第2話 『地』と『雷』を組み合わせて最強の能力を得る
「今度はかっこいいのにしてください!」
神様は雲の椅子にふんぞり返り、白いひげを撫でている。
「じゃあ今度の属性は自分で選んではどうじゃ」
「いいんですか!」
「うむ」
そう言って指を鳴らすと、ぽんと何かの装置が出てきた。透明な球体の中で、色とりどりの光が渦を巻いている。
「属性ガチャマシーンじゃ。最近の若者はこういうのが好きなんじゃろ」
「偏見が古いんだよなあ」
とはいえ、ここで文句を言っても始まらない。俺は深呼吸して、レバーを引いた。
ごとん、と音がして、球が一つ出てくる。
神様がそれをつまみ上げ、もったいぶって告げた。
「出たのは――『地』属性じゃ」
「地味!」
反射で叫んでいた。
「地属性の地は地味の地でしょ!」
「字面で判断するでない」
「だって夢の次が地ですよ? もっと華がほしいんですよ!」
俺は手拍子しながら「もう一回! もう一回!」とおかわりを要求した。
神様は露骨に嫌な顔をした。
「……もう一回だけじゃぞ」
「やった!」
俺は即答した。ここで遠慮してどうする。二度目の人生だ。あ、いや三度目か。今度こそ派手でわかりやすい能力を引いてやる。
再びレバーを引く。
ごとん。
神様が球を見て、今度は少しだけ感心したように眉を上げた。
「ほう。『雷』属性じゃ」
「当たりだ!」
思わずガッツポーズが出た。
雷、いい。めちゃくちゃいい。音が鳴って光る男児の夢みたいな属性だ。
「勝った……今度こそ勝ったぞ……!」
「うむ。では地と雷、二つを持って異世界へ――」
「待ってください、二つとももらえるんですか?」
「そうじゃが。嫌なのか?」
「いやいや、ください。雷と地を操るなんて最高じゃないですか。太っ腹だなあ、神様!」
神様がぱん、と手を叩いた。
「では行ってこい」
「いってきまーす!」
視界が白く弾けた。
◯
次に目を開けたとき、俺は石畳の上に倒れていた。
「いてて……ここは……?」
汚れた路地裏。見上げれば、建物の隙間からのぞく灰色の空。前回より少し治安が悪そうな開始地点だ。
よし、今度こそ本番だ。
俺は拳を握りしめ、自分の内側にある属性の気配を探った。地の重さ、雷の鋭さ。二つの相反する力が、確かに俺の中にある。
「いいぞ……! 地で防御して、雷で攻撃。普通に強い組み合わせじゃないか」
そう思った次の瞬間、頭の中に妙な単語が浮かんだ。
地雷
「……へ?」
そこへ通りがかった、ごみ捨てのおばちゃんに哀れみ半分で見られた。
「お兄さん、朝から仕上がってるねえ……」
嫌な予感がした。
俺は近くの水たまりをのぞき込んだ。
「うわっ!?」
そこに映っていたのは、前回の俺ではなかった。
髪は銀色で目はなぜか青色。口の中に違和感があると思ったら舌ピアスがついていた。
そういえば服もなにか変だ。黒を基調にしたオーバーサイズ気味のシャツ。首にはチェーンがネックレスのようにかかっており、腕や指にもゴテゴテした銀のアクセサリーが付けられているし、爪には黒いマニキュアが塗られていてゾンビみたいだ。
全体的にダークで華美で、近寄ると面倒そうな圧がすごい。
「なんだこの格好!?」
俺は慌ててステータスを確認した。すると、そこには無情にもこう書かれていた。
属性:地雷
スキル
・地雷設置
・地雷探知
「合体してるーーー!?」
地と雷が、よりによってそっちの意味で融合していた。
「いやいやいや! 地属性と雷属性なら普通、帯電する岩とか、磁力を操るとか、そういう感じになるのでは!? なんで地雷なんだよ!」
そのとき俺の耳に声が響いた。
「言葉遊びが好きでのう」
「趣味で他人の人生を壊すな!」
空に向かって叫んでも返事はない。あのジジイ、絶対わざとだろ。
だが、嘆いてももう遅い。俺はとりあえず人気のない空き地へ移動し、スキルの確認を始めた。
「ええと……【地雷設置】」
地面に手をかざすと、魔力がじわりと染み込んでいく感覚があった。何もない土の下に、見えない"何か"が埋まっていく。
「おお……本当に地雷っぽい」
試しに近くの石を投げてみる。
カチ。
どん、と鈍い爆発が起きて土が跳ねた。
「危なっ!」
威力は高い。夢属性より格段に戦闘向きだ。だが、問題は明白だった。
「これ、自分から攻撃できないのか……?」
自分から能動的に仕掛けることはできず、相手が罠に踏み込む、あるいは接触するまで待機しなければならないという、あまりに受動的な戦闘スタイル。
「終わってるだろこの仕様!」
さらに悪いことにこの属性、地雷系への強制変換作用が働いているのか、時間が経つほど外見が歌舞伎町界隈に寄っていく。
生活感がなくなり、何をして暮らしているのか分からないのに、面倒事の気配だけには満ち溢れている。
最悪だった。
◯
それでも、使えるものは使うしかない。
俺は冒険者ギルドに登録し、低ランク依頼から始めた。最初の相手は森に出るコボルトの討伐。
だが俺の戦い方は、開始早々からおかしかった。
「なんで戦わないんだ?」
「いや、今ちょっと待ってるんで」
「待つ?」
「はい」
たまたま居合わせた冒険者が怪訝そうに眉をひそめる中、俺は森のけもの道にせっせと地雷を埋めた。そして茂みの陰でじっと待機する。
数分後、三匹のコボルトが現れた。
「ギャウッ!」
「来た!」
先頭の一匹が地雷を踏む。
どんっ!
爆発と土煙。悲鳴。
「おお……やった!」
……と、そこまでは完璧だった。
問題は二匹目以降だった。地雷を警戒して足を止めたのだ。そりゃそうだ。目の前で仲間吹っ飛んだら慎重にもなるわな。
「まずい、踏まない」
結局、石を投げたり、わざと姿を見せて挑発したりして、なんとか誘導した。勝ちはした。
「強いけど、戦い方がねちっこいな……」
「正々堂々としてない」
「危ない」
前回と同様で、同業者からの評判は散々だった。
◯
だが、地雷属性の本領は爆発だけではなかった。
ある日、盗賊団の討伐隊に参加したときのことだ。
頭目の男が、俺を見て鼻で笑った。
「なんだその格好は。なめてんのか?」
「好きでこうなってるわけじゃない」
「明らかにお前の趣味だろ」
俺がぐぬぬ……と言い返せなくなったとき、俺の中でスキルが反応した。
【地雷探知】
「……え?」
「おい、どうした。ビビって――」
「お前、どんな躾されてきたんだ?」
「はあ?」
「まともな親だったら息子が盗賊にはならないだろ」
「お母さんの悪口言うなあああああ!!!」
頭目の顔色が変わった。
俺も変わった。言った俺が一番びっくりしていた。勝手に口から出たのだ。狙ってないのに、相手の急所をえぐる言葉がするりと出てしまう。
「それに」
「やめろォ!」
「お前、実家に帰るたび『王都で金融関係の仕事してる』って説明、嘘だってバレてるぞ」
「やめろって言ってんだろおおおお!」
頭目は涙目で突っ込んできて、そのまま地雷を踏んだ。
どんっ!
爆発で吹っ飛ぶ頭目。残った部下たちは、俺を見る目を完全に変えていた。
「せつねえ……」
「爆発より先に心を殺しにきたぞ……」
「勝てる気がしねえ……関わりたくねえ……」
討伐は成功した。
その帰り道、同行した冒険者に真顔で言われた。
「お前、敵に回したくないタイプだな」
「自分でもそう思う」
勝ったのに、全然うれしくなかった。
◯
それから俺は、地雷使いとして名を上げていった。
地面に罠を敷き、相手が踏むまで待つ。踏まなければ精神攻撃で誘導する。踏んだら爆発。生き残っても心がずたずた。
戦果は上がるが、評判は下がり続けた。
「歩く地雷原」
「銀髪の悪魔」
「マッドピエロ」
それに地雷系強制変換も止まらなかった。日に日にブーツの底が伸びて厚底に成長し、朝起きたら鼻ピアスがついてて耳には安全ピンが刺さってた。なんだこれ。
血のように赤いリップを鏡で見るたび思う。
「俺、何を目指してるんだ……」
しかし、強さだけは本物だった。
オークの群れを地雷原に誘い込み、一網打尽。
空を飛ぶワイバーンには着地点を読んで爆破。
人型の敵には精神攻撃で足を止めさせ、そこを踏ませる。
やり方はえげつない。だが確実に仕留めていった。
そして気づけば、俺はまたしても魔王討伐隊に選ばれていた。
「なんで毎回こうなるんだよ……」
王都の広間で任命を受けながら、俺は遠い目をした。周囲の勇者候補や騎士たちは、俺から微妙に距離を取っている。
「こーんにーちわーぁ……ァハ」
気さくに挨拶してみたが、喋り方まで地雷系が進行していた。王様までドン引きしていた。
◯
魔王城への道中、討伐隊の空気は重かった。俺のせいで。
前衛の騎士が言う。
「お前の戦法、味方を巻き込まないだろうな」
「……多分、大丈夫っす」
「多分!?」
「いや、地雷の位置とか全部把握してるんで。一応」
「多分とか一応とかぼかすなよ! 言い切れ!」
「だるっ」
後衛の魔法使いはもっと露骨だった。
「あなた、見た目も含めて不安なんだけど」
「別に好きでこうなってるわけじゃないんで」
「絶対好きでしょ。振り切ってるもん」
魔法使いが俺を見上げながら言う。
「そういう服ってどこで買うの?」
「ヨースケ」
だれだよ。
だが魔王城に入ってからはそんなこと言っていられなくなった。幹部たちは強く、数も多い。まだ魔王のところについてないのに、討伐隊の消耗は激しかった。
俺は通路に地雷を敷き、敵を誘い込み、爆破し、精神を削り、なんとか前へ進んだ。
「お前、本当に味方でよかった……」
「しんどすぎて情緒バグってるじゃん」
「でも友達にはなりたくない」
「ちょっとマテ茶」
そしてついに玉座の間。
前回も見た魔王は、今回も圧倒的な威圧感を放っていた。青い肌。角。黄金の瞳。
「また人間どもか」
「今"また"って言った? 被害妄想?」
「気のせいだろ」
討伐隊が一斉に攻め込む。
しかしやはり魔王は強かった。剣は刺さらず、魔法はかき消され、仲間たちは次々と倒れていく。
最後に立っていたのは、またしても俺だけだった。
「ほう。奇妙な格好の人間よ。見た目以外はマシなようだな」
「開口一番それ? デリカシー無さすぎおつ」
俺は息を整え、玉座の間の床へ魔力を流し込んだ。
「……【地雷設置】。……逃げらんないよ」
見えない罠が、魔王の足元まで広がっていく。
「無駄だ」
魔王は悠然と歩き出した。
カチ。
どんっ!
爆発。だが魔王は、煙の中から無傷で現れた。
「威力が足りんな」
「うそだろ……! ガチで効いてないじゃん」
ならば【地雷探知】で精神攻撃だ。
「魔王さんって、犬とか虫を配下にしてるけど悲しくないんすか? 年収低そう(笑)」
「……勘違いするな。我は報酬のために魔王をしているのではない」
「え、無給なの?」
「使命でやっている」
「ボランティア?」
「強き者の義務だ」
「うっそ、効かないの!? 鋼メンタルなんだが!」
つ、強い。メンタルまで魔王だ。
俺は後ずさった。
「来い……来いよ……! 構ってよ……!」
魔王はゆっくりと近づいてくる。
一歩。
二歩。
三歩。
そのたびに地雷は爆発する。だが止まらない。魔王は爆炎を突っ切って、まっすぐ俺の前まで来た。
「受け身の罠師では、王は倒せぬ」
俺の胸ぐらを掴み、持ち上げる。
「くぅ……!」
そして投げられ、壁に叩きつけられた。
肺の空気が全部抜ける。視界が揺れる。体が動かない。
終わった。
結局、変な能力を押し付けられて、変な格好でここまで来て、最後は火力で負けるのか。
夢属性って、ひょっとして強かったのか……?
いや、だとしてもあれはいらない。
魔王が俺を見下ろす。
「哀れなものだ。では、とどめだ」
そして、倒れた俺の体を踏みつけるように、一歩前へ出た。
その瞬間。
カチ。
「「……あ」」
俺と魔王の声が、きれいに重なった。
「しまっ――」
どんっっっ!!
今までで最大の爆発が、魔王城を飲み込んだ。
白い閃光。轟音。熱風。俺も魔王もまとめて吹き飛ぶ。
意識が遠のく中、俺は思った。
ああ、これ。
爆発オチだ。
◯
「――で、どうじゃった?」
目を開けると、また真っ白な空間だった。
「……」
「おかえりなさい、じゃ」
「……」
「なあなあ。今回はちゃんと本番じゃったぞ?」
「うるせえええええええ!!」
俺の絶叫が天国に響き渡った。
「なんでだよ! なんで地と雷で地雷になるんだよ! しかも最後、自分ごと爆発ってなんだよ!」
「きれいにオチたじゃろ」
「ばーか!!」
「ンナッハッハッハ!」
「ばーかばーか! アホアホアホアホ!!」
神様は腹を抱えて笑っていた。こっちは全然笑えない。
「いやあ、わし我慢したんじゃぞ? かなり普通寄りにしたつもりじゃし」
「どこがだ!」
俺は肩で息をしながら、神様をにらみつけた。
「次だ。次こそ、本当に変な解釈の余地がない、普通の能力にしてください」
「というと?」
「言葉遊び禁止! 合体事故禁止! 見た目の強制変更も禁止! オチありきの能力も禁止!」
「注文が多いのう」
「当たり前だろ!」
神様はにやにやしながら、新しい本を取り出した。
嫌な予感しかしない。
だがこのときの俺は、まだほんの少し、1ミリだけ信じていた。
ここまで念押しすれば、さすがに次はまともな能力が来るだろうと。
――その期待が、またもやひどい形で裏切られるとも知らずに。




