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邪神絶対殺す  作者: 逢魔ヶぽこぽこ
プロローグ ~リセマラ勇者編~
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3/34

第3話 俺は勇者になった


 そして俺は今、三度目の正直にすべてを賭けて、真っ白な空間のド真ん中で神様に詰め寄っていた。


「次こそ普通の能力にしてください」


 俺はびしっと指を突きつける。


 目の前の神様は、いつものように雲みたいな椅子にふんぞり返り、白いひげを撫でながら「ふむ」とうなずいた。


「よし、わかった。今回は変な解釈のない、普通の能力を授けよう」

「本当ですね?」

「本当じゃ」

「本当に?」

「しつこいのう」

「信用がゼロなんですよ!」


 神様は、にこりと笑った。


「では、今回おぬしに授ける能力は――『勇者』じゃ」

「お!」


 思わず声が出た。


「変な属性は嫌なんじゃろ? じゃから職業を授けよう」


 勇者。いい。めちゃくちゃいい。

 変なひねりがない。解釈の余地もない。

 剣を取り、仲間を集め、魔王を倒す。


「やっと……まともなのが来た……!」

「うむ。王道じゃろう?」

「最高です。もうそれでいいです。いや、それがいいです」

「では行ってこい」

「ありがとうございます神様! 今度こそ信じます!」


 神様がぱん、と手を叩く。


 視界が白く弾けた。


 ◯


 次に目を開けたとき、俺は町外れの草むらに倒れていた。


「いてて……ここは……」


 起き上がろうとして、まず違和感に気づいた。


 服が、妙に軽い。

 いや軽いと言うか、首周りの布が少なくてスースーする。


「……ん?」


 自分の体を見下ろして、俺は固まった。


 上半身は、胸元がはだけたヒラヒラのシャツ。白地に金の刺繍入りで、場違いに色気を主張している。袖は広がり、裾は長い。下はぴっちりした紫色のズボン。腰にはハイブランドのロゴが入った細いベルト。足元は先端がくるんと反り返った、どう考えても旅に向かない靴。


「なんだこの格好!?」


 全体的に、勇者や冒険者というより調子に乗ったホストである。


 都合よく近くにあった水たまりをのぞき込むと、そこに映っていた俺は、重め前髪のマッシュヘアをしたK-POPスタイルのイケメンだった。目元には泣きぼくろまで書き足されている。

 明らかに俺の希望を無視した"軽薄そうなイケメン"の姿になっている。


「どういうことだ……?」


 嫌な汗が背中を伝った。


 俺は震える手でステータスを開いた。



 勇者ホスト


 補正

 ・色気上昇

 ・アルコール耐性上昇

 ・責任感低下

 ・倫理観低下

 ・夜間能力値上昇


 装備

 ・グッチのヒラヒラ開襟シャツ

 ・サンローランのコーデュロイスキニーパンツ

 ・ルイ・ヴィトンのモノグラムベルト

 ・ルブタンの反り返り靴

 ・カルティエのトリニティリング

 ・ハリー・ウィンストンのダイヤモンドブレスレット

 ・バカラのワンド


 スキル

 ・カクテル魔法


「ホストってなんだよ!!」


 こんな勇者いるかよ!


「ばーか!! バカバカ俺のバカ~~!」


 また神様に騙された自分の情けなさに涙が出る。


 しかも装備欄の最後。


「バカラのワンドってこれ……酒混ぜるやつ(マドラー)じゃねえか!」


 箸でいいだろうが! 混ぜるだけなら!!


「ふざけてるだろ……」


 ……いや、待て。落ち着け俺。

 こういうのも、まあノリで押し切れば……「って違う違う!」


 一瞬、「せっかくだしモテそうでいいかも」みたいな考えが頭をよぎった。完全に補正の影響で性格が変わってきてる。危険すぎる。


 そのときだった。


「うむ、なかなか似合っとるのう」


 聞き覚えのありすぎる声が、背後からした。


「っ!」


 振り返ると、そこには白いひげの老人――神様が、何食わぬ顔で立っていた。


「お前ぇぇぇぇ!!」

「やっほ」

「やっほ、じゃない! なんだこれ! 普通の能力って言っただろ!」

「言ったのう」

「ホストになってるんだけど!?」

「なっとるのう」

「認めるな!」


 俺が詰め寄ると、神様は頭をかきながら、実に申し訳なさそうな顔をした。


「……ごめん我慢できんかったわ」

「クソが!!」


 知ってた。

 いや、薄々そうだろうとは思っていた。

 でも認めたくなかった。


「なんでだよ! なんで三回目まで来てまだ悪ノリするんだよ!」

「勇者って言ってからホストにするの、ちょっと面白いかなって」

「最悪だよ!」


 神様はけろっとした顔で、さらにとんでもないことを言った。


「だって、わし邪神じゃし」

「は?」


 思考が止まった。


「……え?」

「邪神」

「神様じゃなくて?」

「邪神も神じゃし」

「もしかしてその語尾って……」

「キャラ付けじゃし」

「最悪だ!!」


 俺は頭を抱えた。


 全部つながった。


 夢オチも、地雷も、ホストも。


 こいつ、最初から人をおもちゃにして笑っていただけだ。


「ふざけんなよ……!」

「思いっきりふざけとるぞ」

「死ね!」


 俺はバカラのマドラーを投げつけた。邪神はひょいと避けて舌をぺろっと出した。腹が立つ。憎たらしい。


「もういい! 別の能力にしろ!」

「ほう?」

「今すぐだ! 今度こそ、お前をぶっ飛ばせる能力にしろ!」

「物騒じゃのう」

「当たり前だろ! 希望は一つだ!」


 俺は邪神を指さして叫んだ。


「『神殺し』だ! さっさとよこせ!」

「ほほう」


 邪神の目が、愉悦で細められた。


「なるほどのう。ついに矛先がわしに向いたか」

「最初からそうすべきだったんだよ!」

「よかろう」


 ぱちりと邪神が指を鳴らした。


 ぼんっ、と煙が上がる。


「うわっ!?」


 俺の服が一瞬で消えた。

 いや、素っ裸になったわけじゃない。

 下半身には、白いまわし。

 上半身は裸。

 足も腕もむき出し。

 さっきまでのチャラいホスト装備から一転、今度は完全に相撲取りの格好である。


「なんでだよ!!」

「全力でぶつかるといえば、ぶつかり稽古じゃろ?」

「その理屈がわからねえよ!」


 さらに邪神自身も、すっと白いローブを脱ぎ捨てた。


 その下から現れたのは、年寄りの枯れ木のような肉体――そして、やはりまわしだった。


「では始めようかのう」

「何を!?」

「決まっておろう」


 邪神は、やけに堂に入った動きで肩を回し、首を鳴らし、四股でも踏みそうな姿勢を取った。


「わんぱく相撲横綱のわしに勝てるかな」

「絶対ろくでもねえええええ!!」


 俺の叫びが、異世界の空にむなしく響いた。


 俺の異世界生活は、最終的にまわし一丁で神と相撲を取らされるという、これまでで一番意味のわからない方向へ突き進んでいった。


 ◯


 ボコられて負けた。決まり手は『後ろ回し蹴り』。普通に反則だ。


「意味がなんもわからねえ……」


 俺はまた、ホストの格好をさせられていた。


 草むらに大の字になって寝転がり、空を見上げた。


「どうすっかな……」


 いや、もう今さら意味を求める方が間違っているのかもしれない。あいつは邪神だ。人をおもちゃにして笑うためだけに存在しているクソジジイだ。


 俺はむくりと起き上がり、さっき放り投げたバカラのワンド――どうみてもマドラーだが――を見た。


「……結局、今の俺の武器はこれだけか」


 細長いガラスの棒が、陽の光を受けてきらりと光る。


「確か、スキルがあったよな……」


 ステータスを開く。


 勇者ホスト


 補正

 ・色気上昇

 ・アルコール耐性上昇

 ・責任感低下

 ・倫理観低下

 ・夜間能力値上昇


 やっぱり終わってる。

 だが、見たいのはこれじゃなくて。


 スキル

 ・カクテル魔法


 うん、オシャンティーな魔法だな。

 あの邪神のギャグセンスは最低だが、夢属性も地雷属性も、最初はクソみたいな能力に見えて実は結構強かった。今回もそうかもしれない。そうであってくれ。


「よし、まずは試すか」


 俺は重い腰を上げ、人気のない林の方へ歩いた。

 途中、木の根元で死んでいる鳥を見つけた。すると頭の中でスキルが反応した。


「この死体に使えっていうのか?」


 ワンドをくるりと回す。

 すると先端に赤い液体がぷかりと浮かび上がった。すこしザラッと感があり、トマトジュースみたいな色だ。


「これがカクテルなのか……?」


 スキルが待機状態になり、頭の中に名前が流れ込んでくる。


「――カクテル魔法! 【ブラッディメアリー】!」


 なんか嫌な名前だな。

 俺はその赤い液体を、死んだ鳥のくちばしに垂らした。


 ぴくり。


「うおっ」


 鳥の足が動いた。

 そしてカッと目を見開いたかと思うと羽を広げ、ばさばさっと何事もなかったように飛び立っていく。


 呆気にとられる俺の目の前に、突如雑学じみた説明文が浮かび上がった。


 ブラッディメアリー

 ・ウォッカにトマトジュースを混ぜたカクテル。二日酔いに効く。


 俺は突っ込まずにはいられなかった。


「二日酔いっていうか、死者蘇生レベルだろ……」


 もうこれだけでも十分だが、攻撃魔法はないかと聞いてみた。


 スティンガー

 ・ブランデーにミントリキュールを混ぜたカクテル。シャープな味わい。


「あんのかよ攻撃魔法。えーと、針って意味だな。【スティンガー】!」


 目の前の木に向けて使ってみると、琥珀色の液体が現れ、文字通り針のようになって数百かそれ以上の穴を空けていった。


「地雷より威力は劣るが使いやすくていいな。それにしても、カクテルなら何でも魔法になんのかな?」


 もうこうなったら、どんなカクテルがどんな効果を発揮するか、検証タイムだろ。


「さて、そうなると的がいるな……」


 俺は薄暗い森の方を見ると、魔物を探して入っていった。


 ◯


 翌朝、一番近くの町の冒険者ギルドにやってきた。

 ただし、普通には来れなかった。


「いや、やっぱ目立つってこれ……」


 俺の後ろには、昨夜森で狩ってきた魔物たちの死体が、ふわふわと宙に浮かびながらついてきていた。


 ゴブリンが三匹。

 コボルトが二匹。

 巨大ムカデが一匹。


 白目をむき、だらんと舌を垂らしながら、風船みたいに浮いている。

 原因はもちろん、カクテル魔法だ。


 エアメール。ラム酒とライムジュースのカクテルらしい。

 俺の魔法においては、対象をふわっと浮かせて運べるようになる。


「便利だけど絵面が最悪なんだよなあ……」


 朝の表通りを、ホストみたいな格好の男が、死体の群れを引き連れて歩いているのだ。

 どう見てもまともな人間ではない。


 道行く人々が、さっと端に避けていく。


「な、なんだあれ……」

「新手のネクロマンサーか?」

「死霊の盆踊り」


 そこまで言うか。

 だが否定はできない。

 俺が逆の立場なら通報する。


 しかも人格補正のせいで、こんな状況でも口が勝手に軽くなる。


「ウェーイ! なぁにビビっちゃってんのー! ただの納品だから、そんなに固くなんないでよ! フ~!」


 ◯


 冒険者ギルドにやってきた俺は、全員の視線が突き刺さる中、開いていた受付カウンターにやってきた。


「えーっと」


 俺はできるだけ爽やかに言った。


「討伐証明、これでいけます?」


 受付嬢が恐怖に震えながら、恐る恐る口を開く。


「あ、あの、討伐というのは、そちらの魔物のことでしょうか……?」

「そ」


 俺は肩をすくめると、バカラのワンドをくるりと回した。

 すると宙に浮いていたゴブリンの一匹が、受付カウンターの前まですいーっと移動する。


「いっぱい穴が空いてるでしょ? これ俺の魔法のせい」

「グロっ! 丁寧に見せないで……!」


 受付嬢が半泣きになって抗議してくる。


「それに……ゴブリンなどは、耳を切り取ってくるだけでも証明になるんですが……丸ごとはちょっと……」

「ごめりんこ。ばっちいから触りたくなかったんだ。病気とか持ってそうだし」

「はあ……」


 受付嬢はまだ若干引きつりながら、書類を取り出した。


「で、では……お名前を」

「……」


 名前を聞かれて、俺は一瞬戸惑った。

 夢使いのナイトメア。

 歩く地雷原。

 ろくな二つ名がなかった過去が脳裏をよぎる。

 あれはそもそも、誰も俺の名前を知らなかったからだ。聞かれてもいないし。


 ……今さらだな。

 どうせ前世はただのモブだったんだし、山田太郎だろうが鈴木佐藤だろうがお前ら興味ないだろ。

 だから、俺の不倶戴天(ふぐたいてん)の決意を込めて、自分に新しい名前をつけることにした。


「あの……?」

「ああ、すみません。俺の名前は――邪神絶対殺すマンです」


 俺はパチっとウィンクした。うおっきもっ!

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