表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
邪神絶対殺す  作者: 逢魔ヶぽこぽこ
ケットシー編
PR
18/34

第18話 残心


 俺の持ってきた商品の査定は、もう少し時間がかかるらしかった。


 精霊石、東洞散、山精酒以外にも色々持ち込んだしな。


 ひとまず時間をくれということで、俺は暇つぶしに街に繰り出してみることにした。


 相変わらず今日も賑やかで、肩がぶつかって喧嘩する荒くれ者の声を聞きながら散策する。

 そんな中、歩いていて、俺はふと気づいた。


 ……なんか、やたら見られてないか?


 街行く人が、ちらちらと俺の方を見てくる。

 いや、二度見する人がいたり、子どもには指をさされてしまった。


 そういや、包帯ぐるぐる巻き姿って、ちょっとどころじゃなく目立ち過ぎるな。

 今さら気づいた。

 初めはナイスアイデアだと思っていたが、これだけ注目を集めると、段々恥ずかしくなってきた。


「……よし、服を見に行こう」


 そうしてやってきたのは、旅人や冒険者向けの、いわゆる防具屋だった。


 店の中には革鎧や籠手、旅用のブーツなんかが並んでいる。

 その一角に、耐毒装備や防砂マスクなど、顔を隠すための装備も置かれていた。


「おお、カッケー」


 俺はその中から、顔全体を覆うようなゴーグルを手に取った。

 丸いレンズが二つついた、ちょっと怪しい見た目のやつだ。

 革のバンドでサイズも調整できるらしい。


 これなら人面部分は隠せるだろう。

 あとは耳だな。

 耳は包帯で押さえて、フードを被っておけばなんとかなるか。


 俺が適当に見繕っていると、店の奥の方に見たことのある顔を見つけた。


 無精ひげを生やした、若い男だ。

 肩口までのシャツを着ていて、体格はがっしりとしている。

 背筋の伸びた、やや無骨な感じの――


「こんにちは」


 俺が声をかけると、男は振り向いた。

 そして、俺の顔――というか包帯を見て、ビクッと体を揺らした。


「……あんた、たしか」

「街道警備の人ですよね? この前、詰め所で盗賊を引き渡したサンといいます」


 男は「ああ」と思い出したようにうなずいた。


「あの時の冒険者か」

「いや、俺は商人ですよ」


 すると男は、そうは見えないが、という顔で俺を上から下まで品定めした。

 そして、手に持っていた革のベルトを棚に戻し、こちらへ手を差し出してきた。


「グレイだ」


 俺もその手を握り返す。


「どうも」


 せっかくなので、少し話をすることにした。


 グレイは、見た目通り無口な男だった。

 だが、話しかければちゃんと返してくれる。

 警備兵と言うより、実直な職人みたいな雰囲気がある。


 良いナイフの選び方なんかを立ち話したあと、俺は思いついて言った。


「一緒に飯でもどうですか」

「飯?」

「どこか美味しいところ教えてくださいよ」


 グレイは少し考えたあと、うなずいた。


「いつも行く食堂でいいか」

「もちろん」


 案内されたのは、警備兵や荷運び人足がよく使うらしい大衆食堂だった。

 高級感はないが、活気がある。

 肉の焼ける匂いと、黄金色の油が浮かぶスープの湯気が食欲をそそる。


 席につくと、俺は聞いてみた。


「酒にしますか?」

「いや、非番だ」

「非番っていうのは?」


 グレイに、そんなことも知らないのか、という顔をされた。


 俺、四歳だから知らないよ。


「……いつ招集がかかってもいいように待機しておく休みだ」

「それ休みなんですか?」

「違う」


 違うのか。

 大変だな。


「じゃあ水にしときましょう」


 俺たちは店員を呼んで、適当に料理を注文した。

 俺は肉の塊のロースト。

 グレイはパイ。


 食事が運ばれてきてから、俺はソシアリス周辺のことを尋ねてみた。


「この前、盗賊が出たじゃないですか」

「ん?」

「このあたりって、治安が悪いんですか?」


 グレイはパイを切り分けながら答えた。


「最近はな。王都の方から難民が来るようになったせいだ」


 俺は手を止めた。


「王都がダンジョン化したんでしたっけ。そのせいで?」

「ああ。何万もの人が住み家を失ったんだ。しょうがないことだ」


 そう言って、グレイは黙々とパイを食べる。

 俺も次の言葉が出なかった。


 自分のしでかしたことの重大さを、改めて突きつけられた気分だった。

 王都が落ちた。

 それだけじゃない。

 そこから溢れた人々が、地方の街に流れ込み、治安が悪化し、盗賊が増え、警備兵がそれを抑え込む。


 俺のやらかしは、今も波紋みたいに広がり続けている。


 針のむしろの気分だった。


「俺に、何かできることはないですか?」


 その言葉が出たのは、ほとんど無意識だった。


 グレイが顔を上げる。


「なに?」

「困っている人がいるなら、助け合うのが家訓です」


 いやそんな家訓ないけどね。

 でもケットシー村の皆なら、たぶんそう言うだろう。


「あんた商人だろ? 寄付でも炊き出しでもやったらどうだ」


 それもいいかもしれない。

 だが、俺は正直に言った。


「盗賊狩りとか魔物狩りの方が得意なんです」


 グレイがじっと俺を見る。


「それだったら、冒険者になればいい」


 ――夢属性。


 ――地雷魔法。


 ――ホスト勇者。


 うっ、頭が。


「冒険者は嫌いなんです」

「わがままだな」


 まったくその通りである。


「何か困ってることとか、ないですか?」

「ないわけじゃないが……」


 グレイは水を一口飲んでから、ぽつりと言った。


「そういえば」

「そういえば?」

「夜になると、街道に狼の群れが出るようになった」


 俺は身を乗り出した。


「そうそう、そういうの」


 グレイは嫌そうな顔をした。


「そのせいで夜間通行禁止令が出ている」

「なるほど」

「一応断っておくが、討伐しようなんて思うなよ」

「え?」

「狼の群れだぞ。夜だぞ」


 俺は少し考えた。


「それはダチョウの倶楽部的な振りですか?」

「は?」

「大丈夫ですよ。任せてください」

「いや、やるなよ? 絶対にやるなよ?」


 ◯


 ということで、夜になった。


 昼間に買ったゴーグルと、フード付きのローブをまとって街を出る。


 ――門が閉まっていた。


「まあ、そうだよな」


 夜間通行禁止令が出ているのだから当然である。


 俺は城壁に沿って人気のないところまで歩くと、助走をつけ、脚に力を込めて跳んだ。


 ひょい。


 簡単に壁を飛び越えてしまった。

 チョロいもんである。


 それから、月の出ていない真っ暗な街道を進む。

 人間なら足元もおぼつかない暗さだが、俺の目の暗視能力にかかれば真昼も同然である。


「よーし……そろそろいいか」


 ぷはぁ、と変装を解く。

 ゴーグルを首にかけ、フードを脱ぐ。

 耳に当たる夜風が気持ちいい。


 さて、まずは狼探しだな。


 俺は目に意識を集中して、暗闇の奥を見た。

 すると、木や岩の陰に、ちらちらと動く金色の光が見えた。


 狼の眼だ。


 一つ、二つ、三つ――。

 数えていくと、大体二十匹くらいの大所帯だった。


「多いな」


 まあ、どうにかなるだろう。


 俺は前傾姿勢を取ると、脚に力を込めて思い切り踏み込んだ。


 どんっ!


 地面が破裂するような音が響く。

 狼たちが一斉にこちらを向き、警戒態勢を取るのが見えた。


 だが、もう遅い。


 暗闇の中を一気に肉薄した俺は、先頭の一匹の横っ面に回し蹴りを叩き込んだ。


 めきっ。


 嫌な音がした。

 狼は悲鳴を上げる暇もなく吹き飛び、後ろの二匹を巻き込んで転がる。


 残りが牙を剥いて飛びかかってきた。

 俺は身を沈め、爪をかわし、腹に拳をめり込ませる。

 次の一匹は前足を掴んで振り回し、別のやつにぶつけた。


「「ギャン!」」


 犬っぽい悲鳴と吠え声が飛び交う。


 連携を取り始めた狼は、左右から、後ろから、次々に飛びかかってくる。

 俺は空中で三連蹴りを放ち、ことごとく撃墜する。


 更に風魔法で足元をすべらせるように移動しながら、一匹ずつ確実に潰していく。

 顎を蹴り上げ、首筋に手刀を叩き込み、背中に飛び乗って地面に叩きつける。


 途中で一匹が俺の腕に噛みつこうとしたが、逆に口をこじ開けて放り投げた。

 別の一匹は背後から飛びかかってきたので、振り向きざまに頭突きを入れた。


 目立たないように攻撃魔法は使ってないが、全く問題ないな。

 格闘だけで圧倒できる。


 最後の方になると、狼たちも完全に怯えていた。

 逃げようとするやつもいたが、ここで逃がすと人を襲うかも知れない。

 俺はあっという間に追いつき、まとめて仕留めた。


 気づけば、街道には狼の死体がごろごろと転がっていた。


「……終わったか」


 残心を保つ。


 息はほとんど上がっていない。

 最近、この身体のポテンシャルに気づいた。

 たぶん魔法なしなら一番強いだろう。


 そのあと俺は、せっせと狼の死体を街道警備の詰め所まで運んだ。

 二十匹分、なかなかの重労働だった。


 ◯


 翌朝。


 俺は詰め所から少し離れた岩陰に隠れて、警備隊の誰かが起きてくるのを待っていた。


 だがそれより先に、グレイが街の方からやってくるのが見えた。


 眠そうな顔で詰め所に向かっていた彼は、俺の並べた狼の死体を見た瞬間、あくびをした顔のまま動きを止めた。


「……は?」


 良い反応だ。


 グレイは狼と、周囲と、何度も見比べたあと、慌てて詰め所の中へ駆け込んだ。

 すぐに仲間を何人も連れて戻ってくる。


「なんだこりゃ!」

「全部、狼か!?」

「誰がやった!?」


 兵士たちも騒ぎ始める。

 グレイもその中で、ぱっと顔を上げて周囲を見回した。

 キョロキョロと、何かを探すように。


 ……勘がいいな。


 俺は物陰からこっそり顔を出すと、グレイにサムズアップを送る。


 グレイが『やるなって言っただろ』と口パクで言いながら地面を踏んだので、お約束通りに飛び上がっておいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ