【防具:盾 武器:スリング】

重量:3

レア度:C++

効果:防御力+5 射撃攻撃力+5 回避+2

備考:木製の盾の裏側に射撃装置を付けた物。形状は弓に近いが、構造上スリングに分類される。【錬金触媒:硬化】を使用し、木製とは思えぬ硬さを持つ。腕に持たずに使用する事が出来る。


「元々、盾を作ろうと思っていたんだがね。どうせなら何か機能を付けようと思ってこんな物を作ってみたんだよ。」


「ステラ君、帰って来た時ボロボロだったみたいだし、防具が必要と思ってね。」と、ローダさんは言う。

そして、射撃装置部分を収納しつつ、優しい笑顔を浮かべる。


「君のおかげで、妻の悩みも解決したからね。こんな事でしか僕はお返しが出来ないが…。僕からのお礼だよ。」


そう言って、僕にその盾を渡してくれる。

…逆にお礼を言わなきゃいけないくらいに、僕はお二人にお世話になっているというのに。

二人の気持ちにちょっと涙が出てきそうだ。


「ありがとうございます。大切に使わせて貰います。」


ローダさんからしっかりと受け取る。

見てみると後ろには腕を通して、ベルトで固定する様にしてある。

サイズは大きめだが、バックラーの様に使う様だな。

手の甲が来る場所には握りが付いており、握りこむ事で留め具が外れ、射撃装置が展開する様だ。

早速展開してみる。

展開すると腕を通す部分の横にあったL字のレールが起き上がり、ガイドレールになる仕組みだ。

コレなら、弓を使った事のない僕でも真っ直ぐ弾を撃ち出せるだろう。


「弾はそこらにある石でも行けるはずだよ。それなりに飛距離もあるはずだ。」


ふむ。石でもいいなら、弾に困る事も少ないだろう。

でも折角弓の形に似てるのだから、矢を手に入れておくのもいいかもしれない。

とにかく、コレを試してみなくては。

ウサギ狩りの際に早速試してみよう。


「そうだ。今日の昼ご飯は決まってるかな?特に何もないなら、職人の皆が一緒に食べたがってたよ。」

「そうなんですか?じゃあ、お昼にまた来るようにしますね。」


今朝貰ったばかりの時計で時間を確認する。

今は9時55分。

まだお昼までは時間がある。

少しでもウサギを狩りに行ってきておこう。


「もし、その盾を使ったら使い心地を教えてくれるかな?調整出来るところは調整するよ。」

「はい。ではまた後で。」


礼を言って木工所を後にする。

何だかプレイヤーの方々の視線がコッチに集中してた気がするけど、何だったんだろう…?

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