第17話 義妹の花は誰が咲かせたのか
審査卓の前には、思った以上に人が集まった。
園芸局長、博覧会会計係、来賓貴族たち、それから噂を嗅ぎつけた庭師見習いまでいる。リディアは笑みを保とうとしていたが、指先が白くなるほど扇を握り締めていた。
「北辺侯家より、出品花育成記録の照合申し立てです」
私ははっきり言った。
「対象は、王宮温室出品《白冠の朝》」
それがリディアの花の展示名だった。だが私は帳面を開く。
「この花の偽名は《白雪三号》。交配番号BC-17。採取者エルザ・ブルーメ。播種責任者も同じ」
ざわめきが広がる。私は復元した交配記録写しと、北辺の旧納品控え、王都の仮勘定帳を順に並べた。
「北辺温室から観賞用白花として出された苗は、王都で紋章花用へ差し替えられています。さらに王宮温室の種子庫鍵は、王都商会立会いで複製されていました」
「証拠が飛躍しています」
カスパルが割って入る。
「飛躍していません」
私は彼を見た。
「花名札の穴位置、納品番号、仮勘定帳、鍵の鍛冶記録、そしてこの交配番号。全部つながっています」
リディアが一歩前へ出た。
「でも、この花をここで咲かせたのは私ですわ」
「咲かせた?」
私は彼女の鉢へ近づき、下葉をそっとめくった。根元に無理な接ぎ痕がある。王都で急いで整えた証拠だ。
「あなたはこの株を開かせただけ。播いたのも、親株を残したのも、土を選んだのも私」
「花が咲けば同じでしょう!」
叫んだ瞬間、会場がしんと静まった。
私は静かに首を振る。
「違うわ。花は、咲いた瞬間だけでできていない」
言葉が、自分でも驚くほど澄んでいた。
「播種日も、親株番号も、交配回数も、夜の温度も、水の量も、全部積み重なってひとつの花になるの。見た目だけ奪っても、その花を育てた人間にはなれない」
局長が動揺した顔で帳面をめくり、会計係が仮勘定帳の番号照合を始める。後方から誰かが「番号が同じだ」と叫んだ。
さらに私は契約書を出した。
「そして真正株管理責任者は、母から私へ継承されています」
リディアの顔から色が落ちた。
「そんなもの……」
「北辺侯家保管の原本です」
レオンハルトが一歩前へ出る。場の空気が変わった。個人の姉妹喧嘩ではなく、侯家と王都の管理問題になる。
そこから先は早かった。局長は顔面蒼白で説明を求め、来賓たちは面白半分だった顔を真剣な好奇心へ変えた。
私はようやく息を吐く。
誰が咲かせたのか。
その問いは、花ではなく、そこへ至る時間そのものへ向けられるべきだった。




