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一先ず落ち着いた僕は、ローダさんから錬金触媒を預かる。
入れ物は、形は直径30センチ、高さは40センチほどの小さなドラム缶の様だ。
丸い筒状の金属のそれは、大きさの割に重量があった。
ローダさんが荷台を用意してくれていた理由が、良く分かった。
「ホントに大丈夫かい?何があったか分からないけど、困った事ならいつでも相談してくれよ?」
ローダさんはまだ目が赤い僕の事を心配してくれているようだ。
「いえ、大丈夫ですよ!心配かけてすいません。」
僕は頭を下げ、錬金触媒を乗せた荷台と共にテリーヌさんの家へと戻り始めた。
しかし、先程の話を聞いて更に申し訳なさでいっぱいになる。
話から察するに、コレは亡くなった娘さんに作った服なのだろう。
それをタダで譲ってもらった対価が、この触媒を届けるだけで足りるとは思わない。
テリーヌさんは良いと言うかもしれないが、それは僕が納得できない。
何か、他にお返し出来ないだろうか?
僕が出来ることで、お二人に何かお返し出来ること…。
考えながら、ふと通り道にある商店を見る。
食材の販売所なのだろう。
大根や生姜など、僕にも見覚えのある食材が並んでいる。
それを見て、あるアイデアが頭に浮かぶ。
…そうだ!僕にもこれなら自信がある!
そうと決まれば、買い物をして行こう!
時刻はもうすぐ夕方だ。
急いで買って、テリーヌさんの家に帰ろう!
「おや、おかえり。遅かったね。何かあったのかい?」
「いえ、ローダさんの手がなかなか空かなくて…。」
「あぁ、いつもの事だね。」と、テリーヌさんは笑っている。
どうやら、店仕舞いにする所だったのか、テリーヌさんは商品に埃除けの布を被せていた。
そんなテリーヌさんに、「ところで、」と声を掛ける。
「夕飯は決まってますか?良かったら、僕に作らせて頂きたいのですが。」
そう言いながら、肩の荷物を下ろす。
中身はさっき買った食材だ。
そう、僕のアイデアとは、料理だ。
自慢にもならないが、僕はソコソコは料理が出来る。
両親ははっきり言って、料理が下手だった。
なので、実家に暮らしてる時はほぼ全ての料理は僕がしていたのだ。
豪勢な料理は出来ないが、家庭料理ならほぼ問題なく作れる。
「特に決まってないから、今から考えて作る所だったけど…あんたが作るのかい?」
「はい。お二人にはお世話になったので、せめて何か、僕に出来るお返しがないかと思って。」
理由もついでに言ってしまうと、テリーヌさんは「気にしなくていいのにねぇ。」と、予想通りの答えを返す。
でも、その表情はにこやかだ。
「食べれる物を作っておくれよ?」と、冗談を交えながら、了承してくれた。
先に二人で錬金触媒を上の階まで運ぶ。
二人でもかなり重たかったが、なんとか作業場まで運び上げる事が出来た。
その作業場の奥に扉があり、そこから入った先が居住スペースのようだ。
扉を通って右側がダイニングキッチンの様になっている。
「何か分からなければ呼んどくれ。私はちょっと作業をしておくから。」
そう言って、テリーヌさんは作業場に残った。
僕はキッチンまで行くと、さっき買った食材と、今日剥ぎ取った兎肉を取り出す。
肉は少ないが、お二人に出すなら十分だ。
むしろ少し余るくらいだろう。
おかわり用に少し多めに作っておこう。
兎肉を調理するのは初めてだが、レシピは見た事がある。
どんな出来になるかは分からないが、なに、料理の基本は食べる相手への愛情なのだ。
そこだけは、僕は自信があるのです。
「ただいま。ステラ君が今日はご飯を作ってくれてるんだって?」
ローダさんが帰ってきた。
僕は「おかえりなさい」と言いながら、準備を進める。
と、言っても、後は盛り付けるだけだが。
兎肉はシチューにしてみた。
臭みを取る為のハーブは、さっきの商店でブーケガルニを見つけて買ってきてあった。
ハーブの種類は幾つか聞いた事がない物だったが、香りも味も問題ないことは確認済みだ。
本当はダシ…フォンだっけ?を1日寝かせておきたかったが、流石にそれは無理なので、2時間掛けてとった物をそのまま使用してある。
付け合わせのパンも用意してある。
こちらは流石に買って来た物だ。
二人が喜んでくれれば良いんだけど。
皿に盛り付け、テリーヌさんを呼びに行く。
盛り付けられたシチューと僕を交互に見ているローダさんは、少し待っていて貰おう。
「テリーヌさん、準備が出来ましたよ。」
作業場の扉を開けると、テリーヌさんは慌てた様子で作業を止め、「今行くよ。」と答える。
ずいぶん慌ててたけど、何を作っていたんだろう。
「へぇ!こりゃ凄いね!」
「コレを本当に君が作ったのかい?」
二人は驚いた様子でシチューと僕を見比べる。
僕は「お二人の好みに合えば良いんですが。」と答えながら、食事を勧める。
「では早速。」と、ローダさんが手を合わせ、それに合わせる様にテリーヌさんも手を合わせる。
「「いただきます。」」
声を揃え言うと、二人は一口、シチューを食べる。
どうだろう。味見はしたので酷い味ではないのは分かっているが、それでも食べる人の反応は気になるのだ。
「…美味しい!」
「こりゃすごいね!私が作ったもんより美味しいよ!」
二人はそう言って、どんどん食べてくれる。
良かった。
喜んで貰えたなら、作った甲斐があるというものだ。
「ステラ君も食べないかい?」
「そうだよ!自分で作ったもんなんだ。私らに遠慮しないで食べて良いんだよ?」
手を止めた二人が、そんな事を言ってくれる。
ん〜…。
「そうですか?じゃあ、すみませんが御言葉に甘えさせてもらいます。」
そう言って、僕は自分の分もシチューを持ってくる。
実は自分の分も作っていたのだが、お二人の邪魔になるようなら後で食べようと別に置いてあったのだ。
シチューの出来は我ながら上出来だった。
僕達は、色々と談笑しながら食事を楽しむ。
ローダさんはお酒を飲まれ、顔が真っ赤だ。
そんなローダさんにお水を持ってくる僕。
テリーヌさんは「ダメな人だねぇ。」と笑いながら、追加のおつまみを持ってきていた。
それは、仮初めだが、家族団欒の一幕の様で。
僕は少しだけ、亡くなった娘さんに申し訳ない気持ちになった。
その晩、僕はテリーヌさん達の家に泊まる事になった。
夜も遅くなったのでテリーヌさんが心配して、泊まって行く様勧めてくれたのだ。
少し申し訳なく思ったが、ローダさんも勧めてくれていたので、御言葉に甘えさせてもらう事にした。
客室は作業場の反対側にあり、そこにベッドを準備してくれていた。
まだログアウトするには早い時間だったので、部屋でちょっと作業をしておこう。
と言っても、やるのはバッグの整理と、残金の確認だが。
バッグは余裕があるが、もっと入る大きめのバッグが必要かな?
今日の食材も、なんとかギリギリ入った感じだ。
それにこれから先進んでいけば、もっと大きな素材が出てきたり、必要になることもあるだろう。
うーん。
ゲームによく出てくる無限に入る謎バッグとか手に入らないかな?
今度探してみよう。
残金の方は…かなり心許ない。
これは明日は木工所に手伝いに行こうかと思っていたが、別の依頼もして金を稼ぐべきかもしれない。
まぁ、考えても仕方ない。明日考えよう。
もう一つ、僕はもう1つ武器を作ることを考え始めていた。
ボアとの戦闘で一番辛かったのは、隙を作るためとは言え、武器を一度投げなければいけなかった事だ。
拾う時間でもう一撃当てれていれば、無傷は無理でも、直撃は避けれたかもしれない。
それに、遠距離攻撃で目や足を攻撃出来ていれば、かなり戦闘は楽になっていたのではないか?
かと言って、僕の貧弱なMPでは、【地魔術】には頼れない。
そこで、何か遠距離武器を作りたいのだが…。
そこは、ローダさんに相談してみようか。
まだローダさんは起きてるだろうか?
扉を開けて出ようと思ったが、何やら、二人の話し声が聞こえてきた。
なんだか、出ていって話に混ざれる雰囲気ではない。
「ホントに、今日はいい日だねぇ…。まるであの子が帰ってきたみたいじゃないか…。」
「あぁ…でもな、マリーの服をステラ君に渡したのは流石に可哀想だろう。あの子は男の子なんだから。」
「それはすまなかったと思ってるよ。だから、ちゃんとあの子用に服を作ってるよ。」
あぁ、夕飯を作ってる時に作業部屋に居たのは、服を作ってくれてたのかな?
「…マリーに作った服ね、今日あの子に会わなかったら処分するつもりだったんだよ。」
「え?」
「村にゃ、あんな服を着てくれそうな人なんて居ないじゃないか。ずっとあの子の服を置いとく訳にも行かないだろ?だから、売れないならいっそ捨てちまおうってね。」
「自棄になってたんだねぇ。」と、自嘲めいた笑い声が聞こえる。
…捨てるなんて、とは言えない。
夢のない話をするならば、売り物として店頭に並べている以上、売れない在庫を抱え込むのも問題だ。
そして、娘さんを思って作った代物だからこそ、誰にも着られず飾られたまま。というのも辛かったのだろう。
「なんだか、マリーに捨てるな、って言われてるみたいだね。なんだか。」
「…捨てたくはないんだろう?なら、捨てなくていいんじゃないか?」
「…でもねぇ、誰にも着られない服をこのまま置いておくのも…。」
「なら、僕が着ます。」
二人が驚いた顔でこちらに振り向く。
僕は開けた扉を横目に見ながら、リビングに進む。
正直、お二人の問題なのだから僕が話に入るべきではないと思う。
でも、堪えられなくなったのだ。
「着る人が居ないのが問題なら、僕が着るので処分するなんて言わないで下さい。」
娘さん…マリーさんを思って作った服。
それをこんな形で処分するなんて絶対嫌だ。
誰が良くても、僕が嫌だ。
「僕が、マリーさんの分もテリーヌさんの服を着ます。だから…。」
後の言葉が続かない。
衝動的に飛び出してしまったので、言葉が上手くまとまらないのだ。
ただ、マリーさんへの服を処分するのが、嫌だっただけだ。
なんとなく、その行為がマリーさんを思っていた時間を否定する行為に思えただけだ。
そんな自分の感情を上手く言葉にできるほど、僕は出来た人間では無かった。
「…そうだね。処分はしないよ。」
言葉が見つからない僕を見るに見かねたように、テリーヌさんが言う。
「着てくれる人が居るなら捨てる道理はないからね。むしろ、これだけ似合ってる人が着てくれるって言うなら、服も、マリーも、本望だろうさ。」
肩をすくめ、テリーヌさんは微笑む。
その表情は、少し晴れやかに見えた。
「あ、で、でも買い取りならちょっと待ってて欲しいです。持ち合わせが…。」
「いや、いいよ。こちらが頼みたいくらいなんだから。」
ローダさんがそれには答える。
ローダさんの表情も、晴れやかだ。
「そうだよ!心配しなくても、その分この人の小遣い減らしゃ良いんだからね!」
「え?!…そ、それは…困る、かも…?」
アハハと、3人で笑う。
そこにさっきまでの重い雰囲気はない。
うん、良かった…のかな?
丸く収まった、とはいかなくても、お二人が納得する形で収まれば、それで良いんだと思う。
《イベント【夫婦の憂鬱】をクリアしました!》
《イベント【死者の証言】の発生条件を満たしました!》
って、インフォは空気を読んで欲しい。
てか、これはイベントだったのか?
そしてイベントの発生条件ってなんだ?
えぇい、疑問は尽きないが、今はただ二人の悩みが少し解決したことを祝っておこう!
そちらの方が、大切なことなのです。
《運営メッセージが3件あります!》
ログインしたのは、ゲーム時間で午前6時である。
昨日はアレから二人と暫く話してからログアウトしました。
二人共、マリーさんの思い出話を楽しそうにしてくれた。
マリーさんがどれだけ二人に愛されていたのかよく分かる。
っと、とりあえず運営メッセージを確認しよう。
内容は…運営のサイト内で公開されている情報に追加があった様だ。
なんでも、プレイヤーのクラス傾向やスキルの説明に追加があるそうだ。
まぁ、あんまり興味はないけど、後で少し見ておこうか。
もう1つは課金アイテムの実装だ。
課金アイテムの内容は、回復アイテムと、見た目を変える事の出来るアイテムの様だ。
昨日までなら欲しかったアイテムだが、今見た目を変えたら服が似合わなくなりそうだ。
諦めてこの見た目でゲームを続けよう。
後1つは、ゲーム内で使える時計とコンパスを、ギルドで配布開始したという内容だ。
時計は特にありがたい。
メニューバー下部に一応時計はあるのだが、雰囲気重視なのか、正確な時間が分からないのだ。
コレで正確な時間を確認して動くことが出来る。
うん、では、準備が出来たらギルドに顔を出すとして。
今は着替えて二人に挨拶をしに行こう。
ローダさんには昨日話せなかった新武器の相談もしたいしね。
今日も張り切ってゲームをしていこう!
…コレがリハビリを兼ねてるのは忘れてませんヨ?
「あぁ、おはようさん!昨日はありがとね!」
テリーヌさんは食事の準備をしていた。
その表情は、実に晴れやかだ。
「よく眠れたかい?」
ローダさんも、心なしか表情がより明るい。
うん、このお二人が元気だと、僕も嬉しくなる。
ゲームを開始してまだ2日しか経っていないのだが、お二人はずっと長い間関わってきたかの様な気持ちだ。
ずっと元気でいて欲しいものだ。
「朝食は一緒に食べてお行き。ステラちゃんじゃないけど、私からの昨日のお礼さ!」
テリーヌさんが3人前の朝食を運びながらそう言ってくれる。
ありがたい。持ち合わせが本当にないので、食事に悩んでいたのだ。
一応、ギルドで携帯食は出してくれるらしいが、味的にも量的にも携帯食は食べたいものではないのである。
遠慮なく頂こう。
椅子に座ると、テリーヌさんがテーブルに順に皿を並べて行く。
朝食はパンにサラダ、ウィンナーにスクランブルエッグ。
良くある洋風の朝食だ。
「「「いただきます」」」
3人で唱和し、朝食を食べる。
今日も談笑しながらだ。
昨日も感じた、家族の団欒。
…うん。元気になったら、実家に帰って久しぶりに両親と食事をしよう。
そんな小さな決意を心の中で立てるのであった。




