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ローダさんに礼を言って、加工所を後にする。
昼食はどうしようか。
あまり美味しくはないが、もう一つ携帯食があるので、これで済まそう。
無料なら、しっかり利用しておかないともったいない。
食べながら、森の広さを広域マップで確認する。
広域マップは100キロメートル四方となっている。
このフィールの村は、そのマップの中心から南へ20キロほどの地点にある。
そこから南は全て森となっているのだ。
かなり広い範囲で森が広がっている様だ。
と、マップの中央に何かマーカーが付いている様だ。
仮想ウィンドウをタッチして、確認してみる。
『王都・ヴァイオレッタ』と表示がある。
マップを見る限り、かなり広い町の様だ。
ふむ、レベルがそこそこ上がったらこの町を目指してみようかな?
マップ中央に大きながある。
これはイベントが発生しそうな匂いがします!
その為にも、森での戦闘を頑張ってみましょう。
村の中の、森側の出入り口へ到着する。
出入り口からは直接森になっており、一応ちょっとした道はあるようだ。
では、早速進んでみようか。
とりあえず、自分の装備を確認しておこう。
防具は最初に装備していた【初心者のローブ】のままだ。
武器は先ほど作った【オーク・スタッフ++】。
他に使えそうな物は最初の配布アイテムの中にあったポーションが一個だけだ。
一応、ポーションの効果を確認しておこうか。
アイテム:【ポーション】
種別:【消費:回復】
重量:1
効果:HP回復・小
備考:HP回復効果のある薬。効果は低いが、安価で容易に手に入り易く、初心者に好んで使われる。
≪【鑑定】のスキルレベルが上昇しました!≫
お?ポーションの鑑定をしたらスキルレベルが上がった?
でも、【鑑定】が上がって、何か効果が変わるのかな?
試しにもう一度ポーションを【鑑定】してみる。
アイテム:【ポーション(C)】
種別:【消費:回復】
重量:1
レア度:C
効果:HP回復・小
備考:HP回復効果のある薬。効果は低いが、安価で手に入り易く、初心者に好んで使われる。レア度のよっては上位のポーションと変わらない効果を発する物も存在する。
おぉ。レア度の項目が増えている?
それに備考も少し追加があるようだ。
ついでに杖とローブも確認してみよう。
アイテム:【オーク・スタッフ++】
種別:【武器:長杖・斧槍】
重量:4
レア度:C++
効果:攻撃力+6 魔法適正+1
備考:樫の木を使った長杖。【錬金触媒:硬化】により、より硬く加工されている。武器としても使用できる。先端部分を改良してあり、斧槍としても使用できる。また、魔法発動に適性がある。
アイテム:【初心者のローブ】
種別:【防具:ローブ】
重量:2
レア度:-
効果:防御力+2
備考:冒険者になりたての際に支給されるローブ。僅かに防御力がある。ユニークアイテムであり、レア度による能力の増減は存在しない。
む?ローブはユニークアイテムなのか。
確か、ユニークアイテムは自作できないアイテムの総称で、普通に作った物より効果が高いんだっけ?
これで効果が高いんじゃ、普通のローブはどれだけ効果が低いんだろう…。
今度、販売所を覗いてみよう。
とりあえず、鑑定もし終えたし、森に進んでみようかな。
いつまでも入り口で止まってるわけにもいかないしね。
さぁ、この杖の効果を確かめるとしよう!
と、張り切って森を進んで行くこと約5分ほど。
少し進んだ所で、他のプレイヤーを見かけた。
何やら、草むらに隠れて、息を殺している様だ。
どうしたのか気にはなるが、声を掛けて隠れる邪魔はしたくない。
少し迂回しようか。
そう思って振り返ったその瞬間。
ガササッ
草むらの一部が揺れ、何かが飛び出してきた!
「ぅわっ!」
思わず、握りしめていたスタッフを横殴りに振りぬく!
ゴキッっと嫌な音と、感触。
スタッフに当たった小柄な何かは、そのまま吹き飛ばされるように木の幹に当たり、ずるずると地面へ。
な…何だったんだ?
確認の為に、恐る恐る近づいてみる。
これは…ウサギ?
薄茶色の毛並みに、長い耳。
小柄なその姿はどう見てもウサギだ。
違う点を上げるとするなら、その体格に見合わぬ大きく発達した足だろう。
足の長さではなく、足の筋肉だ。
足の太さが胴体とあまり違いを感じない程太い。
これでは、座った時に体が横に大きくなって見えるだろう。
しかし、今は座っている姿を見ることは出来そうにない。
首が明らかに、向いてはいけない方向に向いている。
そのつぶらな瞳は虚空を見つめ、生気を感じない。
一瞬、普通のウサギを殺してしまったかと心配したが、杞憂の様だ。
こいつの上には敵性モンスターを示すマーカーが浮いている。
一応普通のモンスターだったみたいだ。
モンスター:【脱兎】
レベル:1
種別:野獣
備考:森に棲む兎型の野獣。名の通り、凄まじいスピードで逃げてしまう為、捕獲も討伐も困難である。
これは分かりやすい名前だな。
しかし、そんなすごいスピードで逃げれる奴が、何でこんな簡単に倒せたんだろう。
「おーい!大丈夫かい?!」
後ろから声を掛けられる。
先ほどの他のプレイヤーだ。
そう言えば、邪魔にならないように迂回しようとしていたんだった。
「あ、大丈夫です。すいません、邪魔しちゃいましたね。」
「いや、それは大丈夫だよ。こちらこそ、驚かせて済まないね。」
「?」
彼が誤る理由が良く分からず、首をかしげる。
彼は見た目としては、20代くらいの男性だ。
要所のみを隠すような皮鎧に、腰には剣を差している。
頭の上のマーカーの形を見ると、ファイター…戦士を表す、剣の形をしている。
プレイヤー:【ジオ】
種族:【ヒューマン】
クラス:【ファイター】
レベル:2
ジオ、というらしい彼は、僕の後ろ…脱兎が飛び出て来た方を見ながら、手を振っている。
「オレの仲間が向こうからそいつを追い込んでいたんだが、思ったより横へずれて逃げられたらしくてね。」
そうか、つまり、追い込まれてこっちに突っ込んできていたのを、僕が殴ってしまったのか。
それはそれで、獲物を横取りしたみたいで申し訳ないが。
「ごめんごめ~ん!思いっきり横に逃げられて…その子誰~?」
彼が手を振っていた方から、今度は女性が飛び出て来る。
ジオさんと似たような、要所のみを守る皮鎧。
手には一本のナイフが握られている。
頭上のマーカーは…弓とナイフ?確かハンターのマークだったかな?
プレイヤー:【杏子】
種族:【ヒューマン】
クラス:【ハンター】
レベル:2
「あ、すいません。ステラと言います。」
「お前が逃がしたウサギを、代わりに倒してくれたんだよ。」
頭を下げ、自己紹介をしておく。
その言葉に次ぐように、ジオさんが説明をしてくれる。
まぁ、倒したというか、交通事故の果てにウサギだけ一方的にダメージを負っただけだけど。
「そうなの?ごめんねー?まさか切株蹴って方向変えるとは思わなくって…。」
杏子さんは「たはは…。」と苦笑いを浮かべ、頭を下げる。
「いえいえ」と、こちらも頭を下げながら、二人の様子を見る。
ジオさんはスポーツ青年といった感じの見た目だ。
短く刈り込んだ髪は、少し赤みがかっている。
その顔は凛々しく、短い髪と相まって、快活なイメージをこちらに与えている。
対して、杏子さんは、なんというか、ふわふわしている。
髪は、パーマがかかったように緩いウェーブがかかっている。
その長さは相当長そうだが、ポニーテールにしているのでそこまで長くは感じない。
顔には軽く笑みが見られ、たれ目であることもあってか、ゆったりした印象だ。
なんとなく、二人の雰囲気が甘い気がする?
今も頭を下げながら肘で突っつきあってる姿は、関係性を察するには十分な材料だと言えよう。
これはなんか…耐えられそうにない。
早々にここからお暇しよう。
「あ、では、僕はこれで…。」
「あ、ステラちゃん。これ、剥ぎ取っていかないの~?」
その場を離れようとした僕を、杏子さんが呼び止める。
その手が指さす先にあるのは先ほどの脱兎だ。
「仕留めたのは君だから、剥ぎ取っておくといいよ。」
「私達はまた、別のを追っかけるから~。」
むぅ、そう言われて、いらないですとは言いにくい。
「そうですか?じゃあ、すみませんが、貰っていきます。」
断りを入れてから、モンスターの死体に手を向ける。
「『スキニング!』」
僕の呪文の宣言と共に、光の玉が僕の手から飛び出し、モンスターの死体に吸い込まれる。
ポンっとコミカルな音と共に、モンスターの死体がアイテムに姿を変えた。
このゲームでは、剥ぎ取りの方法は3つある。
一つは今みたいに専用の呪文を使って剥ぎ取る方法。
剥ぎ取り専用のアイテム、主にナイフの形をしているらしいが、それを死体に刺す。
そして最後に、自身の手で解体することだ。
それぞれにメリット、デメリットがあり、一度決めると途中で変更は出来ない。
僕のやっているこの方法でのメリットは、死体に触らなくても剥ぎ取りできる事だ。
この方法は死体から10メートル範囲内なら、どこからでも使用できる。
しかも、剥ぎ取りの知識がなくても使用できるのもありがたい。
ただし、これを使うには1点だけだが、MPを使う。
そして、他の方法より手に入るアイテムが少なくなってらしい。
MPが少ない前衛職や、アイテムをより多く手に入れたい商人系のクラスにはあまり向かない方法というわけだ。
剥ぎ取りの方法はキャラクターの見た目の設定の欄の下の方にあったみたいだ。
…まぁ、僕の場合、【適正決定】で適当に選んじゃったから、方法は勝手に決まってた訳だけど。
手に入ったのは、肉かな?
アイテム:【兎肉】
種別:【消費:食材】
重量:1
レア度:D
効果:―
備考:ウサギの肉。そのまま食べることは出来るが、調理しないと何の効果も得られない。味は鶏肉に近いが独特の臭みがある。
うん。やはり肉だ。
あんまり量はないが、携帯食を消費した現在、食材はありがたい。
では、お肉を持っといてっと。
「それでは、すいませんでした。」
「いえいえ~。頑張ってね~。」
手を振る二人に礼を言いつつ、別方面へと歩き出す。
とんだ初狩りになったが、まぁいい。
他のモンスターを捜してもっと奥まで進んでみよう。
それから暫く進んだ所で、足元の道が途切れる。
広域マップを確認すると、村から約3キロほど離れているだろうか?
ずいぶん進んだ気になっていたが、思ったより距離は離れていないようだ。
しかし、足元の道がなくなってしまうのは少し不安だな。
まぁ、広域マップに方角は示されるから、帰るだけなら問題はない。
むしろ、ここから先に人があまり立ち入ってなさそうなのが問題だ。
それだけ、危険なモンスターが居る可能性だってあるのだ。
仕方ないから、少し引き返してモンスターを捜そうか。
が、そうするには少し遅かったようだ。
道の途切れた先、草むらの中から何かが現れる。
…イノシシだな。これは。
サイズとしては体長は1メートル程だろうか。
体高は50センチほどだろう。
一般的な成獣サイズのイノシシに見える。
特に変わった所は見られないが、これもモンスターのマーカーが見られる。
モンスター:【ボア】
レベル:3
種別:野獣
備考:森に棲むイノシシ型の野獣。その突進は強力であり、注意が必要。
うん、やっぱりイノシシだ。
しかし、レベルがいきなり3と高い!
ちょっとの油断が命取りだ!
僕は手近な木に背中をつける。
これで背中からいきなり突進されるのは防げるだろう。
漫画なんかでイノシシ相手によくある、避けて木にぶつける方法は、実際には困難だ。
イノシシだって生きているんだから、当然だ。
正面に障害物があれば、見えているなら避けるか、止まって方向転換する。
何とかして、突進をさせないようにしないと。
こちらを見て、向こうも臨戦態勢の様だ。
ガッガッと地面を後ろ足で蹴りながら、今にも走りだしそうだ。
勝負は、向こうが走り出した瞬間だ。
僕はスタッフを両手で握りしめいつでも動ける様に後ろ足に重心を乗せる。
緊張感がピークになった時、ボアが動く!
彼我の距離は2メートルほど。
瞬くほどの一瞬で、僕が居た場所にボアがたどり着く!
はずだった。
動こうとしたボアの目前に、スタッフがある。
なんて事はない。ただスタッフをボアに向かって投げただけだ。
ボアは驚いたように一瞬、びくっと動きが止まる。
僕はその瞬間にローブを外し、ボアの顔面に引っ掛けた。
ボアはさらに混乱、暴れてローブを外そうともがく。
その暴れている隙に、スタッフを地面近くで握る!
僕は剣道の切り上げの要領で、そのまま顔がある辺りを殴りつけた!
当たり所が良かったらしい。
スタッフを振りぬく軌跡に、赤い線が走る。
ブギィ!と短く鳴く声を聞きつつ、振りぬいた勢いを殺しつつ、手首を返す。
スタッフの先端に作った刃先をその暴れる顔面に向け、片手で突きこむ!
今度は顔には当たらなかったが、体に刃先がめり込む。
しかし、片手では威力が足りないか!
一度手元にスタッフを引いた瞬間、体に衝撃。
ローブが顔面から外れたボアが、そのまま僕に突進してきたのだ。
助走は無かったが、それでも十分驚異だ!
痛い!めちゃくちゃ痛い!
でもココで手を止めてしまったら、死に戻るまで突進を食らうか、こいつを逃がしてしまう!
手に持ったスタッフの柄で、そのままボアの顔面を殴りつける!
偶然だったが、その柄の先はボアの眼球を捉えたようだ。
グシャリと湿った音と共に、僕の体は横に放り出される。
「げほっ!」
体に受けた衝撃に、咳き込んでしまう。
口の中に、鉄の味を感じる。
口を切った様子はないから、内臓からだろうか。
いけない!それより、ボアはどうなった?!
起き上がった僕は周囲を確認する。
スタッフはすぐ近くに。
ボアは木の近くに倒れこんでいた。
どうやら、片目にスタッフが刺さったまま突進した結果、木にスタッフが引っかかって内部を更に抉った様だ。
逃げられていなくて良かった。
手負いの動物は非常に危険だからな。
確実に仕留めておかなくては。
僕はスタッフを拾い、ボアに近づく。
ボアは脳を傷つけたらしく、もがいてはいるが起き上がれそうでは無い。
しっかりとスタッフを構え直し、先端をボアの、潰れた眼窩に向ける。
狙うのはその眼窩の先、脳だ。
更に脳にダメージを与えれば、確実に仕留められるだろう。
ふぅ、と軽く調息。
そして一気にスタッフを突きこんだ。
≪レベルアップしました!ステータス上昇を選択してください!≫
初のレベルアップのインフォメーションだが喜ぶ体力は残ってない。
一応剥ぎ取りだけは済ますと、一度木の根元に座り込む。
死ぬかと思った。
特に突進を受けてしまった瞬間は、死んだと思った。
勝ったとはいえ、満身創痍にも程がある。
一度の突進を受けただけで、僕のHPは4分の1も残っていない。
一気にHPが減るとステータス異常を起こすことがあるらしいが、今回はそれが無かっただけマシだろう。
目隠しに使ったローブは、牙に引っかかったり、スタッフで突いた所為でボロボロだ。
唯一無事なのは、武器であるスタッフだけだ。
かなり乱暴に振るったのに、へこみすらない。
これはあの錬金触媒ってやつの効果に拠る物なんだろうか?
それよりも、まずは回復しないと。今なら転んだだけで死に戻れそうだ。
木の傍に落としてしまっていた袋からポーションを引っ張り出し、一気に嚥下する。
妙に苦かったが、飲んですぐに効果が見られる。
突進を受けて痛かった腹部から、すぅっと痛みが引いていく。
HPバーも、おおよそ半分までは回復した。
とりあえず、これで一度村に帰るしかないな。
せめて回復しきってしまうか、回復アイテムを手に入れるまでは戦闘は避けよう。
レベルアップ作業は、安全圏に帰ってからにしよう。
インフォメーションを最小化し、立ち上がる。
敵に出くわしたらどうする?
逃げるか、逃げ切れ切れなかったら死に戻りだな。
僕はふらふらとした足取りで、帰路についたのだった。




