第14話 破られた交配記録
真実は、綺麗な形で残るとは限らない。
翌朝、ハンネスが北棟の薪棚から破れた紙片を見つけてきた。燃やしきれずに挟まっていたらしい。焦げ跡だらけの細長い紙には、交配番号の末尾だけが読めた。
『BC-17 白冠母株×北土壌試験株』
私はすぐ母の花名札と照らし合わせた。北土壌試験株。つまり今、青磁鉢で生き残っている系統につながる記録だ。
「まだ続きがあるはず」
皆で薪棚と温床脇の焼却缶をひっくり返した。午後までかけて拾い集めた紙片を、私は机の上で並べ直す。欠けている箇所は多いが、断片から読める語があった。
『採取者 エルザ』
『播種責任 エルザ』
『仮名登録 白雪三号』
白雪三号。王都の博覧会準備棟の帳面で、観賞用白花として運び込まれていた偽名だ。
私は息を整え、断片の順を決めた。交配記録は裂けても、番号は裂けない。年月日と株番号があれば戻せる。
「復元できるのか」
レオンハルトが後ろから尋ねる。
「完全には無理でも、十分です」
「十分?」
「義妹が咲かせたと名乗っている花が、私の交配記録に載っていると示せればいい」
彼はしばらく紙片を見下ろし、やがて言った。
「帳面の人間は強いな」
「地味で執念深いだけです」
「その執念深さに助けられている」
真面目な顔で言うから、返しに困る。
夜更け近く、ようやく復元した記録の写しが一枚仕上がった。欠けたところはあっても、交配番号、偽名、採取者名、播種責任者名は揃った。十分だ。これで『偶然似た花が咲いた』とは言わせない。
私は写しを乾かしながら、ふと気づいた。
「燃やされたのは、北辺側の控えだけです」
「王都側にも原本がある」
「ええ。だから向こうは、誰も見つけないと思っていた。北辺の控えさえ消せば、私が証明できなくなると」
でも残った。薪棚に半分、私の執念で半分。
外ではまだ雪が降っているのに、温室の中だけは少しずつ春に近づいていた。青磁鉢の薔薇には、とうとう一つ目の蕾が付いている。
私はその蕾へ軽く触れた。
「王都へ行きましょう」
誰に言ったのか、自分でもわからない。花にか、記録にか、それともここまで積み上げた私自身にか。




