第18話 凍土の温室で開く証言会
博覧会の翌々日、証言会は王都ではなく北辺で開かれた。
王宮側は最初、王都の会議室で済ませたがった。けれど北辺侯家が『真正株管理契約の保管地で行うべき』と譲らなかった。私はその判断に心から感謝した。王都の空気は、証言まで飾ろうとするから。
会場になったのは、修繕したばかりの北辺温室中央棟だった。ガラス越しの光の中、机の上へ帳面と契約書が並ぶ。花を育てる場所で、花を奪った話をする。その皮肉が少しだけ痛快だった。
証言者は四人。鍛冶師バルド、北辺の元文書係、王都の会計補助、そして前任監督官の元使用人。皆、最初は怯えていたが、帳面を突きつければ口を揃えた。
「鍵複製は王都の商会が急がせた」
「綴じ直し命令は王都側から来た」
「仮勘定は花の育成隠しに使われた」
「白い苗は夜だけ搬入された」
証言は綺麗に重なり、嘘の方が崩れていく。
リディアは最後まで『自分は知らなかった』と言い続けた。半分は本当かもしれない。彼女はいつも、自分に都合よく整えられた結果だけを受け取っていたから。
だが知らなかったことは、奪っていい理由にはならない。
カスパルは途中で観念し、複製鍵への関与を認めた。
「博覧会に間に合わせたかった」
「何を?」
私が問うと、彼は苦く顔を歪めた。
「君ではなく、成果を」
その答えで十分だった。私個人ではなく、成果だけが欲しかった。彼は最初からそういう人だったのだろう。
証言会の終わりに、王宮園芸局は正式に謝罪し、真正株の管理権を私へ戻したうえで、北辺との共同管理へ改めると決定した。リディアは博覧会補佐を外され、カスパルは王宮温室から更迭された。
温室の外へ出ると、北辺の冷たい風が頬を撫でた。私はようやく肩から何か重いものが落ちた気がした。
「終わりましたね」
「ああ」
レオンハルトは短く答え、少しだけ間を置いた。
「だが、まだ開いていない花がある」
彼が指した先、中央棟の奥で、白冠系試験株の一番大きな蕾がほころびかけていた。
私は思わず笑った。
「証言会の締めにしては、できすぎです」
「君の帳面に追加する項目が増えた」
私は頷く。
『真正株北辺試験株 初開花』
その一行を書けると思うだけで、胸が温かくなった。




