婿候補、登場!!
出ていってしまったレードック君の事をソーヤ様に相談しようと、街へと向かっていた私達は、山を少し下った所でピタリと足を止めた。
少し前から聞こえていた、カーンカーンという音の正体が、ここへきて明らかになったのだ。
目の前には、二種類の鎧を纏った数人の人々と、頭に手拭いを巻いた、大勢の職人風の人達が忙しなく動き回っている。
職人風の人達の何人かと鎧の人達の何人かは木の角材を肩に担いで運び、残りの職人風の人達はトンカチを手に釘を木の角材に打ち付けている中、少し離れた場所には何かの図面を見つめながらそれぞれに指示を出している職人風の人達の纏め役らしき男性と、鎧の人達の長らしき二人の男性がいた。
「な、何だろうね、これ……?」
「さあ……何かを、建設しているらしい、としか……」
視界の先で繰り広げられている作業をシュロールス君と二人で呆然と見つめていると、その視線に気づいたのか、やがて鎧の男性達がこちらを振り返った。
「ああ、これは……! 神子様でございますね!」
「申し訳ございません、気づかずに、失礼を致しました!」
次いで、慌てたようにそう言うと、直ぐ様こちらに駆け寄って来た。
近くに来た事で間近で見る事になったその二人は、銀の髪に深い青の目の男性と、金の髪に赤い目の男性で、それぞれ違う色の鎧を纏ってはいたけれど、その左胸に、揃いの小さな黒いハート型の模様を刻んでいる。
鎧にハートって……変わった装飾をしているなぁ。
そんな事を考えながら見つめていると、彼らは目の前まで来た途端、その場に片膝をつき、頭を下げた。
「お初にお目にかかります。私は近衛騎士団のコーシェム・ノイヤードと申します。神子様の御身を影ながらお守りする為、この山に不貞の輩が入り込まぬよう監視する任務を我が陛下より授かり、この場所に新たに建設が決まった検問所に配属されました。以後、お見知りおき下さい」
「同じく、大神官様より命じられこちらに配属となりました、神殿騎士団のシンフォム・ホークデンと申します。神子様のお住まいに繋がるこの場所は、我らがしかとお守り致しますので、どうかご安心下さい」
「えっ、け、検問所になるんですか、ここ? そ、それに近衛騎士様と神殿騎士様が揃って配属に……? ……そ、それは、何と言うか……きょ、恐縮です……ありがとう、ございます」
私はコーシェム様とシンフォム様、そして引き続き作業中の他の騎士様方を見回して、ひきつりそうになる顔を必死に押し留めながら軽く頭を下げた。
「ああ、いえ、神子様が礼を言われる事はございません。これは陛下より直々に賜った、栄誉ある任務ですので」
「そうですとも。それに、女神様の神子様をお守りする事は神殿騎士として重大な仕事です。それに自分が従事できるなど、この上ない幸せです」
「え、ええ……!?」
「「 では、申し訳ございませんが作業中なので、本日はこれにて 」」
お二人の言葉に戸惑っていると、コーシェム様とシンフォム様はそう言って、一度深く頭を下げると、スッと揃って立ち上がり、元の場所へと戻って行ってしまった。
あっ、あれ……私まだ、自己紹介してない……。
ぼんやりとそう思いながら去っていくお二人を見つめていると、ふと、その背中に紫色のハート型の模様がある事に気づく。
それはやはり左側で、私は何かが引っ掛かった。
何だろう……ハート……黒と、紫……?
首を傾げながらじっと背中のハート型を見つめ続けた私は、やがてふいにある事に思い至り、息を飲んだ。
……初対面の挨拶と自己紹介を終えると、ハートが黒から紫に変わるって、アレ、じゃない……?
む、婿候補……!!
「嘘、本当に!? あれ、でもソーヤ様にはハートなかったよね? てことはソーヤ様は違うって事……!?」
「ソーヤ様? 違うって、何がですか、トゥーハ様?」
「えっ、あっ、な、何でもないよ、シュロールス君? え、えっととりあえず、そうと知れたからには交流しなきゃ……っ、まずは自己紹介を……!! と、そうだ、レードック君の事も、あのお二人に相談してみよう! 行くよシュロールス君!!」
「? はい……?」
不思議そうに首を傾げるシュロールス君に何とか誤魔化して、私は再びお二人と話すべく、速足でその背中を追いかけた。




