11 友達以上……
幕田にはもう一つ心配事がある。
それはこれほどの機密を扱っている真悠が、この年になってもひどく子どもっぽいままであることだ。
一応、守秘義務については口が酸っぱくなるほど説明はしてあるが……。
柚子原夏希と何度か会っているらしい真悠が、ふと何かを漏らしてしまうのではないか。
しかし、そのあたりのことは真悠もさすがにわきまえてはいるらしい。
幕田は真悠のタブレットに盗聴アプリを仕掛けておいたが、真悠が柚子原に技術上の秘密や防衛省との関係を漏らすようなことはなかった。
柚子原との関係も、たまに会うだけでその後の進展はないようだった。
男女の仲というより、真悠にとってはトトを共通の「友達」とする仲間のような感覚らしい。
柚子原はどうもそうではないようだったが、そのあたりの感覚は真悠はまるで小学生並に鈍感だった。
幕田はこう見えて常識人だ。若い真悠がそんなことで大丈夫なのか? という思いもあることはある。
しかし、仮に真悠と柚子原夏希がそういう関係になったとして……このまま盗聴アプリのチェックを続けるのか?
幕田はなんだか自分がデバガメをやろうとしているような惨めな気分になって、しばらくして真悠のタブレットの中からそのアプリを消した。
入れるときも消すときも、こっそりとである。
そこに関しての真悠や柚子原に対する罪悪感のような感情は、なぜかこの男は持たないようだった。
一方、防衛官僚である幕田にとっては、真悠に友人が極端に少ないというのは安心材料でもあった。機密が漏れるリスクも少ないからだ。
幕田の中でも気持ちは揺れ動いている。
トトと柚子原夏希だけが友達——という真悠を少し心配する父親のような気分と、自らの構想を具現化する得難い手駒を握っているという防衛官僚の打算と野望との間で……。
真悠はトトのビジュアルを立体にした。
ホログラムである。
ホログラムの技術自体は、別に目新しいものではない。
平たい円盤みたいな投影機の周囲に透明な円筒形の筒が付いたもので、その筒の中の空間にあのイラストのトトが現れて立体になって動く。
筒の上から覗き込まない限り、360度どの方向から見てもトトが実際にその円盤の上にいるように見えた。
そのトトと会話しながら、真悠は幕田の出す課題に取り組んでいる。
新たな機能のテストは今のところ、幕田が許すラボのシステムの範囲の中だけで行なっている。
もっと広い範囲で行ったときどうなるかは、あくまでも少ないデータからの推測の域を出ない。そのことは幕田も不安に思っていたが、それでも今はまだ外に出すことはできないと考えている。
「もう少しだけ待ってくれ。条件が整ったら思う存分テストさせてやるから」
そう言った幕田に対して、真悠の返事はアサッテの方向ようなものだった。
「ねえ、このホログラム、夏希に見せてもいい?」
真悠はいまだにこうしたことまで幕田に判断を仰いでくる。
なんだかこういうところも子どものようだな……。と幕田は思う。真悠なりに守秘義務については理解しているのだろうが、どこまでがそれに該当するのか考えるのが面倒くさいのか、あるいはその判断力そのものがないのか……。
「かまわないよ。ホログラム自体は企業秘密でもなんでもない。ただあまりあちこちに見せて回ったりはするな。商業化したいなんていう変なヤツに興味を持たれても困る」
ホログラムの技術ではなく、トトというコンテンツそのものに極秘事項が含まれているのだ。
「うん。夏希だけに見せる」
真悠はまた子どもみたいな笑顔を見せる。
下の名前で呼ぶようになったんだな。と、幕田はこのときはそう思っただけだった。
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