第21話 宝の山
ケットシー村に帰ると、案の定、くぐり穴の前は大騒ぎになった。
「サンが帰ってきたにゃー!」
「なんか連れてきたにゃ!」
「でかいにゃ!」
兄弟たちが真っ先に飛び出してきて、その後ろから村のケットシーたちもぞろぞろ集まってくる。
皆の視線は、俺よりもむしろ後ろのロバに釘付けだった。
「紹介する。ロバのセレスだ」
俺がそう言うと、セレスは耳をぴくぴく動かして、
「エッ!」
と鳴いた。
「しゃべったにゃ!」
「かわいいにゃ~!」
「耳が長いにゃ」
あっという間に囲まれている。
セレスは少し迷惑そうに耳を伏せたが、暴れたりはしなかった。
ロバっていうのは本当に気が長いらしい。
ちゃんと馴染めそうで良かった。
俺は荷車を広場まで引いていき、積荷を順番に下ろしていった。
食料やこまごまとした生活用品が中心だ。
村では手に入りにくいものばかりなので、荷を見ただけで皆の目が輝いている。
今回もお土産を配る方式にしたので、広場はすぐにお祭り騒ぎになる。
あっちで歓声、こっちで歓声。
「今日は、売れたやつにはちゃんと金もあるぞ」
そう言って、託された商品が売れたケットシーたちには、直々に代金を渡していった。
値付けをしてくれたのはベルナルドさんだ。
木彫りのアクセサリーや小さい人形は、珍しくてかわいいということで、思ったより評判が良かった。
押し花のしおり、ポーチや小物入れ、小さい服なんかも、子ども向けとして売れた。
磨いた瓶が売れたのは、正直驚いた。
ベルナルドさんは「程よく使用感があり、雰囲気がある」と言っていた。
ただのジャンク品だと思うんだが。
そして何より、今回一番儲かったのは――子どもたちの宝物だった。
「小石が、金貨三十五枚になった」
広場が、しんと静まり返る。
皆、指を折りながら「いくらにゃ……」と計算しようとしていた。
急に大きい金額を言われても、ぴんと来ないか。
俺は金貨の詰まった袋を取り出し、口を開いて見せた。
陽の光を受けて、金貨がきらりと光る。
「ほら、これが代金だ」
「こ、これが金貨にゃ!?」
「小石が!?」
「川原の石にゃあ!?」
大騒ぎである。
当の子どもたちも、ぽかんとしていた。
まあそうだろう。
拾った石ころが大金になるなんて、想定外だろう。
だが、さすがにそれをそのまま子どもに渡すわけにはいかない。
「相談なんだが、これは村の積立にしようと思う」
俺がそう言うと、何人かが首を傾げた。
「つみたて?」
「みんなの金ってことだ」
「なんでにゃ?」
「もともと村の近くの川原で拾った石だろ? だったら、村のために使うのが一番いい。と俺は思うんだが、どうだろうか」
村の大人たちが輪になって相談を始める。
子どもたちは、緊張した面持ちでその周りをうろうろしていた。
そしてしばらく話し合った結果、俺の案でまとまることとなった。
子どもたちも、よく分かってはいない顔だったが、みんなの役に立つならいいにゃ、と納得していた。
えらい。
すると今度は、別のケットシーが聞いてきた。
「じゃあ、サンの商売はどうなるにゃ?」
俺は少しだけ迷ったが、隠すことでもないので答えた。
「実は、この森を買い取るための資金にしている」
「森を……買う?」
「買えるのかにゃ?」
「なんのためにゃ?」
反応は様々だった。
基本、よく分かってないやつ。
感動しているやつ。
とりあえず驚いているやつ。
お金のことについては、みんな少しずつ理解が進んでいる。
だけど、土地の権利とか、許可とか、そのあたりはまだピンと来てないらしい。
俺はできるだけ簡単に説明した。
「未来のためだよ」
みんながこちらを見る。
「子どもや孫や、その孫の代まで、ここで平和に暮らせるようにするための方法だ」
こんな言葉で全部は伝わらないだろう。
でも、気持ちは分かってくれたらしい。
「おお……」
「すごいにゃ……」
「未来にゃ……」
いや、やっぱり分かってないかもしれない。
◯
そのあと、イチとニンとヨンと一緒に実家へ戻った。
セレスから荷車を外したあと、庭に放しておく。
「父さんの畑は荒らすなよ」
「エッ!」
返事だけはいいな。
家に入ると、母が何やら布を広げていた。
前に持ち帰った絹の布で、服を作っていたらしい。
俺たちが入ってきたのを見ると、慌てて散らかった布を片付け始めた。
「おかえりにゃ」
「ただいま」
俺は荷物の中から、今回持ち帰った新しい絹の布を取り出した。
しかも今回は、染色済みのやつだ。
鮮やかな色合いと、美しい光沢。結構お高いやつを選んできた。
「母さん、これ」
母は布を見た瞬間、目を丸くした。
「にゃっ……!」
色とりどりの布を見るや、顔を突っ込んで頬ずりし始めた。
すごい勢いである。
「ふわぁぁ……」
そんなにか。
いや、まあ、絹の布って滑らかでひんやりしてて気持ちいいいもんな。
「これは夏ものにぴったりにゃ」
さっそく頭の中で新作の構想が始まっているらしい。
母は布を撫でながら、完全に職人の顔になっていた。
父には、マタタビ酒はまだ売れてないと伝えた。
すると少しだけ残念そうにひげを揺らしていた。
「そうかにゃ……」
「いや、悪い意味じゃない。凄すぎて買い手を探すのが大変らしい」
「ほう」
それを聞くと、父はちょっとだけ胸を張った。
単純だな。
◯
それから俺は、しばらく仕事のことは忘れて、発明とか開発を始めることにした。
霊魚釣りと干物作りは、イチとニンとヨンに任せてある。
少し不安だが、まあ、ヨンがいるから大丈夫だろう。
最初にやったのは、魔力鏡を使った精霊石探しだった。
煙水晶のフィルターがついていることを確認し、俺は川原の石ころに魔力鏡を向ける。
すると、ぽつぽつと光っている石が見えた。
「うそだろ」
あれ全部、精霊石か?
宝の山ってこういうことを言うんだな。
もうそれだけでひと財産である。
俺は特によく光っているものから、淡いものまで何種類か拾い集めた。
たしか精霊石とは、強い魔力が込もっていて、魔道具製作に使われるとかなんとか。
俺は魔道具については素人だ。
俺の得意な魔法陣制作はいわば文系で、魔道具は理系みたいなもんだ。
たぶん。
とにかくジャンルが違う。
なので、こういうときは実験していくしかない。
試しに、遠くにおいた精霊石へ火の魔法を放ってみた。
「【ファイア】」
小さい火の玉が飛んでいって石に当たった。
しばらく見ていたが……変化なし。
触ってみても熱くない。
焦げ跡すらついていない。
今度は直接魔力を流し込んでみる。
だが、全然入っていかない。
……そうか。
もともと魔力が入っているから、これ以上は受け付けないんだ。
とすると、魔力を与える必要はない。
逆に、内部の魔力を引き出す構造がいるんだな。
「とりあえず、穴でも開けてみるか」
俺は家から工作道具を持ってきた。
自作の弓錐だ。
木と紐で作った手動のドリルである。
これで、穴を開けたい石に冷却水を垂らしながら、少しずつ地道に削っていく。
硬い石に少し手こずったが、小石の中ほどまで穴を開けることには成功した。
内部は見た目には特に変わったところはない。
だが、魔力鏡で見てみると、内側は外側の比ではないくらい光り輝いていた。
「へえ……」
削っても魔力が漏れ出たりはしないらしい。
次は、穴に魔力を入れてみる。
がしかし、入っていかない。
押し返されるような感覚がした。
じゃあ属性を付けたらどうだ?
「【ファイア】」
あれ?
魔法が発動しなかった。
というより、石にすんなり入った。
「……でも、これ、どうやって取り出すんだ?」
そのファイア石を木に向かってぶん投げてみたが、かつんといって普通に跳ね返った。
もう一発、魔法を入れてみるか。
「【ファイア】」
変化なし。
だが属性は――
「あ」
大爆発した。
革の水面に波紋が広がる。
地面がえぐれ、土と石が降ってくる。
俺は咄嗟に後方へ飛び、間一髪で助かった。
人外の反射速度がなければ、上半身が吹き飛んでいたところだ。
「精霊石、危なっ!」




