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何とか、村へと帰り着いた。
思ったより早く帰り着いたので、まだ夕方までは時間がある。
早く帰ってこれたのは、途中で出会ったジオさんと杏子さんのおかげだ。
ボロボロになっていた僕を見つけて、村まで護衛してくれたのだ。
道すがら、ボロボロになった経緯を説明してたら、二人は目を丸くしていた。
何でも、ボアはこの辺じゃかなりの強さのモンスターになるらしい。
初期の防具や武器じゃ、全くと言っていいほど歯が立たない強さなので、最初のうちは逃げを推奨しているとか。
確かに、あれは厳しかった。
オークスタッフを作っていなかったら。
ローダさんに強化してもらっていなかったら。
多分、死に戻っていた可能性が高い。
作っといてよかった。
「しかし、弱いと聞いてたセージ職が、単独でボアを撃破かぁ。」
「案外、セージは弱いってのはデマかもよ~?」
「いや、実際平均値よりはステータスは低いですよ?」
そんな会話をしながら、僕はインフォのサイズを戻し、ステータスを操作する。
レベルアップ時のステータスアップは、自動で一つステータスが上がり、もう1点を別のステータスに振り分けるようだ。
今回自動で上がるのは精神だったので、選択するのは体力にしておこう。
今後また大ダメージを受けた時に、少しでも生き残る率を上げておきたい。
プレイヤー:【ステラ】
種族:【ヒューマン】
クラス:【セージ】
レベル:2 ↑New!
筋力値:12
器用値:10
敏捷値:12
体力値:11 ↑New!
知力値:27(内、クラス補正+3)
精神値:15 ↑New!
幸運値:12
≪【調査】のスキルレベルが上昇しました!≫
≪【トレーニング】の効果により筋力値を使用する行動にボーナスが加算されます!≫
おや?まだインフォは残っていたみたいだ。
【調査】がレベルアップ?
これってレベルアップで何が変わるんだろう?
後で調べてみようか。
「そういえば、その杖、変わった形をしてるな。」
「うん。なんだか、槍とか長刀みたいな感じ~?」
レベルアップ作業を終えると、二人が僕の武器に興味を示したみたいだ。
ふむ。木工所にはお世話になってるし、宣伝を兼ねて説明してみようか。
簡単に説明してみて、それでこれが出来たんです。っと、目の前に掲げてみる。
二人はスタッフをじっと見ている。
多分、【鑑定】をしているのかな?
「…ねぇ~?これ、ホントに木製よね~?」
「おいおい…。俺の剣と変わらん攻撃力あるぞ。」
二人は難しい顔になってそんな事を言っている。
触ってみたり、識別した内容を再確認しているが、僕としてはちょっと気分が良い。
何せ、苦心して作った逸品だからね。
驚かれたり、褒められるのは正直嬉しいよね。
「…これ、スクショいいかな?情報掲示板に載せたいんだが。」
「うん。これ、量産して売り出すって話なんでしょ~?これは情報見たら、欲しい人たくさんいると思うよ~。」
僕が了承すると、ジオさんはスクショを撮って、仮想ウィンドウを呼び出している。
これで、木工所の宣伝になるだろう。
より忙しくなるかもしれないけど、その時は僕もまた手伝えばいいのだ。
そういえば、ボアから剥ぎ取ったアイテムを【鑑定】していなかった。
見た目から毛皮だったけど、どんなアイテムかな?
アイテム:【ボアの毛皮】
種別:【素材:毛皮】
重量:2
レア度:C+
効果:防御性能+
備考:ボアから剥ぎ取れる毛皮。分厚く、未加工でも防御性能にボーナスが付く。皮の加工も容易。
うん、見た通りでした。
うーむ、コレはどうしよう?
皮の加工の仕方は流石によく分からない。
加工所にお願いした方がいいだろうか。
でも、折角なら自分で加工したいなぁ。
…近いうちに一度加工所を覗きに行って、加工の仕方を教わってみようかな?
うん、それがいい。
決めてしまえば後は簡単だ。
今はお蔵入りって事で袋に放り込んでおこう。
後の問題は、ボロボロになってしまったローブの事だな。
流石に替えが必要だが、販売所で売ってるローブはかなり高かったように思う。
自作するにも、素材もなければ素材を貰えそうなツテもない。
どうしたものかね?
まぁ、今日はどの道戦闘は無理だろう。
村の中を見て回って、ローブ代わりの装備が売ってないか見て回ろう。
二人に礼を言って別れてから、村の中を散策してみる。
まだ見てない建物なんかもあるが、服を売っていそうな場所はなかなか見つからない。
誰かに聞いてみようかな?
「ちょっと!嬢ちゃん!」
いきなり、後方から声を掛けられる。
振り向いた先には、ふっくらした感じのおばさんが立っている。
なんと言うか、見た目がある有名な映画に出てくる、パン屋のおばさんソックリだ。
ツカツカと近づいてきたおばさんは、僕のローブを見ながら「まぁまぁまぁ!」と、呆れた様な声を出している。
「こんなボロボロになって…何があったんだい?」
「あ、いえ、モンスターと戦って…。」
「それでこんなボロボロに?怪我は?どこか痛いとか無いかい?」
怪我がないことを伝えると、「そうかい。」と少し安心した様子を見せるおばさん。
しかし、再び難しそうな顔をすると、持っていたカゴからシーツみたいな大きな布を取り出す。
「とりあえず、コレを羽織っときな。ウチに一度おいで。なんか服を見繕ってあげるから。」
「え?は、あの。」
「いいから、コッチにおいで。」
なんと言うか、このおばさん押しが強い。
話す言葉は殆どコッチにかぶせ気味に発言しており、こっちの話す暇がない。
ガッっと腕を掴んだおばさんは早歩きに進んでいく。
コレは断るのは無理そうだ。
とりあえずついて行くだけついて行って、話だけは聞いておこう。
服が手に入るの自体は、望んでいることなのだから。
「ほら、ココがあたしのウチだよ。」
おばさんが連れてきたのは、村の西の方にある二階建て建物だった。
そんなに大きな建物では無いものの、周囲の家よりは一回り大きい。
何かの店をしているのか、看板が掲げてある。
そこには、『仕立屋 テリーヌ』と書いてあった。
あぁ、仕立屋さんなのか。
だから服を見繕ってって話になったのね。
「ほら、入った入った!」と、急かすおばさんに引きずられる様に店の中へ。
中は案外広く、テニスコートの半分くらいの広さはあるだろうか?
建物の一階部分を全て店に使っている様だ。
その広い店内には、ハンガーに掛けた幾つもの服が並んでいる。
洋服は勿論、ローブやマント、下着類も並んでいる様だ。
「そうだねぇ、嬢ちゃんなら…コレとかかねぇ…いや、コレでもいいかね?」
おばさんは商品だろう服をあれこれ見ながら悩んでいる様だ。
それはそうと。
さっきから『嬢ちゃん』と呼ばれてる事から察するに、おばさんは僕を完全に女だと思っている様だ。
「えっと、おばさん?僕は…」
「おばさんって言われるほど歳はいっちゃいないよ!テリーヌって呼んでおくれ!」
服から目線は外さず、そんな事を言うおば…テリーヌさん。
そうして、納得がいった一枚があったのか、それを持ってこちらに振り返る。
「あんたねぇ、冒険者じゃそれが普通なのかもしれないけど、そんなボロボロの服着てウロウロしてたら心配するのが当たり前だろ?ましてやあんたみたいな若い子がそんな格好してたら、尚更だよ!」
不満気な顔でこちらに歩み寄りながら、そんな事をテリーヌさんは言う。
む、むぅ。心配を掛けていたなら、それは申し訳ない…じゃない!
いや、まずテリーヌさんに伝えねば!
「あのですね!僕は…」
「いいから、先にそれを着ておきな!お代はいらないから心配するんじゃないよ!」
「あの、ですから…」
「ほら!早く!」
有無を言わせず服を持たせると、僕は更衣室に押し込められてしまった。
…お願いだから話を聞いて欲しいのです…。
「アッハッハッハ!そりゃすまなかったねぇ!まぁ、その服は一応兼用の服だし、あんたの見た目にゃ似合ってるんだから、もらって行きな!」
結局、服を着てしまってから、礼のついでに何とか説明する事が出来た。
しかし、コレが似合ってると言うのも少し複雑だ。
服は上下で一対のもので、白と青が基調になっている。
白のシャツに、ジャケットの様な袖のない青い上着。
留め具はボタンじゃなくて、リボンを通して留めるタイプだ。
下はいわゆるキュロットスカートだ。白地に裾の所に一歩の青のラインが引いてある。
僕から見れば、これは明らかに女物だ!
「そりゃ、そんな見た目に産んでくれた両親に感謝しつつ恨みな!」
アッハッハッハと、また笑いながら無理難題を言うテリーヌさん。
それにこの見た目を作ったのは両親じゃなくて機械の設定。
しかもその設定をしたのは僕自身だ。
ぐぬぬ。コレはこの服を隠すためにもローブを調達したい!
これじゃ益々女の子に間違われそうだ!
「あぁ、ローブも欲しいのかい?」
僕がローブのコーナーに視線を向けたのに気がついたらしく、テリーヌさんはそう言って、ローブのコーナーを見始める。
いかん!テリーヌさんに任せたらまた女物が出てきそうだ!
と、言うより、まずお金がないから買えないから!
「あ、あの、お金がないからローブはまた今度…」
「何言ってんだい。お代はいいよ!女の子に間違ったお詫びだよ!」
そう言って、奥の方から一枚のローブを引っ張り出してきた。
前部分を閉じて使うタイプのローブの様だ。
生地は藍色をしており、見た限りでは結構薄手に見える。
閉じる部分の合わせは生地を変えており、黒地に銀の文様が入っている。
首の所に留め具が付いており、それは金細工でできている様だ。
良かった…!女物っぽくなさそうだ!
でも、本当に良いのだろうか?かなり高そうな見た目なのだが。
「気にしないでおくれ!どうせウチに来るのは近所のおばさんばっかりでね。作ったは良いが、売れずに残ってたシロモノだからね!」
「在庫処分ってやつだね!」と笑いながら言っているが、本当に良いのだろうか。
なんか申し訳ない気持ちになる。
「…せめて、何かお手伝いになる事はありませんか?服まで貰って、ローブまで貰ってはなんだか申し訳ないです。」
「ん?気にしなくていいんだよ!私が好きであげてるんだから!…でも、そうだねぇ…。」
フフッと笑うと、テリーヌさんは店の奥に手招きする。
なんだろう?
奥には階段があり、そこをテリーヌさんが上がっていく。
僕がその後ろをついて行き二階に上がると、そこは作業場の様だった。
沢山の布や糸が置いてあるのだか、そこに1つ大きな器が見える。
コレは…染料か何かかな?
しかし、染料なら1つしかないのはおかしい気もする。
疑問を感じていると、テリーヌさんがその器をコンコンと叩きながら言う。
「こいつはね、『錬金触媒』ってヤツでね。コレを使うと、薄くても丈夫な布が出来るんだ。」
あぁ、コレが錬金触媒なのか。
見た目としては黒っぽい液体だ。
所々に、ラメの様にキラキラ光る粒子が見える。
しかし、木材にも使えて、布にも使えるのか。
錬金触媒ってのは便利だな。
「でだね、これは旦那が知り合いから貰ってきたのを分けて貰ってるんだがね、次の仕事にもっと欲しいんだよ。旦那に言って、同じ量貰ってきてもらえないかい?」
「それがお代替わりでいいよ!」と、テリーヌさんは言う。
しかし、旦那さん?
この錬金触媒に、知り合いから貰ってきたという話。
聞き覚えが、ある。
「えっと、旦那さんって、もしかして木工所のローダさんですか?」
「おや?ウチの旦那を知ってんのかい?」
テリーヌさんは少しばかり驚いた表情を見せていた。
と、言うわけで、木工所に着いたわけだが…。
「奥さんから頼まれまして…あの…ローダさん?」
「…ち、ちょっとゴメン…あと、あと2本…いや、3本…。」
相変わらずの忙しさの木工所。
ローダさんはその中ですごい顔をして杖を作っている。
僕よりも早い作業だが、それでもあっという間とは行かない。
コレはまだ時間が掛かりそうだな。
暫く、事務所で待たせてもらおう。
事務所には先に休憩に入っていた職人さん達が休んでいた。
雑談をしながら待つ事になったのだが、話題はこの服についてだった。
「それ、テリーヌさんのお手製だろう?」
「うん、似合ってることだし、貰ってやってくれないか?俺らからも頼むよ。」
なぜだろう?
てっきりこの格好を笑われるかと思ったのだが。
皆さんの顔に浮かぶのは、複雑な表情だ。
何があったのかと話を聞いてみると、「ローダさんとテリーヌさんには、俺らが話したことは内緒にしてくれよ?」と、話してくれた。
テリーヌさんとローダさんの間には娘さんが居たらしい。
『居た』と言うのは、既に亡くなっているからだ。
元々王都に住んでいたお二人は、家族三人で細々とだが、不自由はなく暮らせていたようだ。
ある日、娘さんが遊びに行ったきり、帰ってこなくなった。
街の人にも聞いて、警備隊にも頼んで探し回ったが、見つからなかった。
それから二カ月ほどして見つかったのは、娘さんが着ていたはずの、ボロボロになった血まみれの服だけだったらしい。
当然、何があったのか調べてもらおうとしたが、時間が経ち過ぎているのを理由に、まともな捜査もされなかった。
自分たちで調べても、何も分からずじまいだったようだ。
傷心の二人は、そのまま都会で暮らすのが嫌になり、ここに越してきたという経緯があったそうだ。
「特にテリーヌさんの落ち込みようは見ていられなくてね。」
「表面的には明るく振舞えてるが、その服が、まだ子供の事を引きずってる証拠さ。」
「この村には若い子はそう居ないんだ。特に、テリーヌさんの店の周辺ではね。だけどそんな若い子向けの服を、毎年必ずいくつか作っているんだ。…娘さんの誕生日にね。」
職人さん達は沈痛な面持ちで、話をしてくれる。
僕はと言えば、声こそ出していないが、大泣きである。
ダメなんですよ、こういう話。
ゲームだとは分かっていても、お二人のその時の気持ちを考えると涙が止まらなくなる。
ぐすぐすと、僕が鼻をすする音が響く中、コンコンっと、事務所のドアがノックされる。
「おまたせ、ステラ君。これが…?どうかしたのかい?」
ノックしていたのはローダさんだ。
事務所に入ってきたローダさんは、泣いている僕に気が付き、尋ねて来る。
僕はと言えば、上手く返事は出来そうになかったので、首を横に振って心配ないとアピールする。
周りの皆は、肩をすくめて、「自分たちにも良く分からない」と答えていた。
首を傾げつつ、ローダさんは優しげな表情で、僕が泣き止むのを待っていてくれたのだった。




