12 硝子の中
トップフレームに11011。
第3フレームに99899。
指示事項、288934576177。
レイヤーを重ねてフラクタル関数を追加。
テスト、スタート。
「わあ!」
夏希が思わず歓声をあげる。
トトがにっこり笑って、透明な円筒の中でくるりと回ってみせる。
「マユウがホログラム装置を作って立体にしてくれました」
「作ったのはラボの工作班だけどね。僕は形をデザインしただけ」
夏希が立ち上がって上から覗き込み、
「え? 消えた」と言って目を丸くした。
「ホログラムだから。この透明な円筒に投影することで、光の屈折を利用してあたかも中央にトトがいるように見せられるんだよ」
「すごおーい!」
夏希はあっちからこっちから見てみるが、透明な円筒を通している限り机の上に本当にトトがいるようにしか見えない。
夏希が描いたイラストの質感そのままに、手で触れられそうなほどの実体感があった。
「すごぉーい!」
夏希がもう一度そう言うと、トトが照れたような表情でちょっと視線を逸らしてもじもじした。
それから、ちらっと真悠の方を見る。
それを受けて、真悠がカバンの中をゴソゴソした。
取り出したのは白い箱。
「これ、夏希に」
「なに?」
「プレゼント」
「開けていい?」
「うん」
夏希がボール紙の箱を開けると、中から出てきたのは透明な筒の付いた小さなホログラム装置だった。
トトが投影されている装置の半分くらいの大きさで、手のひらに乗るくらいのものだ。
「ここがオンオフスイッチ。一度押すとオンになって、もう一度押すとオフになる」
そう言って真悠は指先で側面を押した。
「え? トト?」
円筒の中に小さなトトが現れて、くるり、くるり、と踊りはじめた。
「お話はできません。わたしの、ただの『踊ってみた』動画です」
大きい方のトトが少し自慢げに夏希に話した。
「30秒だけの動画ですが、エンドレスで再生できます。マスコットとしてナツキさんの部屋に置いていただけると嬉しいです」
しばらく目を輝かせて踊るミニチュアトトを眺めていた夏希が、ふと顔を上げて真悠を見た。
「ねえ、このホログラムって……真悠の画像でもできる?」
「お……踊るのは、ちょっと……」
夏希は笑い出した。
「そんなんじゃないよぉ。顔の部分だけで……にこって笑うだけでいい」
「技術的にはできるけど、人間で作るのはけっこう撮影が大変なんだ……。360度の画像が要るから、同時に撮影するカメラが何台も必要で……。そういう撮影所みたいな設備はラボにはないから。トトの場合はデータだけで作れるけど……」
「そっか……そうなんだ……」
「静止画なら同時じゃなくてもいろんな方向から夏希に撮ってもらえれば、そのデータで作れるけど」
「へえ。じゃあ、裸の真悠のホログラムもわたしがここで撮影したらできるんだ?」
ここ——は今年から夏希が一人暮らしを始めた部屋だ。
「よ……よせよ」
真悠が真っ赤になる。
「あはは」と夏希が悪戯っぽく笑った。
真悠もつられて笑う。
「ちゃんと実体がこうして会いにくるから」
「それじゃあ、わたしは失礼します」
そう言ってガラスの筒の中からトトがふっと消えた。気を利かせたようだ。
真悠はホログラム装置とタブレットの電源を切って、カバンの中にしまう。一応念のためだ。
トトはそんなことしないと思うけど。
ホログラムに表示されているのはトトのインターフェイス。膨大なコードを持つAI の本体は端末の電源とは無関係に遠く離れたラボの中で活動を続けていた。
テストは順調に進んでいる。
ベッドに並んで座ってから、ふと夏希が窓の方を見ると、少しだけ開いたカーテンの隙間から窓ガラスを通して月が見えた。
夏希は立っていってカーテンをシャッと閉める。
ガラスの窓はカーテンに覆われて何も見えなくなった。
部屋の明かりを消すと、テーブルに置いた小さなホログラム装置のガラスの中で、くるくるとエンドレスに踊るミニチュアのトトの動画だけが青白く光っていた。
生命が生き続けていくための営み。
こうした真悠と夏希の関係の深化は夏希が大学に進学した頃から少しずつ進んでいたのだが、なぜか幕田はそのことを知らないでいた。
もちろん、真悠も幕田が一時タブレットに盗聴アプリを仕掛けていたことなど全く知らない。
55791649733564677577&…………99899……
優先順位11011MI 313825……
レイヤー間のコンタクトを遮断。挿入F443191988…………




