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邪神絶対殺す  作者: 逢魔ヶぽこぽこ
ケットシー編
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22/34

第22話 パラダイムシフト


 精霊石の実験中に危うく死にかけた。

 こんなうっかりで死んだら、あの邪神(クソジジイ)になんて言われるか……。


 ――アホじゃのう――


 想像したらイラッとしたのでこれ以上考えるのはやめておこう。


 実験はめげずに続けることにした。


 次の日、俺はまた川原へやってきた。

 昨日の爆発で地面はえぐれ、周囲には焼け焦げた跡も残っている。

 改めて見ると、まるで爆撃を受けたようだ。

 なかなか危ないことをしたものだな。


 だが失敗は成功の母である。

 精霊石が爆発するという変化を起こせたことは、ある意味で大成功と言える。

 次はその変化を制御する方法を探せばいいのだ。


「よし。今日は昨日より慎重にいこう」


 誰に言うでもなく呟いて、俺は新しい精霊石をいくつか並べた。


 昨日の事故は、二度目の属性付与の際に、先に入っていた属性とぶつかったせいだと考えられる。

 つまり、内部で反発が起きて爆発する。

 他の属性ならどうなるだろうな。


 というわけで試してみた。

 水、風、土。


 水属性を入れた精霊石は、弾けた瞬間に大量の水を撒き散らした。

 小規模とはいえ、あれはもう洪水と言っていい。


 風属性は爆ぜた瞬間に突風を巻き起こし、周囲の草木をまとめてなぎ倒した。


 土属性に至っては、地面ごと巻き込んで土砂が噴き出す。


 効果はそれぞれ違うが、作用としては似たようなものだ。

 つまり、属性が持っている元々の性質が極大化されて、瞬間的に発揮される。


 ついでに違う属性同士でも試してみた。

 たとえば火の入った精霊石に水を入れる、とかな。


 しかしこれはうまくいかなかった。

 二つ目の属性を入れたところで、元々入っていた属性もろとも消失する。

 手元に残った精霊石を魔力鏡で観察してみたら、魔力を示す輝きも消えており、ただの小石になってしまった。


 どうやら爆発は、同じ属性同士の反発で起きるらしい。

 違う属性では相殺されてしまうのか、無効化されてしまう。


 俺は腕を組んで考えた。


 詳しい原理についてはさておき。

 この性質をどう利用するか、だ。


 初めに思いついたのは、このアイデアだった。

 精霊石に開けた穴へ導火線みたいなものをつけて、ダイナマイトのように使う。

 威力はそんじょそこらの魔法より高いし、遠隔で属性付与できるなら、使用者の安全は確保できる。

 悪くない。


 だが、すぐに問題に気づいた。


「そういや、高いんだよな。これ」


 精霊石は金貨十枚から十五枚とベルナルドが言っていた。

 そこら辺に転がってるから麻痺していたが、爆薬として使うには、あまりにも贅沢すぎる。

 一般にはまず普及しないだろう。

 そもそも、この世界には魔法がある。

 爆発を起こしたいだけなら、魔法でやった方が早い。


 となると、精霊石を使う意味があるのは――


 そこで俺の目が、精霊石に穴を開けるのに使っていた弓錐へ止まった。


「弓……武器か」


 俺は家へ戻り、自分の弓を持ってきた。

 ケットシーの子どもなら、誰でもおもちゃの弓くらいは自作している。

 だが俺のは特別製だ。

 複数の木を張り合わせ、動物の腱で補強した合成弓。

 小さいが、かなり飛ぶ。

 前世知識を使って、地味に頑張って作った自信作である。


 俺は矢の先に、加工した精霊石を括り付けた。

 重心は少し悪くなるが、飛ばないほどではない。


「いけるか?」


 弓を構える。

 狙いは、およそ三十メートル向こうにある岩だ。


 そして、矢を放つ寸前に、魔力を付与する。


「【ファイア】」


 弦を放す。


 矢は鋭く飛んでいき、岩に当たった瞬間――


 どんっ!


 大爆発した。


 岩の表面が砕け、破片が飛び散る。

 衝撃波で周囲の草がばさっと揺れた。


「これだ」


 思わず声が出た。


 上級魔法並の威力の矢を、遠距離から、静かに発射できる。

 あと、やろうと思えば連射も可能。

 それから、一番弱いファイアでこの威力なのだから、もっと強い魔法を込めれば……ちょっと怖くてできないな。


焙烙矢(ほうろくや)……震天矢(しんてんし)……なんて名前にしようかな……」


 これは秘密兵器になる。

 普通の兵士や冒険者が使うようになれば、戦場に革命が起きるぞ。


「とんでもないものを作ってしまったな」


 ◯


 泥だらけで焦げ臭くなった俺が家に帰ると、母がなんとも言えない顔をしていた。


「……また何かやったにゃ?」

「川原でトンネル作りを……」

「そうはならないにゃ」


 俺は母に言われて風呂に入った。


 それからいつも通り飯を食べ、母の服作りを手伝い、イチとニンとヨンと遊んでから寝た。

 こういう普通の時間があると、昼間に危ない実験をしていたことが急に遠く感じる。


 翌日からは、家で凧作りを始めた。


 街で買ってきた木材で枠を作り、蝋を塗った布を木枠に挟み込み、糸と針で縫い止めていく。

 竹があればもっと軽くてしなやかにできたんだが、この辺では見かけない。

 ないものは仕方ないので、工夫するしかない。


 糸が外れないようにしっかり留めたら完成だ。

 俺は凧を持って、兄弟たちと一緒に近くの丘へ登った。


 崖っぷちになっているところで、凧を持ち、優しく風の魔法をかける。


「【ウィンド】」


 手元からふわっと浮かぶと、丘を駆け上がってくる風に乗って、一気に空高く飛び立った。


「おおおお!」

「飛んだにゃ!」

「鳥にゃー!」


 みんなが大喜びで凧を追いかける。


 空中を自由に飛ぶ凧を見ていると、ふと思いついた。


 ……今の俺なら、空を飛べるかもしれないな。


 空中に飛び上がったあと、凧の翼を広げて滑空。

 もし失敗して落ちても、アビリティの落下ダメージカットがある。


 今度こっそり挑戦してみるか――。


「次飛ばしたい人~」

「「「はいはいはい!」」」


 順番に凧の操作を交代していく。

 最初は糸を引っ張りすぎたり、逆に緩めすぎたりしていたが、すぐにコツを掴んでいた。


 その晩は、三人に作り方を教え、自分の凧を作らせた。

 イチは色にこだわり、ニンは形にこだわり、ヨンは大きさにこだわった。


 性格が出るなあ。


「サン」


 母に呼ばれて顔を上げる。


「ん?」

「最近、楽しそうにゃ」


 母は布を縫いながら、ふっと笑った。


「そう……かも?」

「前は、ずっと難しい顔してたにゃ」

「そうだった?」

「そうにゃ」


 言われてみれば、そうかもしれない。


 ケットシーになるまでは、転生を繰り返し、邪神への殺意を募らせていった。


 でも今は、やることがある。

 守りたい場所がある。


「少しはマシになった?」

「さて、どうかにゃ」

「え?」


 母は何か言いたげな顔をしていたが、そのときの俺は気づかなかった。


 ◯


 五日目。


 突然だが、広場に鉄板を設置して、粉もの大会を開くことにした。

 参加費はタダということで村の暇な連中が集まってきた。


 まずは、ソシアリスの街で食べたガレット。

 小麦粉とそば粉を混ぜ、鉄板に薄く広げて焼く。

 具材は卵とハムだ。


「もちもちしてて旨いにゃ」

「100点にゃ」


 審査員席に座るイチとニンがコメントする。

 ヨンは俺の助手としてつまみ食いを担当している。


 次は、お好み焼き。

 麺を入れて広島焼き風にしてみた。


「ふわふわで旨いにゃ」

「100点にゃ」


 もんじゃ焼き。


「お焦げがチリチリで旨いにゃ」

「100点にゃ」


 粉と水を混ぜ、焼いて、具を入れて、ひっくり返して、また焼く。

 目の前で出来上がっていく料理に、ケットシーたちはかぶりつきで見つめていた。


 鉄板を囲んで、みんなではふはふ言いながら食べる。

 こういうのは雰囲気込みでうまいのだ。


「街にはこんな美味しいものがあるのにゃあ」


 母がしみじみと言っていた。


 ◯


 今日は何もしない日にすることにした。


 父さんの畑を手伝ったり、昼寝したり、庭先でお茶を飲みながら母と話したり。


 といっても、喋っているのはほとんど俺ばかりだった。


 ベルナルドを盗賊から助けたこと。

 商館で干物を売っていること。

 ダリアという女傑がいること。

 狼やゴブリンが出るということ。

 王都が大変なこと。

 女王が奮闘していること。


 夢中になって話していたら、ふと母が何も言わないことに気づいた。


「母さん?」


 母は湯気の立つ茶碗を両手で包みながら、静かに俺を見ていた。


「サンは、やりたいことを見つけたんだにゃ」


 不意にそう言われて、俺は言葉に詰まった。


「……まあ、そうかも」


 交易。

 商品開発。

 村の未来。

 そして、いつか――。


「王都っていうところに、行きたいんだにゃ?」


 どきりとした。


「いや、それは……」


 否定しきれない。

 母は、全部お見通しのような顔をしていた。


 交易がうまくいってきて、村のみんなにも保護区の話をした。

 やるべきことがある。

 俺にしかできないことだ。

 でも、それとは別に、王都のことが頭から離れない。


「でも、まだ村のこともあるし」

「うん」

「保護区にする話も、これからだし」

「うん」


 歯切れの悪い俺に、母は穏やかに言った。


「サンの仕事は、母さんが代わるにゃ」

「え?」

「街へは、母さんが行くにゃ」


「ええっ!?」


 思わずひっくり返りそうになった。


 母さんが街に?

 人間を怖がってた母さんが?


「ど、どうして?」


 母は少し照れたように笑った。


「息子の夢を応援するのが、母の務めにゃ」


 その顔は、いつもの優しい母さんの顔だった。

 だが、そこに俺の知らない強さがあることを、俺は初めて知った。

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