表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪神絶対殺す  作者: 逢魔ヶぽこぽこ
プロローグ ~リセマラ勇者編~
PR
4/34

第4話 魔王との誓い


 遥か昔、まだ世界が若かった頃。

 この世界には創造の神、秩序の神、破壊の神がいた。

 ある時、秩序の神が疑問を抱いた。


「創造と破壊はワンセットなのに、俺の相手いなくね?」


 そうして創られたのが混沌の神【エントロピア】だった。


「退屈しないように世界を面白くしろ」という、極めて曖昧で責任の軽いポストを与えられたエントロピアは、真面目に火山を噴火させたり、片手間に大雨を降らせたりと、遺憾無く神の権能を発揮していた。


 そんな折、エントロピアがおにぎりを食べていたとき、ご飯粒が気管に入って盛大にむせたことがあった。


「カハッ、ゲホッ!! ゴフッ、オホォッ!! ……っ、……げほっ、ゴホッゴホッ!! はぁ、はぁ……っ、……ゲホッ! ……ゴホッ! ……おえっ!!」


 その時に飛び散ったご飯粒の一つが、後の人間種である。


 偶然産み落とされた人間はあっという間に増えていき、エントロピアはその目まぐるしい営みを夢中になって眺めていた。

 だが、ふと「勇者と魔王を誕生させて、大決戦を演出しよう」と思いついた。


 勇者と魔王は壮絶な戦いを繰り広げ、その物語は大勢の生と死を作り出したが、エントロピアは満足げだった。


「これこそが混沌だ」


 しかし、そんなことを数百回も繰り返すうちに、彼は気づいた。勇者はいつも正義で、魔王はいつも悪。それではただの予定調和ではないか。


 ある日、エントロピアは大胆な実験を行った。


「勇者の属性を『不幸』にしたらどうなるか試してみよう」


 結果、世界に新たな疫病が発生し、人類の半分が死滅した。そして病死した魔王に代わり、勇者が魔王になった。

 これまで静観していた他の神々も、あまりの不条理にエントロピアを呼び出し正座100年の罰を与えた。


 足のしびれに耐えるエントロピアだったが、しかしその目はいつになく輝いていた。


「ああ……これだ。これこそが予測不能だ」


 それ以来、彼の趣味は完全に変わった。

 圧政を敷く暴君を突然幼女に変えてみたり、スラム街の孤児に絶死の魔眼を与えてみたり、異世界から凡人(モブ)を拉致してみたり。


「さて、次のおもちゃはどんな反応を見せてくれるかのう……」


 エントロピアは雲の椅子に深く腰を沈め、白いひげを撫でながら思案する。


 彼を作り出した神々は「世界の理を捻じ曲げ、私利私欲に走るお前はもう邪神だ」と言い残し、この世界を見捨てて去っていった。


「ホスト勇者、次はどう落ちるか。楽しみじゃわい」


 邪神はそう呟きながら、今日も愉快そうに笑った。


 ◯


 異世界転生三回目ともなれば、S級冒険者になるのなんか簡単だ。

 最初のうちは、ホストみたいな格好で死体を浮かせてギルドに持ち込んだせいで、だいぶ変人扱いされたが。というか今もされている。


 けれど、強ければ話は別だ。


 ウルフに腕を食いちぎられた戦士に【ブラッディメアリー】をかければあら不思議、死にかけだったのが嘘のように飛び起きる。

 針を飛ばす【スティンガー】や、荷物や死体を運べる【エアメール】も便利だが、他にもいくつかカクテルを習得した。

 【モスコミュール】は衝撃波で岩を砕き、【アースクエイク】はその名の通り地震を起こして地割れに敵を呑み込ませる。

 あと、もう一つ隠し玉もあるけど、これは取っておき。


「カクテルって、もっとオシャレに飲むもんじゃないのかよ……」


 魔物たちを蜂の巣にしながら、俺は何度そうぼやいたかわからない。

 だが、そんな日々を続けるうちに、気づけば俺はA級、そしてS級へと駆け上がっていた。


 今となっては、ギルドで管を巻いてるガラの悪い冒険者たちが、俺を見ると道を開けるようになった。


 そんなある日。


 ギルドに戻った俺を見て、受付嬢が妙にかしこまった顔をした。


「邪神絶対殺すマンさん」

「どしたん? 話聞こか?」

「王城から召喚状が届いています」


 そういって封書を差し出す。


「あー……魔王討伐隊の選抜か」


 いつものやつだ。


「どうして知ってるんですか?」

「慣れてるから。それよりこの後暇? いいシーシャバー見つけたんだけど」

「えー、どうしよっかなぁ……邪神絶対殺すマンさんのことよく知らないし……」

「ねぇ、今夜くらいは俺に全部預けて甘えてみない?」

「……あ、行きたいのは山々ですけど、駄目ですよ。王城から呼ばれてるじゃないですか。そっちが終わってからにしてください」


 俺は肩をすくめてから、封書を受け取る。


「魔王倒してくるからさ、そうしたら一緒にシャンパン開けようね」


 そうして俺は、三度目の魔王討伐へ向かうことになった。


 ◯


 王城に呼ばれた俺は、豪奢な大広間で思わず足を止めた。


 赤い絨毯。高い天井。ずらりと並ぶ騎士と貴族。

 玉座には王と、その隣に王妃。


 そして、その少し下がった位置に――


「……セレスティナ」


 思わず声が漏れた。


 金糸のような髪。透き通るような白い肌。青い瞳。

 前々回の夢の中で、俺が結婚までした相手。


 もちろん向こうに記憶はない。

 だってあれは夢オチだったのだから。

 だが、俺にはある。あるのだ。


「勇者様?」


 セレスティナは俺を見ながら小首をかしげた。


「あ、いや。なんでもない」

「わたくしの顔に、何かついておりますか?」

「いや、そういうわけじゃ……」


 危ない。普通に動揺している。だが人格補正は、俺の気持ちなど嘲笑うように口を軽くした。


「ちょっと見惚れただけ」

「……え?」


 言った瞬間、自分で自分を殴りたくなった。枕に頭を突っ込んで叫び出したい。


「まあ。ずいぶんと仲良くなられるのがはやいこと」


 玉座の隣から柔らかな声がした。王妃だった。


「噂には聞いていたけれど、本当に華やかな方なのね」

「お褒めにあずかり光栄です、王妃様。ですが貴方の美しさの前には路傍の石も同然でございます」

「あら、口も上手いのね」

「商売柄」

「勇者では?」

「そちらはついでみたいなものです」


 王が「ついで?」みたいな顔をしたが、深くは突っ込まなかった。


 騎士団長が一歩前に出る。


「勇者よ。貴殿には魔王討伐隊の一員として、明朝より出立してもらう」

「はいはい、了解っす」


 王は咳払いを一つして、厳かに言った。


「そなたの武勇は聞き及んでいる。この国の命運、託したぞ」

「オッケー、全員無事に帰すから、心配しないで?」


 ◯


 王城を出発した討伐隊の道中は、拍子抜けするほど順調だった。

 魔物の群れが出れば俺の【アースクエイク】が飲み込み、負傷者が出れば【ブラッディメアリー】で即座に回復。


「俺たち、いらなくないか?」


 という声が討伐隊から出るのもしょうがないことだった。


 そして、あっという間に魔王城。


 さらに、あっという間に玉座の間の前に到着した。


 俺は扉の前で深呼吸し、それから振り返った。


「最後の見せ場奪って悪いんだけどさ、ここから先、俺が話してみるからちょっと待ってて」


 騎士団長が露骨に眉をひそめた。


「話す? 魔王と?」

「いや、ほら。交渉で済むならその方がよくない?」


 後衛の魔法使いが、信じられないものを見る目で俺を見る。


「お前みたいなやつが言うと信用できん」

「ひどくない?」

「男相手には露骨に塩対応しやがって。そういうのが一番(いっちゃん)嫌いなんだよ」

「あーね」


 俺は半ば強引に皆を下がらせ、一人で玉座の間へ入った。


 重い扉が閉まる。


 がらんとした広い空間の奥に、青い肌の魔王が立っていた。


「勇者、か」


 その第一声に、俺はぴくりと反応した。


「俺のこと知ってる?」

「一人で魔王に会いに来る者をそう呼んだだけだ」

「そっか」


 俺はバカラのワンドをくるりと回し、グラスを一つ作り出した。

 中には銀白色に光る液体が満たされている。


「今日は腹を割って話しに来たんだ。こいつはほんの手土産さ」


 魔王はグラスを見て、ふっと鼻で笑った。


「そいつは銀の弾丸(シルバーバレット)。狼男退治の逸話に由来するカクテルだな。近づいたらそれで俺を殺すつもりだろう」


 ありゃりゃ、バレたか。討伐隊に被害が出る前に、騙し討ちで終わらせようと思ったんだが。

 でも――


「なんで知ってるの?」

「有名な雑学だからな。俺は前世でクイズ王だったんだ」

「クイズ王が魔王なってんのかよ!」


 思わず突っ込んだ。


 魔王は少しだけ、口元を緩めた。


「貴様も妙な転生者らしいな」

「そっちもな」


 しばし沈黙。それから俺は、グラスを消した。


「なあ……」

「なんだ」

「お前が怖いものって、邪神だろ?」


 魔王の目が細くなる。


「なぜそう思う」

「白いひげのジジイに心当たりがある顔してる」

「……」


 魔王はしばらく黙っていたが、やがて低く吐き捨てた。


「ああ。白いひげを見ると、あいつに弄ばれて、この世界に閉じ込められた嫌な記憶が蘇る」

「やっぱりか」

「貴様もか」

「うん。めちゃくちゃ被害者だよ俺」


 そうか、勇者と魔王という立場の違いはあれど、俺たちは所詮、邪神のおもちゃなんだ。


「じゃあさ、あいつ殺そうぜ」

「……やるのか?」

「俺は殺る。だって邪神絶対殺すマンだから」


 魔王は「なんだそれ」と呆れたような声で言う。


「……実は一つ、長年温めていた案がある」

「なに?」

「協力者がいないと無理だった」

「俺で足りる?」

「どうだろうな。だがお前しかいない」


 俺たちはしばらく小声で話し合い、最後に同時に深くうなずいた。


「よし」

「ああ」


 そして次の瞬間、俺は大声を張り上げた。


「魔王ォォォ!! 覚悟しろよおお!!」

「来い、勇者よ!!」


 わざとらしいにも程がある芝居だった。


 でも扉の外で待っている討伐隊にも聞こえるように、派手に叫ぶ。

 俺は【銀の弾丸(シルバーバレット)】を放ち、魔王はそれを心臓で受けた。


「ぐ……っ」

「終わりだ、魔王!」


 俺が叫ぶと、魔王は小さく笑った。


「……頼んだ」


 その声は、俺にしか聞こえないほど小さかった。


 ◯


 王都に帰ったときには、すでに魔王の死は伝わっていた。

 大通りには人があふれ、勇者万歳の声が飛ぶ。

 王城では祝宴が開かれ、王は上機嫌で杯を掲げ、貴族たちは俺を取り囲んで称賛した。


「さすがは勇者だ!」

「魔王を討った英雄!」


 だが、そんな喧騒の中でも、俺の視線は自然と一人の姿を探していた。


 セレスティナ。俺の妻。


 やがて、バルコニーへ続く廊下の途中で、一人たたずむ彼女を見つけた。

 窓から差し込む月の光が、金の髪をやわらかく照らしている。


「本当に魔王を倒すなんて思っていませんでした」

「信用ないのかな、俺」

「それほど困難なことだと言いたかったのです」

「そっか。安心しました」


 俺が笑うと、セレスティナも控えめに笑った。


「あら。やっぱりこちらにいらしたのね」


 割って入ってきたのは王妃だった。扇で口元を隠している。


「勇者様は大人気ですこと。やっと話せると思ったら娘に取られているのですから」

「お母様……」

「ふふ、責めているわけではありませんよ。ただ、あまり遅くならないようにね、というだけ」


「でしたら王妃様もご一緒にどうですか?」


 う、何を口走ってるんだ俺は。


「俺の部屋でゆっくりと旅の話でもしますよ。自慢のカクテルをご馳走しましょう」

「魅力的なお誘いだわ。セレスティナ、良くって?」

「はい。お母様」


 ◯


 翌朝。


「――が、あああああああ!!」


 鼓膜を突き破らんばかりの絶叫に起こされた。

 跳ね起きた俺の視界に飛び込んできたのは、血走った眼を見開き、今にも発狂せんばかりの国王の姿だった。


「お、王様……!? 違うんです、これはその……」


 という俺の両脇には、ベッドシーツで裸体を隠すセレスティナと王妃。


「貴様ぁぁぁ! 我が妻と娘を同時に……この汚らわしいスケコマシがああああ!!」


 王の手には宝石がついた剣が握られていた。


「何が勇者だ! 死ね!」

「ちょ、待っ――」


 ドスッ、という鈍い音が部屋に響く。


 王は迷うことなく、隠すもののない俺の胸元へ剣を突き立てた。


「あ……がはっ……」


 視界が急速に赤く染まり、隣で悲鳴を上げるセレスティナと王妃の声が遠のいてく。


(おい、邪神……これもお前のシナリオかよ……)


 薄れゆく意識の中で、腹を抱えて笑っているであろうジジイの顔が浮かんだ。


 三度目の転生、完。


 ――そして、四度目の幕が上がる予感がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ