第12話偽りのLV15、格上を蹴散らす
「あぁ? なんだ、てめえ」
“お楽しみ”を邪魔された男たちが、剣呑な目で俺を睨む。
リーダー格の男が、じろりと俺を値踏みし――ふん、と鼻を鳴らした。
「見ない顔だな。ソロか? 悪いこた言わねえ、見なかったことにして失せろ。痛い目、見たくねえだろ」
「その子を、放してもらおうか」
俺が静かに言うと、男は面倒くさそうに舌打ちして、
「はっ。正義漢気取りか。おい、そいつを鑑定しろ」
「あいよ」
仲間の一人が、俺に無遠慮な視線を向けてくる。
鑑定だ。
もちろん、こっちには“備え”がある。
偽装用ステータス──────────
クロウ
LV 15
(前衛剣士・ありふれた冒険者)
────────────────────
「……ぷっ。おい、聞いて驚けよ。こいつ、レベル15だとよ」
「はぁ? 15ぃ?」
「たかが15が、六人がかりの俺たち相手に、粋がってんのか!」
「ぎゃはは、いい度胸だ!」
男たちが、腹を抱えて笑い転げる。
――上等だ。
偽りのレベル15。
それを侮ってくれるなら、こちらとしては、願ったりだ。
俺は、返礼とばかりに、こっそり鑑定を返しておく。
ステータス────────────────
ガロ
LV 34
HP 410/410
ATK 620
DEF 380
・生得スキル
剣技 LV2 スタン攻撃 LV1
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なるほど。
このレベル帯の前衛は、こんなものか。
ATKとDEFだけなら、偽装なしの俺より、こいつのほうが上だな。
――だが。
それが、なんだっていうんだ。
「悪いが、俺は本気だ。今すぐその子を放して、二度とこういう真似をしないなら、見逃してやる」
「言ってくれるじゃねえか、レベル15。……おい、やっちまえ。半殺しにして、身ぐるみ剥いで、こいつも一緒に売り飛ばせ」
「へへっ、上玉が二匹だ」
三人の男が、剣を抜いて、俺めがけて突っ込んでくる。
その瞬間――
抜き身の刃が、こちらへ迫る。
その明確な殺意を前に、俺の腹は、すっと据わった。
――こいつらは、子どもを騙し、売り飛ばし、いざとなれば魔物の餌にしようとした連中だ。
この先、まっとうに生きるとも思えない。ここで放せば、また別の誰かが、同じ目に遭う。
ここは、法の届かない、ダンジョンの中。
襲いかかってきた盗賊を、返り討ちにして、いったい誰が咎める。
わざわざ、手加減してやる義理なんて、どこにもない。
「坊主。……目を、閉じてろ」
俺は、震える少年に短く告げると、迫る刃へ、静かに向き直った。
「――ウィンドスラッシュ」
俺の掌から放たれた、無数の風の刃が、突っ込んでくる三人を、正面から薙ぎ払った。
悲鳴を上げる間も、なかった。
剣を振りかぶった姿勢のまま、三人は、鮮血を撒いて、崩れ落ちる。
「な……っ、一瞬で、三人が!?」
「て、てめえっ……! なんなんだ、その威力は!」
残る三人――後衛らしい連中が、蒼白になって、慌てて詠唱に入る。
「サンダーランス!」「ロックバレット!」「ファイアボール!」
三方から、色とりどりの魔法が飛んでくる。
だが。
「遅い」
膝が抜け、身体が滑る。
俺の身体は、飛来する魔法を、紙一重で避けていく。
狙って避けるのではない。避けて“しまう”んだ。回避アップのスキルと、危険を勝手に逸らしてくれる幸運回避――その合わせ技が、俺に、一発も当てさせない。
「う、嘘だろ……全部、避けやがった!?」
驚愕に固まる後衛たちの懐へ、俺は一息で踏み込んでいた。
「終わりだ」
三人の眼前で、掌をかざす。
「サンダーランス」
貫きの雷槍が、後衛三人の胴を、まとめて撃ち抜いた。
どさり、どさりと、三人も、物言わぬ骸となって崩れ落ちる。
――終わり、だ。
六人が六人、ものの数秒で、地に沈んだ。
偽りのレベル15が、レベル30台の格上パーティを、たった一人で、皆殺しに。
「……ふう」
念のため全員に鑑定をかけ、息の根が止まっているのを確かめる。
後味のいい仕事じゃない。
人を手にかけたのは、これが初めてだ。前の生でも、一度もない。
だが、こいつらを生かしておく義理なんて、どこにもない。
情けをかけて放せば、また別の子どもが、同じ目に遭うだけだ。
少なくとも、これで、こいつらに泣かされる者は、二度と出ない。
それで、十分だと、俺は思う。
それを終えて、俺は、ようやく少年に向き直った。
彼は、採掘場の隅で、膝を抱えるようにして、震えていた。
「もう、大丈夫だ」
俺は、なるべく穏やかに聞こえるように、声をかける。
少年は、おそるおそる顔を上げ、俺を見た。
薄い眼鏡は、いつのまにか外れている。
その、蒼い、透き通った瞳が、じわりと潤んでいった。
「た、助け……て、くれた、んですか……? どうして、こんな……僕なんかの、ために……」
「たまたま、通りかかっただけだよ」
俺は、肩をすくめて、そう答えた。
本当は、通りかかったわけじゃない。
わざわざ、気配を殺して、近づいた。
でも、それを言うのは、なんだか気恥ずかしかった。
「うっ……うぇ……ぐすっ……」
張り詰めていた糸が切れたのだろう。
少年は、両手で顔を覆って、声を上げて泣き出した。
……参ったな。
泣いてる子どもの、あやし方なんて、俺は知らないぞ。
どうしていいかわからず、俺が立ち尽くしていると――
ふいに、「索敵」の端に、新たな反応が引っかかった。
青い光点が、ひとつ。
ものすごい速さで、坑道を、まっすぐこちらへ向かってくる。
その気配には、覚えがありすぎた。
「……嘘だろ。なんで、あいつがここに」
俺の呆然としたつぶやきは、坑道の暗がりに、静かに吸い込まれていった。
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次回は【20時】に更新します。
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